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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
第2部 2章 カンラビの戦い

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2-25 首長水竜エラスシオ

 ドラゴンが池からあらわれたのとほぼ同時に、イーアの横にティトが転移していた。

 ロロロはおびえ切った様子でイーアの背中に隠れるようにしがみついている。

 首の長い、美しいオーロラ色のドラゴンは、はるか上方からイーア達を見下ろしながら竜語でたずねた。


『何者だ?』


『わたしはイーア。ガネンの民で、ウェルグァンダルの召喚士』


『ガネン……? 聞いたことがある。メラフィスの戦いに集った種族の一つか。ならば、その黄色い猫がラシュトか』


 ティトが『猫だとぉ!? バカにするな』と言って唸っていたけれど、イーアはうなずいて、たずねた。


『あなたがここの守護者? ここの秘宝は無事?』


『秘宝? アレのことか。……何百年か前、先代の時代に、この池の水中洞窟に置かれていた石の欠片が持ち去られた』


 イーアは驚いた。


『何百年も前に石板の欠片が持ち去られた? じゃあ、今、ティロモサやオーロガロンは何を守ってるの?』


 この島の周囲の海域に人を寄せ付けない古水竜ティロモサや、あの遺跡に人を近づけないオーロガロン。ここに支配者の石板の欠片があると聞いた時から、彼らは石板の欠片を守るためにそうしているのだとイーアは思っていた。

 だけど、首の長い美しいドラゴンは淡々と言った。


『人間を近づけないことが彼らの仕事だ。ここに何があろうとなかろうと』

 

 ティトが鼻を鳴らした。


『何もないってのに、命がけで守ってるのか。馬鹿らしいな』


『用は済んだか。ガネンの子よ』


 首の長い水竜はふたたび池の中に潜ろうとしていた。その時、いつのまにかそばにあらわれていたカゲがドラゴンに呼びかけた。


『待ってください。水竜エラスシオの若者よ。~~~~~~~』


 カゲが何かを言った。何か、よくわからない言葉を。

 水竜エラスシオは言った。


『なるほど。先代の守護竜から申し付かっている。その言葉を知るものが来れば、望むものを渡せと。して、そなたらが欲しいのは本物か、偽物か?』


『どういうこと?』


 イーアたずねると、カゲは言った。


『以前持ち去られた石板の欠片は、偽物だったようです。ここには真贋(しんがん)複数の石板の欠片が置いてあるんです。イーアさん。今日持っていくのはどちらにしますか?』


 イーアは即答した。


『偽物をちょうだい。白装束たちをだますために』


 エラスシオの姿が一度池の中に消えた。しばらくすると、再びエメラルドグリーンの水面が大きくもりあがり、オーロラ色の水竜エラスシオの姿があらわれた。

 エラスシオの前に石板の欠片みたいな石が浮いている。その石が音もなくイーアの方へと空中を移動してきた。

 イーアはその石をつかんで受け取り、まじまじと見つめた。


『これが偽物? 本物と同じにしか見えないよ?』


 模様や形は少し違うけれど、グランドールで手に入れた支配者の石板の欠片とそっくりだった。

 手に持って観察しただけじゃ、これが本物か偽物か、誰にも見分けがつかないだろう。


『こんなにいい偽物があるなら、なんで、ガネンの森やモルドーのとこにも用意しておかないんだ?』


 ティトがそう文句を言うと、カゲが言った。


『そんなに数がなかったので、守護者の少ないところに置いたんですよ』


 イーアは思わずたずねた。


『カゲ、なんでそんなことまで知ってるの? やっぱり、カゲって重要な精霊なのかな。モルドーがカゲに会うように言い残しただけあって』


『はぁ。そこは、思い出せないんですよねぇ。私、何者なんでしょう?』


 カゲが大きなため息をつくようなしぐさでそう言った。そこで、水竜エラスシオが驚いたようにたずねた。


『モルドーが言い残した? 地底竜モルドーに何があった?』


 エラスシオは、地底竜モルドーの死を知らないようだ。

 イーアはモルドーが<白光(ロウシア)>の魔導士に殺されたことを告げた。


『なんだと? モルドーが殺された? トゥイスゴルのみならず、モルドーまでが人間の手で……』


『<白光>、白装束の魔導士たちは、支配者の石板の欠片を集めてるの。たぶん、石板の力を使うために』


『やれやれ。愚かな人間たちよ。再び(あやま)ちを繰り返すか』


 嘆くエラスシオに、イーアは言った。


『気をつけて。ここも狙われてる。今、近くのカンラビの森まで白装束の魔導士が来てる。ここに攻めてくる前に、白装束の魔導士を倒したい。だから、できたらこの辺りの精霊に協力してほしい。わたしはウェルグァンダルの召喚士。召喚契約をすれば白装束の魔導士との戦いに呼べるから』


『1800年ぶりの人間との(いくさ)か。うんざりする。我ら竜族はお前のような獣臭い人間なんぞに協力などせん。だが、ウェルグァンダル。今はアディラドの黒竜リアウェニヴァの子、ガディオンがウェルグァンダルの代弁者を務めているな?』


 聞きなれない言葉がいくつもでてきて、イーアは首をかしげた。


『ガディオン? わたしの師匠、ウェルグァンダルの塔主は、ガリって名前で、ガディオンじゃないけど、たしか、ガリはリアウェ……アディラドの黒竜がお母さんだって言ってた……ってことは、ガディオンって、ガリのこと?」


『ガディオンは人界ではその名を知られると殺されるゆえ、別の名を名乗っているらしい。あのリアウェニヴァの哀れな義子は幼少の時に血縁の人間を皆殺しにされたという。愚かな人間どもよ。延々と同種殺しを続ける』


(ガリも家族をみんな殺された……?)


 ガリは自分のことをほとんど話さないから知らなかった。

 イーアは、ガリの弟子はギアラド王国のことを話題にしてはいけない、とゲオに忠告されたことを思い出した。『ギアラドを継ぐ者』とガリがモルドーに呼ばれていたことも。

 (やっぱりガリってギアラドの王様の子孫……?)とイーアが考えていると、エラスシオはしぶしぶといった様子で言った。


『獣臭いのは気になるが、ガディオンの弟子ならば構わん。力を貸そう。ティロモサにも伝えておく』


『いいの? ありがとう!』


 イーアがお礼を叫んだ時には、エラスシオはすでにエメラルドグリーンの池の中へと消えていくところだった。

 イーアは偽物の石板の欠片を握りしめ、仲間達に言った。


『カンラビの村に帰ろう。みんなを助けないと』


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