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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
第2部 2章 カンラビの戦い

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2-33 ムトカラの廃屋

 翌朝、イーア達はカンラビの村を後にした。

 イーアは、ランたちと別れるのは少しさびしかった。ランもコサも村のみんなも、ずっとここにいていいと言ってくれた。

 だけど、いつまでもカンラビの村にいるわけにはいかない。


 オッペンのお父さんはカンラビの密林に残って贖罪と弔いを続けると言っていたから、イーアは出発前、オッペンにたずねた。


「オッペンももう出発して大丈夫? せっかくお父さんに会えたから、もう少しここに残る?」


 でも、オッペンは即答した。


「いんや。おれもおまえらと一緒に出発する。早く帰って勉強しねーと」


「勉強!?」


 イーアは耳を疑った。オッペンの口から勉強という言葉がでるなんて。


「おう。強くなるためにやんなきゃならねぇことが、はっきりわかったからな。おれは、あの、なんとかって塔に行く」


「<星読みの塔>?」


 オッペンは力強くうなずいた。


「おう、それだ。占術って実は最強なんだぜ」


 (オッペン、あんなに占術のことバカにしてたのに)と思ったけれど、イーアは口には出さなかった。オッペンがやる気になっているなら、何よりだ。

 オッペンは続けて言った。


「それにさ、おれ、気づいたんだよ。おれはここにくるまで、世界のことをなにも知らなかったんだって。バカみてぇだよな。帝国軍は絶対に悪いことなんてしない正義のヒーローだって、おれは信じてたんだ」


 イーアはオッペンをバカみたいだったとは思えなかった。オッペンだけじゃなく、帝国の多くの人がそう信じこんでいる。


「あのままだったら、おれがコサやランを殺していたかもしんねぇ。おれは、何も知らないでひどいことに手を貸すようなバカなおとなにはなりたくねぇんだ。父ちゃんみたいに、手遅れになってから後悔すんのはイヤだ。だから、おれは真実を知る男になる」


 オッペンの口からそんな言葉がでてくるなんてイーアは思ってもみなかった。だけど、オッペンは真剣だった。

 バララセに来る前よりもずっとオッペンは大人びて見えた。



 イーア達はまずムトカラに向かった。ユウリがムトカラに転移水晶の帰還ポイントを設置していたから、ムトカラへの移動は一瞬だった。

 ムトカラの宿に戻ったとわかった瞬間、オッペンは叫んだ。


「むちゃくちゃ便利じゃねーか! そのアイテム! ひょっとして、グランドールにも一瞬で帰れるのか? おれにも一個くれよ」


「グランドールは、無理だよ。そんな長距離を移動するには、大がかりな転移装置がないと。それに、転移用アイテムはとても高価で、けっこう魔力も使うんだ」


 ユウリがそう言うのを聞きながら、イーアは以前、シャヒーン先生が転移水晶の価格はグランドールの先生のお給料1年分だって言っていたのを思い出した。


「ぼくが船に乗り遅れるってわかっていたら、事前にイーアに渡していたんだけど。そしたら、戦争にまきこまれることもなかった」


 ユウリは後悔しているように言ったけど、イーアは言った。


「でも、そしたら、カンラビの村にたどりつくことはできなかったから。結果的には、なくてよかったよ」


 ユウリは賛成してなさそうだったけど、それ以上何も言わなかった。


 



 ムトカラに到着したイーアは、いったんユウリとオッペンと別れて、ンワラデにウェルグァンダルの任務の報告に向かった。

 ンワラデは別の仕事があったらしく、1時間くらい待たされて、イーアはようやくンワラデに会えた。

 オーロガロンを鎮める任務について、イーアの報告を聞き、ンワラデは大きくうなずいた。


「なるほど。オーロガロンはカンラビの密林にある遺跡への侵入者を追って、あの付近で暴れていたと」


 それが、イーアがオーロガロンから聞いた説明だった。イーアは遺跡の説明や<白光>のことは全部はぶいた。後で、ガリには報告するつもりだったけれど。


「オーロガロンのテリトリーに侵入者が入らなくなれば、オーロガロンが人に近づくことはなくなります。オーロガロンには、カンラビの森の外に出ないように言っておいたので、たぶん、これからはだいじょうぶだと思います」


 ンワラデは満面の笑みを浮かべて言った。


「いやぁ、ありがとうございます。イーアさん。さすがは、ガリが認めた召喚士です。正直なところ、本当に成功させるとは私も思っていなかったのですが。すえおそろしい才能です」


「いえ、今回は偶然うまくいっただけです。それじゃ、わたしはウェルグァンダルに戻ります」


 ユウリ達を待たせているので、イーアが急いで帰ろうとすると、ンワラデは言った。


「そういえば、先ほど、あの遅れてきたアグラシア人の少年からの言伝(ことづて)を受け取りました」


「え? ユウリから?」


「はい。ムトカラの東の町はずれの空き家で興味深いものを見つけたから至急、来てほしいそうです。こちらがその言伝の手紙です」


 ンワラデがそう言って差し出した手紙は、たしかにユウリの筆跡で書かれていて、ユウリのサインがあった。


「場所は部下に案内させます」


「はい……」


 (どうしたんだろ? 突然)と、イーアは心の中でふしぎに思った。ユウリは、さっきは何も言っていなかった。

 イーアがンワラデを待っていたこの1時間ちょっとの間で、ユウリとオッペンは町の散策をして何か発見したのだろうか? 

 でも、イーア達は今日中にムトカラを出発する予定で、町の探索をする予定はなかったし、ユウリらしくない。

 

 イーアはンワラデの部下に案内されて、ユウリが待っているという、町はずれの空き家にむかった。

 ンワラデの部下たちは、最初、案内するのをいやがっていた。「地元では不吉な館と言われていまして。でも、実際は何でもないのですよ」とンワラデは笑って言っていたけれど。


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