2-30 召喚バトル1
イーアはヤゴンリルに頼んで穴の中に落ちている石板の欠片を拾ってもらった。どうせ偽物だけど、放置しないほうがいい気がしたから。
(魔力は使い果たしたけど、意外とあっさり勝てたね。あの人も服に<白光>の模様はついていたけど、ギルフレイ卿とは強さが全然ちがった……)
ギルフレイ卿が、<白光>の中でも特別に強く恐ろしい存在なのかもしれない。
イーアがそう思った時、密林の中から、わざとらしく拍手する音が聞こえてきた。
「よくできました。いくらジグモが家柄で<白光>での地位を得ただけの魔導師だとしても。栄えある<白光>のメンバー相手に、たいした手際だ。1年もたたずにこれだけの成長をみせるとは。さすがガリが認めた奴隷人種。忌々しいほどに召喚の才がある」
皮肉な響きのその声に、イーアは聞き覚えがあった。聞いたのは一度だけだったとしても、忘れようがない。
木のかげからゆっくりと白装束に銀仮面の男がでてきた。そして、その横には霊獣ワイヒルトがいた。
「ザヒ……」
<白光>のザヒは笑い声をあげ、言った。
「さぁて、中間テストを始めようか?」
戦いは避けられそうにない。イーアは持っていた魔力回復薬を一気に全部飲み干した。
それで回復した魔力は、たぶん半分以下だ。
しかも、準備万端の状態だったとしても、イーアは今はまだザヒに勝てる気がしない。
だけど、ここでザヒを食いとめなければ、カンラビの人たちがザヒに襲われてしまうだろう。
逃げるわけにはいかない。
(何か手は……)
溶岩魔神は魔力が足りなくて呼べない。ドラゴン達、エラスシオやティロモサも無理だろう。
結論……今、ザヒを自分一人で倒すのは不可能。
イーアはすみやかにそう判断し、ウェルグァンダルの塔で出発前にガリから渡された赤い水晶石のお守りを4度指でさすり、同時に肩にとまっていたケピョンにむかって『ヤララ、たすけて。ザヒと戦闘中』とささやいた。
耳元のケピョンから、ヤララのかなりあわてた声が聞こえた。
『ザ、ザザザ、ザヒ? なんで? ザヒと? ちょっと待ってよ。場所はわかったけど。準備が必要だから、そんなにすぐにたすけられないよ。それに、ザヒは今のウェルグァンダルで3番目に強いっていわれてて、私じゃ勝てるわけな……』
『じゃ、待ってる』と返事をして、イーアはケピョンを安全な場所に逃がした。
作戦は決まった。
(ヤララの援護が来るまで、持ちこたえる)
『いでよ。亡霊大剣兵アルゴゥン』
ザヒが召喚をした。
草原に、巨大な剣を持つ鎧の兵士があらわれた。
グランドールの地下でガリとザヒが戦ったときにザヒが呼びだした、盾を持つ大きな鎧兵に似ている。だけど、この巨兵は盾を持つかわりに巨大な両手剣を持っていた。
とっさに判断してイーアは召喚をした。
『穿孔鋼虫ドズミリミル! あの鎧の戦士をとめて!』
巨大な鎧の亡霊戦士が、大きな剣を掲げて突進してくる。その手足へ、長い長い巨大な針金のようなドズミリミルが何本も絡みついた。
鎧の兵士が転び、大地の上で暴れ、地面が揺れた。
鎧の兵士の動きはいちおう封じたけれど、暴れる巨兵の力でドズミリミルがひきちぎられそうだった。
『テリトベラ! あの鎧を抑えて』
イーアはさらにエラスシオのいる島に生えていたグネグネとした植物みたいな精霊テリトベラを呼んだ。
暴れまわる巨大な鎧の周囲を霊草のグネグネした茎がおおい、鎧の全身をからみとって身動きできなくした。
これで巨兵の動きは完全に封じた。
ザヒが、むしろうれしそうに笑い声をあげた。
「少しはやるじゃないか。思ったよりも楽しめそうだ。さぁ、次だ。『焼き尽くせ、豪炎獣パラボードン』!」
ゾウのようなバクのような重厚な皮膚を持つ大きな霊獣パラボードンがあらわれた。そして、パラボードンの長い鼻の下から、激しい炎が噴き出された。
『モンペル!』
巨兵を覆っていたテリトベラが焼き尽くされ、パラボードンの炎は、その先にいるイーアへと迫った。炎がイーアに達する直前、モンペルの壁が炎を遮った。
「どうした? ガリの一番弟子。防戦だけでは勝てんぞ? 攻撃してこい!」
ザヒは挑発するようにそう言った。
イーアは攻撃しようにも、魔力が足りないうえに、さっきの戦いで呼んだ精霊のほとんどが、もう呼べない状態になっている。
イーアは自分に言い聞かせた。
(今必要なのは、時間かせぎ。挑発にのっちゃダメ)
魔力を節約しながら、防御に徹し、時間をかせぐ。
残された魔力で呼べる限りの強い精霊を呼ぶにしても、それができるチャンスは一度だけ。だから、反撃するとしたら、ヤララの援護がきてから。
大事なのは、それまで死なないこと。
イーアは自分にそう言い聞かせた。




