2-19 <白光>の男たち
カンラビの密林のはずれの草原に小さな白いテントがあった。
「ジグモ様。俺です。入りますよ」
<白光>の紋様がついた白いローブを着て銀仮面をつけた男がひとり、そう言って、そのテントへと入っていった。テントの中には、外からは想像もつかない、絨毯がしきつめられ豪華な調度品で飾られた室内が広がっていた。
その室内に、<白光>の白いローブを着た初老の男がしかめ面で一人座っていた。
「ベグラン、遅いぞ」
ベグランと呼ばれた、外から入ってきた白装束の男はフードと仮面をはずして言った。
「無茶言わないでくださいよ。言われたように、奴隷兵と囚人兵、借りてきましたよ。しかし、いいんですか? 例の物探しは、極秘任務。あの兵士どもにちょっとでも情報知られちゃまずいでしょうに」
ベグランの口調は丁寧だが、どこか相手を小ばかにしたような、不遜な調子だった。
ジグモと呼ばれた男は鼻で笑った。
「問題なかろう。用が済めば全部殺せばいいだけだ」
「そんなことしちゃ、軍が怒りますよ。あっちは戦力足りなくて大変なんですから」
「怒る? わしの調合してやった魔薬がなければろくに戦えん無能どもが?」
ベグランは肩をすくめた。
「<盲従と高揚>のクスリねぇ。あれ、使いすぎると廃人になるでしょ。長期的にはどうなんですかねぇ。あ、そうそう、戦力不足といえば。アンドルさんから援軍要請がきたんで、俺は行きますが、いいですか?」
「ふん。アンドルめ。バララセでも失態を重ねてるようだな」
「失態っていうかねぇ、無茶な汚れ仕事押し付けられてるっていうか。元々負け戦だったところに、あの人つっこんでなんとか持ち直したって感じですからねぇ。そういえば、あの遺跡に派遣した下っ端どもはどうなりました?」
「まだ連絡はきていない」
「今月、例の大怪鳥にやられたのが6人。帰ってこなかったら、これで8人ですか。<奉仕者>レベルにまかせてても埒があきませんね」
ジグモは笑った。
「安心せい。これから、わしが行く。ゴモル、兵士どもに薬を飲ませろ」
それまで部屋の隅に立っていた無地の白装束の服を着た大柄な従者が無言でうなずき、テントを出ていった。
「じゃあ、俺はもう行きますよ」
ベグランはジグモに背を向け、外に出ようとしながら言った。
「ご武運をお祈りしてますよ。本当にアレがここにあるんだか、俺は正直、半信半疑ですがね。過去にそうそうたる顔ぶれの魔導師が挑んでも、入手できなかったって話じゃないですか」
「フンッ。見ていろ。わしが手に入れてあの下賤な成り上がり者の鼻をあかしてやる」
「ご武運を」
ベグランは肩をすくめながらテントの外にでて、転移用の水晶石を取りだした。
そこで、ベグランは木のそばに、ひっそりとたたずむもう一人の白装束の魔導士の方へふりかえり、たずねた。
「さぁて、南で汚れ仕事、と。いっしょに行くか?」
「いや。先に行け、ベグラン。面白いものを見つけた。俺はここで少し遊んでからあの方のもとへむかう」
黒い獣を傍に従えた魔導士はそう言って笑った。
「そうかい。それじゃ、俺は先に地獄に行ってるぜ。嫌だ嫌だ。まったく、奴隷人種も人の形をしているからなぁ。善良な俺の心は痛むったらありゃしない」
そう大声でつぶやきながらベグランは姿を消し、黒い獣を従えた白装束の魔導士は木立の中へと歩き去っていった。




