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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
第2部 密林の巨鳥と水竜 1章 バララセ大陸へ

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2-10 バララセの玄関口

 こうして、夏の休みが始まるとすぐ、イーアはバララセ大陸にむかった。

 本当は、イーアはこっそりひとりで行くつもりだったけれど、バララセの地図を調べたり準備をしているうちに、ユウリとオッペンにバレてしまって、オッペンが「おれもバララセへ行く」と言い出した。


 オッペンはずっとバララセ大陸に行きたかったらしい。オッペンのお父さんは、バララセ東部のどこかで戦死して、遺骨すら家には帰ってこなかったという。


「おれは、バララセでおやじの墓を探さなきゃなんねーんだ。そのために、ずっと金もためてんだ。シャヒーン先生に習ったダウジングでおやじの墓を見つけてやる」


 そうオッペンは真剣な表情で言っていて、ちょうどイーアの目的地も同じ辺りだったから、イーアはいっしょに行くのを断れなかった。


 ユウリは、予想どおり、「イーアが行くならぼくも行く」と言ってきかなかった。こうなるから、秘密にしておくつもりだったのだけど。ユウリはふだんはやさしくておとなしいけれど、頑固(がんこ)なところがあるから、言い出したらきかない。どうしようもない。

 だから、3人でバララセ大陸に行くことに決まった。

 もちろん、ユウリには絶対に師匠のホスルッドには言わないように念を押した。


 だけど、出発の日が近づくと、ユウリがホーヘンハインから帰ってこなくなってしまった。

 そのままユウリはバララセ大陸へむかう船の出航にまにあわなかった。

 きっと、ホーヘンハインのホスルッドが、ユウリを止めているのだろう。

 そして、それは、イーアがバララセに行くことが<白光>にバレているということかもしれない。

 イーアはちょっと迷ったけれど、結局そのまま出発した。



 船は無事にバララセ大陸の港町チュジェに到着した。

 バララセ大陸の玄関口と言われるチュジェは、建物も行きかう人の服装もアグラシアと大きく違いはなかった。

 だけど、港で働いている労働者の多くは肌の色の黒いバララセ人だった。イーアは自分と同じような肌の色の人達をこんなにたくさん見るのは初めてだったから、ちょっと奇妙な感じがした。


 ガボー達の話によると、ここで働いているバララセ人は皆、奴隷だという。

 彼らは落ちくぼんだ生気のない目で黙々と働き続けていた。

 それでも、ガボーが言うには、こういう人目に付きやすい町で働かされている奴隷は比較的待遇が良いのだという。

 鉱山や大農場で働かされている奴隷はもっと過酷で、日常的に暴力をふるわれて、死んでいくものも多い。

 「農場での待遇は、オーナーしだいだけどな」と、ガボーはダモンに遠慮するようにつけたした。だけど、ダモンは頭を振って言った。


「待遇のいいところなんて、あるはずがない。誰も奴隷を同じ人間だとは思っていない。俺だって、グランドールでガボーと親友になるまで、対等な人間だと思ったことがなかった。かわいそうだと思ったことはあるさ。犬や猫に同情するのと同じような感じで。でも、俺と同じ人間だとは思っていなかったんだ。今の俺は、あの頃の俺こそ、恥ずかしいかわいそうな奴だと思っているが」


 レストランも、ガボーとイーアは入れないかもしれないから、町の市場で食べ物や飲み物を買って、宿屋でみんなで食べることにした。

 市場にはたくさんの果物と美味しそうな食べ物が売っていた。

 イーアは部屋のテーブルに並べられた食べ物を見て、わくわくした。


「見たことのない食べものがこんなにたくさん!」


 「どんどん食べろ」とダモンが言ったので、イーアは近くにあった肉の串焼きとパンみたいな食べ物を手にとってどんどん食べた。


「うん……おいしい!」


 イーアが知らない香辛料が使われていて、ふしぎな味だけど、とってもおいしかった。


「うめぇな、この果物」


 オッペンは大きな果物の皮を手でむいて丸ごとかぶりついている。イーアは今日はじめて見た果物だ。市場には見たことのない果物がたくさん売られていた。

 ガボーも果物を手にとりながら言った。


「帝都にも輸出されてるけど、むこうじゃ高級フルーツなんだな」


「好きなだけ食え。たりなかったら、俺がまた買ってきてやる」


 ダモンはふとっぱらだ。宿代も市場での買い物も、ぜんぶダモンのおごりだった。

 最初に会った時は印象最悪だったけど、ダモンもガボーも仲良くなってみれば、いい先輩たちだった。

 最初に会った時……と考えた時に、イーアはふと思い出して、果物をいくつか手に取った。


「くだもの、部屋にもってってもいい?」


 ダモンはこの宿で二部屋をとって一部屋をイーア専用の部屋にしてくれていた。イーアは別に相部屋でもよかったけれど、何か言う前にダモンは「こっちはレディー専用だ」と言って部屋のカギをくれた。


「ああ。いくらでももってけ。果物は数日は持つから、ムトカラへの道中で食べればいい」


「よっしゃ、じゃ、このフルーツ、もっと買ってきてくれよ。これ、むっちゃ、うめぇ」


 オッペンはいつも通り先輩たちに遠慮がない。

 しばらくして、ダモンは買い物に行き、イーアはおなか一杯になったので、いくつか果物を手に取ってもうひとつの部屋にむかった。

 イーアは部屋を移ってひとりになると、すぐにヤゴンリルを召喚した。


『ヤゴンリル、このバララセの果物、祭壇のところにお供えして。マーカスが亡くなったところに。あとでみんなで食べちゃっていいから』


 どうせマーカスはお供えものを見ても、「ふん、そんなものいらないよ。貧乏人は自分たちで全部食べればいい」とかイヤミな感じに言いそうだな、と思いながら、イーアはヤゴンリルにお願いした。


『我らは果物なんぞ食べぬが。祭壇前に飾っておこう。おもしろい見た目だから、チルランが気に入るかもしれん。あの妖精はずっと落ちこんでいる様子だからな』


『うん。よろしく』


 イーアから果物を受け取り、ヤゴンリルは姿を消した。



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