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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
第2部 2章 カンラビの戦い

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2-18 カンラビの遺跡

 聖域の樹木に覆われるようにひっそりと、切り出した石で作られた神殿の遺跡がたたずんでいた。

 遺跡の隠し扉がある場所はほかの部分と同じようにツタに覆われた壁にしか見えない。

 だけど、カゲがなにか呪文のようなものを唱えると、その石の壁が消えた。


 カゲは『さぁいきましょう』とツタの間にひょろりとすべり込み、そのまま歩いて行った。

 イーアはツタと草をかきわけ中に入りながら思った。

 カゲの呪文は、精霊語ではなかった。むしろ魔導語みたいに聞こえた。


『カゲって、魔導士なの?』


『魔導士? さぁ、記憶がないのでわかりません。でも、イーアさんがそういうなら、そうだったのかもしれませんねぇ』


 でも、精霊が魔導士になったケースなんて、イーアは聞いたことがない。


 遺跡の中は暗かったので、イーアはラプラプを呼んで、通路を照らしだしてもらった。

 大きな切り出された石でできた狭い通路がずっと続いている。

 イーアはちょうどそのまま通れるけれど、背の高い人だったら頭がぶつかりそうな、狭い通路だった。しかも、所々、崩れている。

 歩きながらティトが鼻を鳴らし文句を言った。


『この遺跡、崩壊したりしないだろうな。生き埋めはごめんだぞ』


 しばらく進んだところで、道は終わった。岩が崩れてその先をふさいでしまっている。


『おやまぁ。こまりました。これでは、進めませんよ』


 カゲは困ったようすでうろうろしている。イーアは『友契の書』を手にとり言った。


『だいじょうぶ、だと思う。グモーチ、ここを掘って』


 イーアはグランドールの地下に住んでいる巨大なモグラみたいな霊獣を呼んだ。おでこのところに王冠みたいな模様があるから、グモーチは『掘削の王獣』という異名で呼ばれている。

 グモーチの巨大な手には尖った鋼鉄のような長い爪がはえていて、その爪の先端部分は高熱を発することもできるらしい。グモーチはとにかく穴を掘るのが得意で、やわらかい地面じゃなくても、硬い岩盤でも、どんどん掘ってしまう。

 グモーチはあっという間に、遺跡の崩れた岩を掘って通り道を作った。


『ありがとう、グモーチ』


 イーアがお礼を言うと、グモーチは大きな手を振って、消えていった。


 イーア達がさらに少し進むと、上にあがる石の階段があった。

 上の方から空気が流れこんでくる。光も見える。

 イーアはラプラプを帰すと、警戒しながら階段をあがっていった。


 階段の先には予想もしなかった驚きの光景が広がっていた。

 そこには、いくつかテーブルが置かれていて岩がイスのように配置されていた。

 棚の上では小鳥が上機嫌に歌っていて、壁には草や花や雑貨が飾られていた。


 なんだかおしゃれで平和そうな空間だ。

 壁にあいた大穴から外の光が差しこんでいて、密林の新鮮な空気が流れこんでくるから、ここにいるだけで癒される。


『いやはや。私の記憶にまったくない場所にでてきてしまいましたよ?』


 カゲが首をかしげながらつぶやいた時、イーア達は突然声をかけられた。


『らっしゃーい。3名さま?』


『ク、クーちゃん?』


 そこにはエプロンをつけた白い大きな霊鳥、『料理鳥ククックー』が立っていた。ウェルグァンダルの料理鳥とそっくりだから、思わずイーアは『クーちゃん?』とたずねてしまったけれど、よく見ると、クーちゃんとはちょっと違う。

 見知らぬククックーは言った。


『クーチャン? だれだそれ。おれ様の名はククディだい。さぁ、食材をだせ。おれ様のレストランのお代は食材だ』


『レストラン? えーっと、今、食材はなくて、じゃなくて、食べてるばあいじゃなくて……』


 イーアがとまどいながら返事をすると、ククックーのククディは怒ったような鳴き声をあげて翼をバタバタさせた。


『あんだとぉ! おれ様の料理が食えねぇだとぉ!?』


『そうじゃなくて、今、いそがしくて……』


『おれ様の料理が食えねぇほど忙しいことなんてこの世にありゃしねぇ! 急いでるなら、早く食え。とっとと、そこに座りやがれ! お代はツケでいい。食わないなんて言ったことを後悔させてやる!』

 

 ククックーは興奮してバタバタ翼を動かしながら、叫んでいた。

 しかたがないので、イーアは近くにあった椅子みたいな石に座った。

 のんびりご飯なんて食べている場合ではないけれど、断るとククディに襲われそうだ。『料理鳥ククックー』の料理へのこだわりは半端なく、時には料理をめぐって殺し合いすら起こる、と霊鳥図鑑にのっているほどなのだ。


 ククディが料理を作っている間、イーアは壁にあいた大穴を見ながらつぶやいた。


『遺跡に穴があいて、そこにククックーがレストランを開いちゃったんだね。おしゃれなレストランだけど……』


『こんなとこに食いにくるやつ、いるのか?』とティトがテーブルにあごをのせて言った。


『カンラビ族の聖域だから、人間はこないよね。精霊さんが来るのかな。オーロガロンとか?』


 でも、オーロガロンの体の大きさじゃ、このレストランには入れそうにない。たぶん、この聖域に住んでいる別の精霊たちが来るのだろう。

 カゲがテーブルにひじをついてしょんぼりと言った。


『困りましたねぇ。どうやら、この神殿はすっかり壊れちゃっているみたいです。誰かが神殿の壁を破壊したんでしょう。ちょっとやそっとじゃ壊れないはずなんですが。<昔日見の手鏡>はもう奪われてしまっているかもしれませんねぇ』


『<昔日見の手鏡>? それが、わたしたちが探してる道具の名前? どんな見た目?』 


 イーアがたずねると、カゲは説明した。


『見た目は、一見、ただの手鏡です。決まった言葉をいわないと過去を見ることはできませんから、価値を知らないひとにとってはただの手鏡でしょうねぇ』


『へぇ。手鏡……』


 イーアは壁に飾られている手鏡を指さして、たずねた。


『あんな感じ?』


『そうです、そうです。あんな感じの手鏡です』


 ククディが大皿をいくつももってやってきた。


『ほらよ。超特急でつくってやったぜ。まずは、野兎のステーキ、ゴロールの実ソースかけ。こっちは白身魚のフライとサパサパの葉炒め……』


 料理の説明をするククディに、イーアはたずねた。


『ククディ、あの手鏡って……』


『おう。あれはおれ様のハンサムな顔をうつすのにぴったりな鏡だ。この廃墟でみつけたんだぜ』


『ちょっと借りていい?』


『だめとはいえねぇな。レディーには』


『ありがとう』


 イーアは手鏡をとってきてカゲに見せた。


『これ、まさかさすがに、<昔日見の手鏡>だったりはしないよね?』


『ためしてみましょう』


 そう言って、カゲは呪文らしきものを唱えた。


<昔日見の手鏡や。こしかたを知らんとせし者が声にこたへたまへ。五千日前の昔日を見せよ>


 とたんに、手鏡の鏡の部分が波打ち、そして、鏡の中にはイーアの顔でも、テーブルに並んだ料理でもなく、切り出された大石でできた遺跡の中の様子が映し出された。


『え……?』


 とまどうイーアに、カゲは言った。


『昔日見の手鏡を通してみると、過去の様子が見えるんですよ。今は5000日前、つまり、13年以上前の様子を見せるように言いました』


 イーアが壁にあいた大穴の方へ手鏡を動かすと、そこには石の壁が見えた。どの方向に動かしても、手鏡の中にはレストランの様子は映らず、薄暗い遺跡の中の様子だけが映し出される。


『これだよ! ククディ!』


 イーアは興奮して話しかけたけど、ククディは翼で腕組みして言った。


『おいおい。おまえら猫舌かぁ? 早く食わねぇと、おれ様の絶品料理がさめちまうぞ』


 『じゃ、食べるか』と言って、ティトがウサギの肉にかぶりついた。ククディが怒りそうなので、イーアも先に食べることにした。


『とりあえず、食べよっか……おいしー! クーちゃんの料理もおいしいけど、ククディの料理も、とってもおいしい!』


 イーアは一口食べて感激して叫んだ。でも、ククディは、よろこぶどころか不機嫌になった。


『あーん? おれの料理()だとぉ? モってなんだ! おれ様の方が上だろ。おい、もっとちゃんと食べて味わえ!』


 おいしくて、とまらないので、イーアは言われなくてもどんどん食べていた。手鏡のことがすごく気になるけれど、それでもとまらないくらいに、ククディの料理はおいしかった。

 ティトが言った。


『あの鳥の料理と互角のうまさだな』


『だよね。クーちゃんの料理ほどおいしい料理はこの世にないって思ってたけど、互角だよね』


 イーアが思わずティトに同意すると、ククディはバタバタ暴れながら叫んだ。


『互角だとぉ! そのクーチャンってのは、どこのどいつだ!』 


『クーちゃんは、ウェルグァンダルの塔の料理鳥だよ』


『そいつも料理鳥だとぉ? 負けてられるか! 勝つのになにが足りない? 食材の鮮度か? 調味料か? 急いでるっつーから、ありあわせのもので作っちまったからなぁ』


 ククディは翼をバタバタさせて悔しがっている。

 イーアは食べ終わったので、手鏡を手に取って、ククディにたずねた。


『あの、それより、ククディ。この手鏡がほしいんだけど、どうしたら、ゆずってもらえる?』


『んなもん、くれてやる! それよりウェルグァンダルってのの場所を教えやがれ。おれ様が直接クーチャンって野郎と料理勝負してやる!』


『くれるの!? ありがとう! ウェルグァンダルの塔はアグラシアにあるから、かなり遠いけど、わたしと召喚契約をしてくれれば呼べるよ。だけど、ただでご飯たべさせてもらって、手鏡ももらっちゃって、なんか申し訳ないね……』


 食べ終わったティトが満足そうに舌で口のまわりをなめながらあくびをした。


『魔道具探しは意外と簡単に終わったな。さっきの白装束は、今頃、遺跡の中でむだにトラップと格闘してるのか?』


 そこで、カゲが首をかしげながら言った。


『それなんですが。なにかひっかかってるんですよねぇ。えぇ。私の記憶によると、何かもうひとつこの神殿には役割が……あ、そうだ。思い出した。思い出しましたよ。入り口です。入り口なんですよ。ここはあの島への』


『入り口? どういうこと?』


『ここの地下から、あの島へと行けるんです。あの島は古水竜に守られている上に、険しい崖と霊草霊樹に守られているので、祭壇がある場所に地上、空から行くのは大変なんです。だから、ここから行かないと』


 それを聞いて、イーアは突然心臓をつかまれたみたいな気分になった。


『祭壇……。カゲ、その祭壇って、支配者の石板の欠片を置いてある祭壇じゃないよね?』


『そうです。それなんですよ。ここは石板の欠片の隠し場所への入り口なんです。あー、すっかり思い出しましたよ。すっきりしました』


 カゲは思い出せてうれしそうだけど、イーアは急に癒しのレストランから戦場に戻ったような気分になっていた。


『じゃあ、白装束の狙いは、この手鏡じゃなくて、やっぱり石板の欠片?』



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