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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
第3部 帝都騒乱 ~魔女の血脈~ 1章 魔女の子と孫

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3-1 アラムの生活

 イーアは大きなお庭をぶらぶら散歩していた。きれいに手入れをされた美しい庭園がどこまでも広がっている。


(はぁ……アラムのふり、つかれるよ……) 


 イーアがアラムの体に入ってしまってから、もうけっこう日数がたつ。

 突然、貴族のお坊ちゃんになっちゃったから、イーアは最初はどうすればいいかわからなくて大変だった。

 アラムは7年以上ずっと寝たきりで意識がなかったらしいから、多少の変な言動はそのせいにできたけれど。

 つい自分のことを女の子だと思って発言してしまったり、アラムが知りもしないことを言いそうになったり。「まぁ、おぼっちゃま。お下品な」と言われることも多くて……。


 そしてなにより、この館の主は、イーアの宿敵、ギルフレイ卿。今、イーアは敵陣真っただ中に潜伏中、一歩間違えれば殺される状況……のはずだ。

 でも、ギルフレイ卿は一度会ったきり、この館に帰ってきていない。

 だから奇妙なことに、イーアはギルフレイ卿の家でのんびり暮らしていた。


『本物のアラムはどうしちゃったんだろ。何か知ってる? チルラン』


 周囲には人がいないから、イーアは精霊語でそばにいる青いチルランにささやいた。

 この館の中には青いチルランが出現していた。『友契の書』をもたない今のイーアは召喚できるはずがないのに。

 以前からいっしょにいる青いチルランなのか別のチルランなのか、はっきりしないけど、でも、なんとなく、ずっといっしょにいるあの青いチルランのような気がしていた。


 実は、精霊はみんなに姿が見えるわけではなく、精霊の種族によっては、人によっては見えない。

 チルランは見えない人も多い妖精らしい。

 だから、青いチルランがあちこちふらふらしていても、館の使用人たちは気にしていなかった。

 たまに目をこすって首をかしげている人もいるから、見える人は見えているみたいだけど、半透明なチルランは、ぱっと見、小さな光でしかないから、見まちがいだと思ってあまり気にしないみたいだ。


 館の前に広がるお庭はとても大きい。だけど、この館は帝都近くにある別邸で、領地にはもっと大きなお城があるらしい。


(貴族の生活ってわけわかんないよね。こんな大きなお庭いらないのに)


 イーアがふらふら歩いていると、奇妙な音が聞こえてきた。

 音の聞こえる方に向かって進んでいくと、大きな剣で素振りしている大男がいた。

 突然、その大男がこっちにふりむいた。


「いよう! アラム! 久しぶり! めざめたんだってな! って、だからここにいるんだよな!」


 イーアは大声にびっくりして、とまどった。

 この人はアラムの知り合いらしいけれど、イーアははじめて会う人だから、どう反応すればいいのかわからない。


「あ、あの……」


 大男は重たそうな剣を片手でひょいと肩にのせると、こっちに近づいてきて、そして、遠慮なくバンバンとイーアの、つまりアラムの、細くてすぐに折れそうな背中をたたいた。


「なんだ、俺のことを忘れちまったのか? バルゴおじさんだ。来いよ。回復祝いだ!」


「えっと……はい……」


 アラムの知り合いらしいので、断るのもまずいかと思って、イーアはうなずいた。

 だけど、大男に連れられ近くの小屋に向かいながら、イーアは思い出した。

 メイド長のおばさんがこんなことを言っていたのだ。


「いいですか。おぼっちゃま。お庭には、一か所だけ、いえ、一人だけ、ぜったいに近寄っちゃいけない下品で野蛮な男がいます。絶対にあの男とは口をきいてはいけませんよ。まったく、あの恥知らずな男は、旦那様のご厚意に甘えて庭に住み着いて……ただ飯くらいの……」


 メイド長のおばさんはぶつぶつといっぱい文句を言っていたけれど、肝心のその男の名前は教え忘れていた。でも、イーアは悟った。


(あ。あれ、たぶん、この人のことだ……)


 でも、下品なだけなら無害だ。どうせイーアも貴族と比べたら下品だ。

 イーアは歩きながら大男にたずねた。


「あの、バルゴさんは剣士ですか? なぜお庭で素振り?」


「俺は庭の番をしてるんだ。ま、食客ってやつさ」


「食客?」


 小屋のドアを開けながら、バルゴは言った。


「お前の親父の昔っからの友達っつった方がわかりやすいか。つーか、アラム、寝てる間に俺のことすっかり忘れちまったのか。バルゴおじさんは悲しいぜ」


 もう忘れたことにしてしまおう、と思いながら、イーアはアラムのふりをしてたずねた。


「……父上のお友達?」


 ギルフレイ卿の弱点がわかるかもしれないから、情報は集めたい。

 だけど、バルゴはギルフレイ卿の昔からの友達だと主張しているけれど、この庶民っぽい、ガラ悪めでフレンドリーなおじさんが、あの厳格そうな魔王のような貴族のギルフレイ卿と友達、というのは、ちょっと信じられなかった。

 イーアに椅子に座るようにすすめながら、バルゴは言った。


「ああ。ほんとは言っちゃいけねぇんだけどな。アンドルはすっかりえらくなっちまったから。もう俺みてぇなのと同格につきあっちゃいけないのさ。出自は知られちゃいけねぇ。世間はうるせぇからな」


「出自……?」


「それを言っちゃいけねーのよ。ま、どうせそのうち耳に入るだろうから、話しちまってもいっか。おまえももう子どもじゃないからな」


 そう言って、バルゴは話し出した。


「俺は田舎町の木こりの息子なんだが。昔、アンドルたちは俺ん家の近くの粗末な家に住んでてな。アンドルの母は魔導士だが、相手が誰だろうと親切な、すげぇいい人だった。けどよ、当然っちゃ当然なんだが、アンドルの父親、つまり前のギルフレイ侯爵とは結婚してなかったんだ。つーか、絶交状態で、アンドルは父親の顔も知らなかった。だから、アンドルも子どもの頃は俺みたいな平民といっしょにその辺で遊んでたってわけさ」


「へぇ……」


 ギルフレイ卿が、庶民の子どもたちといっしょに遊んでいる、そんな姿はイーアにはとても想像できなかった。

 そもそも、あのギルフレイ卿に子どもの頃があったと想像すること自体が難しかった。


 バルゴは大きなコップを2つとりだして、そこにお酒っぽい液体をどんどん注いでいった。

 ジュースには見えなかったので、イーアは目の前にどんと置かれたコップの液体の臭いをかいだ。


「これ、お酒だ……あの、ボク、まだ子どもなんですけど」


 たしか、アラムはまだ13才だったはずだ。


「俺は13の時にゃ飲んでたぜ」


「しかられちゃうので……」


「こっそり飲めばだいじょうぶだって。ま、飲まないなら俺が飲む。ほら、食べろ食べろ」


 そう言って、バルゴは果物や燻製の肉やチーズが山盛り入ったカゴをテーブルの上に置いた。


「ありがとうございます」


 食べ物に手をのばしながら、イーアは、(いい人そうだけど、この人とギルフレイ卿が友達って、やっぱり信じられないよ)と思った。


 バルゴの家で久しぶりに庶民的な食べ物をたくさん食べてから、イーアは館に戻った。

 館に戻ると、さっそくメイド長がツカツカと近づいてきて、こっちをギロリと見ながら言った。


「アラムおぼっちゃま。なんだかお酒のにおいがするようですが?」


「え、いえ、お庭のお花の匂いだとおもいますけど?」


 イーアはお酒は飲んでいない。なのに。メイド長はくんくん臭いをかぎながら言った。


「いいえ。これは、下等な安酒のにおいです。まさか、バルゴと会ってはいませんよね?」


 (するどすぎ!)と思いながら、イーアは裏返った声で答えた。


「いえ? バルゴ? だれですか?」


「庭に住み着いている下品な大男です。けっして近づいてはいけませんよ。おぼっちゃまにあの男のお下品がうつってしまったら大変です。さぁさ、昼食の準備ができております。午後からは家庭教師の先生がいらっしゃいますから。しっかり食べて、備えてください」


「はい……」


 もうおなか一杯だったけれど、イーアはがんばって昼食を食べた。


 毎日午後は勉強時間で、アラムは家庭教師から魔術を教わる。

 アラムが家庭教師に教わる内容は、アラムが6歳までに習っていたことの続きだから、イーアにとっては簡単、かと思ったら、そうでもなかった。アラムはすごい英才教育を受けていたっぽい。

 特に魔導語は、難しくてわけがわからない。


(貴族の子って、家庭教師までついててめぐまれてるけど、これはこれで大変だ……)


 夜、イーアは宿題の山を眺めながら、ため息をついた。

 こんな感じで、イーアの奇妙に平穏な、アラムな日々がしばらく続いた。


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