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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
第2部 2章 カンラビの戦い

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2-32 約束

 カンラビの村では、負傷者の手当が急いで進められ、夜には、死者の弔いと勝利のお祝いが同時にひっそりと行われた。

 村の中心の広場には明々と大きなたき火が燃え上がっていた。

 オッペンは、すっかりコサやカンラビ族の若者たちと打ち解けていて、たき火のそばでいっしょに楽しそうにさわいでいる。


 イーアは、たき火のある場所から少し離れた暗がりにひとりで座っているユウリを見つけ、横に座った。

 ユウリは、たき火のほうを見たまま言った。


「オッペンのお父さん、生きててよかったね」


「うん。最初はどうなるかと思ったけど。オッペン、お父さんと仲直りできたみたいでよかったよ。コサともすっかり親友だもん。オッペンは、すぐにケンカしたり仲良くなったりするよね」


 なんだか心配して損した気分になりながら、イーアはそう言った。


「うん。ああいう性格、ぼくはちょっとうらやましいよ」


 そうぽつりと言ってから、ちょっと間をおいてユウリはイーアにたずねた。


「イーア、ぼくを待たずに出発したのは、……冬休みがあけてから、ずっとぼくと距離をとっているのは、なぜ?」


 ユウリはいつものやさしい口調だったけれど、イーアは口ごもった。


「それは……、その……」


「ぼくの師匠が<白光>だから?」


 ユウリはさらりとそうたずねた。

 イーアはうなずいた。


「うん。ガリが、ユウリの師匠は、家柄からして<白光>だって。本当かどうかはわからないけど……」


「きっと、まちがいないよ。師匠の言うこと、先生たちの言うこと、全部考えれば簡単にわかる。師匠は<白光>の一員だ。それも、幹部に近いのかも。……だけど、本気でぼくがイーアより師匠をとると思った?」

 

 ユウリはそう言ってほほ笑んだ。


「そうじゃないけど。そうじゃないけど、その方が、ユウリにとっていいから。<白光>の敵になったら、帝国で偉くなれなくなって、危なくて。それに、それに……」


 これは自分の口からは言ってはいけないとイーアが思ってとめた瞬間、ユウリはすっとその先を言った。


「あの人が、ぼくの父親だから?」


「知っていたの?」


 イーアが驚いてユウリを見ると、ユウリは、いつも大切にもっているペンダントをはずして手に取った。それは、ユウリが孤児院に来る前から持っていた唯一のもので、お母さんの形見だといわれていた。


「これ、実は、仕掛けがあるんだ」


 そう言って、ユウリはペンダントトップの宝石の端についた金具をねじった。

 宝石から光が放たれ、空中に淡い映像が浮かんだ。

 十代後半くらいの美しい少年と、かわいい少女がふたり、うれしそうに笑っていた。

 少年は、ユウリがあと数年したらそっくりになりそうな外見で、そして、同時にホスルッドの面影がたしかにあった。


「あまり変わってないよね、あの人は。だから、最初に会った時に一目でわかったよ。師匠がぼくに気が付いているのかは知らないけど」


 イーアは、ガリから聞いたことが喉の奥まで出そうになった。ホスルッドがずっとユウリを探していたことを。

 だけど、イーアが何か言う前に、ユウリは続けた。


「師匠、ぼくに養子にならないかって言うんだよ。もしも気づいていてそう言ってるなら……卑怯(ひきょう)だよ。ぼくと、母さんのことを、バカにしてる。世間体(せけんてい)とか色々あるのかもしれないけど」


 イーアには何も言えなかった。ユウリはペンダントをしまいながらつぶやくように言った。


「最初にあの人に会ったときは、本当にうれしかったんだ。今も師匠としては尊敬してる。だけど、最近、思うんだ。父さんは、空想のままのほうがよかったのかもって。いつか父さんが迎えに来てくれるって想像してた小さなころのほうが、ぼくは幸せだったのかもって。幻だったら、何も不満に思わないから」


「そんなこと……、わかんないけど。わたしは、お父さんもお母さんももう死んじゃってるから、わからないけど。でも、いないより、いるほうが絶対にいいよ。幻だけじゃ、さびしいもん」


 夢の中でいっしょにいて、目が覚めてあれは夢だったと気がついた時のさびしさを言おうとしたけれど、イーアはうまく言葉にできなかった。

 でも、たぶんユウリには伝わっていた。


「ごめん」


「ううん。わたしこそ、ユウリを<白光>との戦いにまきこんじゃって、ごめん」


 ユウリの葛藤(かっとう)の一部はたぶんイーアが引き起こしている。そう思って、イーアは謝っていた。


「あやまらないで。イーア。ぼくは、それは後悔してない。ぼくはイーアのためなら誰の敵にだってなる。なんだって犠牲(ぎせい)にする。……オームにいた頃、結婚式に出たこと、おぼえてる?」


「うん。ルルお姉さんの結婚式でしょ? お姉さん、きれいだったよね」


 イーア達がグランドールに入学する少し前、ナミンの家のお手伝いをしてくれていたお姉さんが結婚して、式にイーア達みんなを招待(しょうたい)してくれたのだ。


「あの結婚式で、誓う言葉があるでしょ? 「(すこ)やかな時も病める時も、喜びも悲しみも分かち合い、死が二人を分かつまで、互いを愛しともに生きることを誓います」って」


「うん」


 イーアは結婚式でのウェディングドレス姿のきれいなお姉さんを思い出しながらうなずいた。 


「ぼくは思ったんだ。ぼくがこの先結婚するかはわからないけど。もしもぼくがあの言葉を言う相手がいるとすれば、それはイーアだって。だって、ぼくらは、ずっとそうやって一緒に生きてきたんだから。だから、これからも、そうやって生きていきたいって」


 イーアは深く考えずにこたえた。


「そうだね。元気な時も病気の時も、ずっといっしょにいたもんね。わたしも、一生結婚しないかもだけど、ずっといっしょだよ。死が二人を分かつまで」


「うん」


 うなずきあって数秒して、ユウリは言った。


「そろそろ戻ろうか。オッペンが向こうで呼んでる。それに、ずっと村の人達の視線が痛いんだ」


「え?」


 イーアは気が付いていなかったけれど、村の少年たちがチラチラとこっちを見ていた。コサはあきらかにユウリを睨んでいる。たしかに、なんだかみんなユウリに敵意を向けているようにみえる。


「うん……もどろっか」


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