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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
第3部 帝都騒乱 ~魔女の血脈~ 1章 魔女の子と孫

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3-6 <星読みの塔>

 アグラシアで最も歴史ある占術の名門一派<星読みの塔>。

 だが、古い石造りの塔の内部はどこも見た目は質素で地味だった。

 その古く質素な塔に似つかわしくない美しい深紅のローブに身をまとい、アスカルは今日もあきれたように嘆いていた。


「なんで、こんなことも知らないんだ? 一応、グランドールで基本は習っているだろ?」


 オッペンを弟子にとってから、アスカルはこんなセリフをもう何回言ったかわからない。ほぼ毎日言っている。


「知らねー。習ってねーもん。だから、おれのせいじゃなくて、シャヒーン先生のせいだぜ」


 オッペンは、今日も自信満々にシャヒーン先生の名声をおとしめた。

 オッペンは部屋の中央に置かれた大きなテーブルに大きな占術の本を広げて勉強中だ。

 <星読みの塔>の修練プログラムは、本来、座学より修行の方が多いが、オッペンは基本を知らなさ過ぎて、いまだ勉強中心の日々だ。


 アスカルは、忙しい中でも時間を割いて、毎日オッペンの勉強を見てやっていた。

 塔主自ら教えなくても、と周囲の人間に言われつつ。アスカルは「こんなひどいのを他の者にまかせられるか。シャヒーンの懇願(こんがん)に負けて引き取っちまった責任とって、自分で教えるよ」と言っていた。

 人望だけで塔主になったと自称するアスカルは、面倒見がいいことで知られている。


 開けっ放しのドアのところでノックの音が響いたと思うと、占術士のリリファがあわてて室内に入ってきた。


「アスカル様、大変です。ウェルグァンダルの塔主が、エレイさんのところに」


 アスカルはテーブルにもたれかかりながら面倒くさそうに答えた。


「ガリにはフリーパスをだしているだろ。エレイの数少ない……たぶん、唯一の友達なんだ。エレイは外に出られない分、友人にくらい自由に会わせてやれ」


 リリファは心配そうに説明した。


「でも、今、エレイさんのところに、ホスルッド様が来てるんです。このままでは鉢合わせしてしまいます。召喚士が殺された件で<白光>とウェルグァンダルは今、一触即発、すでに水面下で戦争が始まっているという話も……」


 アスカルは頭をふりながら言った。


「ほっとけ。あいつらだって、ここでドンパチ始めるほどバカじゃない。だいたい、ウェルグァンダルは、<白光>相手にやり返す気はないはずだ。町の一つや二つ、一瞬で消し飛ばせる奴らが本気で戦いだしたら、大惨事になる。そんな大事(おおごと)になるなら、うちの占術士の誰かがすでに予見しているはずだ」


「ユウリの師匠とイーアの師匠って仲悪いのか?」とオッペンは思った。……だけでなく、口にだしてつぶやいていた。

 アスカルはオッペンの方に振り返り、同情するように言った。


「そうか。殺された召喚士はお前の友達だったな」


 だけど、オッペンは気楽な調子で答えた。


「あー。でも、おれ、イーアが死んだって思えねーんだよ。だって、おれが占うと、またイーアに会えるってでるんだぜ。なんか、そんな気がするしよ。だから、おれはまた会えるって信じてるんだ」


 アスカルは片眉をあげた。


「ほう?」


「ま、占いなんてあてになんねーけど」


 そういって勉強に戻る占術士見習いオッペンに、アスカルは肩をすくめて言った。


「まぁな。100パーセント当たる占いなんてない。だが、お前の未来予知の素質はエレイに次いで強いからな。案外あたっているかもしれない」


「そういや、エレイって誰だ? おれ、会ったことねーな」


 そうオッペンがたずねると、アスカルは言った。


「今の<星読み>だ」


「<星読み>?」


「この塔で一番未来予知能力が高い占術士さ。そのため、エレイには許可を与えた者しか会えない。誘拐(ゆうかい)の危険があるから、外出許可もなかなか出せない」


 オッペンは思わず叫んだ。


「んげっ。こんな陰気くせーところにずっと閉じこめられてるってことかよ! そいつ、むっちゃ、かわいそーじゃねーか!」


 「エレイさんをそいつ呼ばわりしないでください!」と後ろでリリファが怒っている中、アスカルはうなずいた。


「まったくだ。こんなところにいると気が滅入(めい)る。だから、どんどん外出許可を出すように塔の方針を変えたんだが。エレイの場合は安全確保が難しい上に、本人が外出したがらないのさ。<代償>で、視力と身体能力の多くを失っていて自由がきかないうえに、人の思考を読む力があるせいで、外は外でつらいらしい」


 オッペンはそれを聞いて思い出した。


「そういやさ、ししょー。こないだ<代償>と<制約>っての教えてくれただろ。<代償>は何かを犠牲(ぎせい)にすることで、<制約>は能力の一部をしばることで、能力をあげることができるって。で、おれ、試してぇことがあんだけどさ」


 アスカルは天井の隅を見ながら、しかめっ面でつぶやいた。


「ろくな予感がしないねぇ。なにせ、お前は素質だけならエレイに次ぐくせに、どの占術士に聞いても将来おまえが<星読みの塔>を支える占術士になるって結果がでないんだ。まったく、教えがいのない弟子だよ」


 そんな占術士になる気が欠片もないオッペンは、アスカルのぼやきに自信満々にうなずいた。


「まぁな。で、おれがやりてーのはさ。<制約>で、未来予知の力を縛って……」


 アスカルは最後まで聞かずにうなずいた。


「うむ。聞かなかったことにしよう」


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