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ダークエルフの召喚士 ~精霊の森の生き残り、魔法学校へ行く~  作者: しゃぼてん
第2部 密林の巨鳥と水竜 1章 バララセ大陸へ

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2-8 ヤララ

 ウェルグァンダルの塔では年が明けてすぐに年始の儀という集まりがある。

 イーアがヤララのことを知ったのは、その年始の儀の日だった。

 イーアはその日、朝からリグナムの手伝いをしていた。


「リグナムさん。クーちゃんが、食べ物は10人分くらいしか用意できないって。どうしよう」


 イーアが心配しながら料理鳥のクーちゃんからの伝言を伝えると、リグナムは叫んだ。


「もー! 君たちが冬至祭に食料全部食べちゃうからー!」


 正確には、イーアが冬至祭に食料を全部食べたわけじゃない。

 イーアが冬至祭の日の溶岩魔神との戦闘で、ウェルグァンダルの冷凍ボックスにいたヒューラックを召喚して弱らせちゃったせいで、キッチンの食材が冷やせなくなったのだ。

 だから、冬至祭の翌日、クーちゃんがあわてて豪華食材の料理を作りまくって……とってもおいしい料理がたくさん食べられたけど……。

 今、年始の儀用の食材が足りないらしい。


 リグナムは肩をすくめて言った。


「まぁ、でも、たぶん10人もこないから、大丈夫だよ。なにせガリの人望はゼロにひとしいからねー。しかも、ガリってひどいことに年始の儀の連絡するときに、「別に来なくていい」って書いちゃうんだよ。だから、毎年、ゲオ先生の人望でかろうじて式がなりたってるんだ」


 イーアは前から疑問に思っていたことをたずねた。


「ウェルグァンダルの召喚士って、全部で何人いるんですか?」


 イーアが今知っている<召喚士>は、ガリの他には二人だけだ。ゲオと……ウェルグァンダルを離れて<白光>に入ったザヒだけ。


「えーっと、今は22人、いや、君が増えたから、23人だよ」


「それしかいないんですか!?」


 イーアはなんとなく、召喚士は100人くらいいるのかと思っていた。


「そうだよ。元々、ウェルグァンダルって、<見習い>はたくさんいるけど正式に入門を許可された<召喚士>は少ないんだ。だから、君は選ばれし少数精鋭の<召喚士>の一人なんだよ。こんなんでも」


 ズバッとイーアを指さしながらリグナムは言った。

 こんなんでも……とリグナムに言われても言い返せないくらいに、イーアは何も知らない。なにしろ、何も習っていないのに、いきなり<召喚士>にされたのだ。

 ガリは本当にむちゃくちゃだ。

 イーアはガリに感謝も尊敬もたくさんしているけれど、ウェルグァンダルの人達がガリについていけないのは、無理がない気がした。


 年始の儀にむけて、リグナムは塔に帰ってきた<召喚士>をお迎えしたり、準備をしたりと、大忙しだ。

 「あー、準備が間に合わない! 君、大広間を掃除しといて!」とリグナムに頼まれて、イーアがモプーヌやマホーキと一緒に大広間の準備をしていると、そこへ、ガリがやってきた。


『今日は年始の儀だと、ヤララに声をかけて来い』


 ガリはいつものように不愛想にイーアに指示をだした。


『ヤララ?』


『この塔に住んでいる召喚士だ』


 それだけ言って、ガリは去って行ってしまった。

 イーアは首をかしげた。


(この塔に住んでいる召喚士? ……え!? この塔に住んでる召喚士の人がいるの!?)


 イーアは、この塔にはリグナムとガリしか住んでいないと思っていた。

 なにしろ、リグナムとゲオ以外の人にイーアは会ったことがない。冬休み中はずっと塔にいたのに。

 イーアはいそいでリグナムを探してたずねた。……リグナムはいそがしかったはずなのに、食堂でお茶を飲んでいた。


「リグナムさん! リグナムさん! ヤララさんって知ってますか?」


「もちろん。ヤララはこの塔にいつもいる召喚士だよ。塔に来る依頼の手配とかをしているんだ。ガリはそういう仕事やる気ないから、ヤララがいてくれるおかげで、なんとかウェルグァンダルはもってるんだよ」


「そんな人が塔にいるのに、なんで教えてくれないんですか? わたしはヤララさんに一度も会ったことないです」


 リグナムはあっさり言った。


「そりゃ、会えないもん。僕だってもうずーっと会ったことないよ。ヤララは部屋から出てこないから」


「え? ヤララさんは病気なんですか?」


「いや? たぶん、元気だと思うよ。仕事はバリバリしてるから」


「どういうことですか?」


「どうもこうも、単にヤララは外に出てこないんだよ。人間嫌いで。つまり、引きこもりなのさ。食事もクーちゃんが運んでるんだよ」


「ヤララさんって、ひょっとして、ガリみたいな人?」


 リグナムは同意した。


「タイプは違うけど、ちょっと似てるかもね。ヤララもガリとはしゃべるみたいだし」


「で、ヤララさんはどこにいるんですか? ガリに、ヤララさんを年始の儀に呼んで来いっていわれたんですけど」


「ヤララの部屋は11か12階くらいだったと思うけど。僕もちゃんとはおぼえてないよ。塔の外側から見ると霊鳥が集まっている窓があって、そこがヤララの部屋だよ。……ねぇ、大広間って準備できた?」


 「自分で見てきてください」とリグナムに言って、イーアはいったん塔の外にでた。たしかに、かなり高い所に、鳥がたくさんとまっている窓があった。


(うーん。あそこまで飛んでいくのは……ちょっと怖いよね)


 『風船鳥』を召喚すればあの窓の場所まであがれないこともないかもしれないけれど、イーアはまだ浮遊魔法が使えないから、落ちたら死んでしまう。

 イーアは塔の中に戻って、だいたいこの辺かなという階をまわって部屋を探すことにした。ヤララの他には塔に住んでいる召喚士はいないから、どうにかなるはずだ。


 イーアはコプタンを呼んで、中に人がいそうな部屋を探してもらった。

 コプタン達はすぐに見つけてくれた。


『あったよー。ここだよー』

『とっても、鳥くさいよー!』

『鳥くさすぎて鼻曲がりそー!』


『ありがとう』


 イーアはドアの前で騒いでいるコプタン達にお礼を言って、クーちゃん特製クッキーをわたして帰ってもらった。

 イーアはドアの前に立った。たしかに、ドアのむこうから濃い精霊の気配がする。

 イーアはちょっと緊張しながらドアをノックして声をかけた。


『こんにちはー。はじめまして』


 さっきまでコプタンとおしゃべりしていたから、イーアはつい精霊語で話しかけていた。

 部屋の中であわててドタバタする音が聞こえた。


『だ、だ、だ、誰!?』


 返事も精霊語だった。


『はじめまして。わたしはイーア。新しく入門した召喚士』


『召喚士? 人間? か、か、か、帰って!』


 ヤララは想像以上に人間嫌いっぽかった。ガリでさえ、人間は帰れ、なんて言わないのに。


『ガリに、今日は年始の儀だから、ヤララを呼ぶように言われて……』


『わたしは年始の儀なんて出ない。ガリはわかってるはず』


『そーなんだ。じゃ、ガリに言っとくね』


 イーアがガリに言われた仕事は終わった。ヤララは帰ってほしそうだ。でも、イーアはヤララに興味をひかれたので、すぐには帰らなかった。


『ねぇねぇ、ヤララの精霊語って、クーちゃんのとちょっと似てるね。話しかたは違うけど』


 同じ精霊語でも種族によってしゃべり方が違う。ガリのはドラゴン特有の竜語らしいけど、ヤララのは、たぶん霊鳥の精霊語なんだろう。


『そっちこそ、獣っぽい』


『うん。わたしは霊獣といっしょに育ったから』


『そ、そうなんだ……』


『じゃ、またね』


『もう、こなくていいよ』


 イーアはガリの部屋に行って、ヤララは来たくないらしいと伝えた。ガリは『だろうな』とだけ言って、それで終わりだった。ヤララが言っていた通り、はじめからヤララが来るとは思っていなかったらしい。


(でも、さそうのは大事だよね。のけものにされちゃ、さびしいもん)


 それに、イーアはヤララと初めて会えて、いや、会えてはいないけれど、会話ができて、うれしかった。

 


 冬休みが明けてグランドールに戻ってからも、イーアは毎週末、ウェルグァンダルに戻るたびに、ヤララの部屋をたずねた。


『なんで毎週来るの?』 


『来たよってあいさつだよ。いつもリグナムとクーチャンにあいさつするから、ヤララにも。あと、おしゃべりするため』


『あいさつなんて、しなくていいよ』


『じゃあ、おしゃべりだけするね』


『ちがっ。それ、意味ない……』


『だって、いつもガリはいなくて、塔にはおしゃべりする相手、リグナムとクーちゃんしかいないんだもん。ねぇ、ヤララの部屋に入っていい?』


『だめ。ここに入れるのは、霊鳥だけ。塔主はしかたないから、いれるけど……』


『じゃ、ここでおしゃべりするよ。ねぇ、ヤララ、召喚おしえて?』


『いそがしいから無理』


『いつもなにしてるの?』


『依頼の手配。霊鳥に頼んで、各地にいる召喚士にメッセージを届けてる』


『依頼ってなに?』


『そんなことも知らないの? ……きみにはまだ早いから、ガリは教えていないのかな』


『ガリはなにも教えてくれないよ。だから、おしえて』


 ドアの向こうでため息が聞こえた。


『ウェルグァンダルには、各地から精霊と人の紛争を調停してくれって依頼がくるの。私たちはそれを解決して報酬をもらってる。それが塔の運営費になる』


『そんな仕事があるんだ……』


『とても大事な仕事。精霊と人の争いをなくすことが、ウェルグァンダルの召喚士の使命だから』


 それを聞いて、イーアは即座に叫んだ。


『わたしもやりたい!』


 <白光>に狙われていてそれどころじゃないことは、その瞬間は忘れていた。

 ヤララはすげなく言った。


『君にはまだ早いって。依頼を受けられるのは、ガリに許可をもらってから』


『じゃ、ガリに手紙を送ろうかな』


『むり。まだ召喚契約の旅の許可もおりてないのに、任務の許可がおりるわけない』


 それでもイーアはガリに手紙を送ってみたけれど、ヤララが言う通り、ガリの許可はおりなかった。ガリからは、『そんなことより今は自分の身を守ることを考えろ』と、ティトが言いそうな返事が返ってきた。

 たしかに、冷静に考えれば、今は召喚士の仕事をしている場合じゃない。


(はぁ……。白装束たち、いなくなってくれないかな。そしたら、精霊と会う旅とか、召喚士のお仕事をバンバンできるのに)


 でも、<白光>は帝国とともに健在だ。

 このままずっと、召喚契約の旅も任務も無理かもしれないと、イーアは思った。

 半年もしないうちに旅に出ることになるとは、その時イーアは思いもしなかった。

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