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隼人は久しぶりに自分のフライヤーに跨った。クッションがついているとはいえ、お尻がいたい。フライヤーに乗り始めた頃は、この痛さに慣れるまでが大変だった。当時はあまりの痛さに、鏡で自分のおしりを見てみたら、青い痣ができて驚いたものだ。きっと柚月も同じように痣ができているのだろうと、聞いてみたら、顔を赤くして「エッチ……」と言われたのをはっきりと覚えている。まさかそのフライヤーに乗ることになるとは、想像すらしていなかった。スカイングであれだけの屈辱を受け、辛い思いをし、それが嫌で遠ざかってきたのに、スカイングは逃げ道をとうせんぼうをするかのように、目の前で待っていたのだ。
再びフライヤーに乗ることに隼人はやや不安を持っていたが、一種の楽観も同時に持っていた。なぜなら一度も乗ったことのない部員、奏多がいるからだ。きっとレベルはそれほど高くはないだろうし、蘇我東と比べてしまえば、その差は歴然だろう。蘇我東時代、隼人はフライヤーに乗ることができない、使えない戦力としてカウントされていた。ある事故がきっかけだった。しかし、完全に飛べないわけではいない。ある程度はしっかりと飛べるまでにはなっている。ただ全速力で飛べず、すぐにバランスを崩してしまうという、選手としては致命的な欠点を持っているのだった。
ゆっくりなら飛べるし、他の部員にこのことがばれる心配もないだろう。
そう、楽観視していた。しかし、吉良の登場によってその状況が変わってしまった。
横でスタートの準備している吉良を眺めた。大きくて切れ味のある鋭い目は、ずっと真っ直ぐ先を見つめている。魔力転換石が、白くやや赤みがかった色に光ると、吉良は宙を浮いた。
「なあ、相当速いんだろ? 俺、すごく遅いよ。多分、勝負する意味、ないと思うんだけど?」
「あ、っそう」
吉良はこちらに見向きもせずに返事をした。
「ちょっと気になっただけ。県内じゃ敵なし、天下の蘇我東の部員が、こんな部活として機能しているかすら怪しい学校にきたということはそれなりの理由があるってことでしょ」
フライヤーの魔力転換石が、黒くやや紫がかった色に発光すると、隼人は宙に浮かんだ。ややぎこちなく、揺れが大きい。まるで、自転車に乗りたての子どものように、今にもバランスを崩しそうだ。おぼつかない様子だが、隼人はなんとか吉良の横でまで浮かび、静止することができた。
「つまり、遅いってわかりきってる俺をいたぶって楽しもうってこと?」
「いや。遅い人は蘇我東のスカイング部になんて入れないよ。だから、気になったの」
吉良の目はずっと遠くを見ていた。
この目に、隼人は身に覚えがあった。この純粋な目。彼女は悪い人ではないのだろうと、すぐにわかる。
「でも、俺が絶対、吉良に負ける、いや勝負にすらならないってことは、なんとなく今震えている俺を見てわかるでしょ?」
「さあね。でもあなたから学べるものがあるかも。とりあえず、今は過去のこととか、フライヤーのぎこちなさとか、そんな小さいもの忘れてレースに集中しない?」
隼人は急に黙った。吉良が言っていることが最ものような気がしたからだ。隼人は迷っていた。遅く飛べば、バランスを崩して転落する可能性はぐっと減る。遅いと嘲笑されるかもしれない。だが転落する恥よりはずっとましだ。
フライヤーに乗れないスカイヤーなんて、バカにされることもない。
もし、全速力で飛べば、少しだけ彼女についていくこともできるかもしれない。必ずバランスを崩してしまうことになるが。だが、彼女の求めていることに応えることはできそうだ。
吉良が求めていること。
本気のレース。
「さあ、二人とも準備はいいですか?」
オレンジに光るドローンから、サムの声が聞こえた。ドローンがよりいっそう、強く光ると、拡張現実魔法により、空にナビが現れた。ナビはルート、時間、全体マップ、高度が示されている。大体標準的な情報量だ。
「私の開始あいずと共に、ドローンが橙色から緑に光を変えたらスタートです」
隼人はぎゅっとフライヤーを握った。どうせ、失うものなんてないのだ。少しだけ。少しだけやってみよう。
「では、いきます。よーい……
合図とともに、視界が徐々に狭くなった。呼吸がより深くなっていき、世界が静かになる。すると、心臓の鼓動が聞こえてくる。この感覚だ。長い間、この感覚をすっかり忘れていた。
「スタート!」
アレッタが突然割り込み、ドローンが緑色に変わった。
「あ、ちょっとなにしてるんですか!」
あまりにも早い合図、通常であれば、号令までは三秒間を開けなければならないが、アレッタはすぐにスタートさせてしまった。
合図と同時に吉良は全速力でスタートした。
「あれ?」
一方で普段とは明らかに違う様式に、隼人はスタートが遅れてしまった。
「ちょっと! なにしてるんですか!」
とアレッタに怒るサム!
「おいいいいい! 新入りの奴で遅れたぞ! どうしてくれるんだああああこの賭けはなしでいいよな? な?」
奏多はアレッタの肩をがっちりと掴み必死に揺さぶっている。
「ご、ごめんなさいい! ついスタートしてみたくなっちゃってッ!」
吉良は県大会で入賞した経験がある猛者だ。一度獲得したリードは、例え相手がプロのスカイヤーだとしても、そう簡単には先を譲らないだろう。
「あれ? 隼人が抜き返した……」
三人を放置して、レースを観戦していた葵が呟いた。
「「「なにッ?」」」
三人がスクリーンに戻った。
なんと、スタートしてすぐ、第二コーナーよりも随分手前で、隼人が吉良を抜かしていたのだ。
あまりにも一瞬で抜き返されてしまったことに、吉良も驚いた。
そして何よりも、抜かした隼人自身が一番驚いていた。
「吉良さんの立ち上がりは相当速いはずです。確か、最初の一キロは、新人賞を獲得した蘇我東の走水柚月選手とそう劣らないタイムだったはず。それを、こうもあっさり抜き返すなんて」
それだけではない。隼人と吉良の差が明らかに開いてきている。
「す、すごい! 俺が期待してただけあるぜ! いけ新人! 食券をとってこい!」
「奏多は吉良にかけたから、隼人が勝つと、食券失うよ?」と冷静に言う葵。
「あれ? そうだっけ? じゃあ、まずいじゃん! でも、なんかいいから行け! 俺の食券を持っていけ!」
「いけ~いけ~新人くん! 私の食券も持っていけこのやろう!」
いける。
まるでこの声援が届いたかのように、隼人はさらに加速した。しかし次の瞬間、第一コーナーに差し掛かったときだった。
あれ、曲がれない!
隼人は曲がらなければならないところを曲がれずに直進し、コースアウト、そのまま木の茂みに突っ込んだのだった。
「あれ……」
と固まる奏多。
「なにやってるんだ、バカ野郎!」とアレッタ。
「飛ぶときは前見てくださいよ!」とサム。
無表情のまま、無言でため息を吐く葵。
「一瞬、隼人くんが勝つと思ったんですがね……」
「いいぞ! キラー!」
吉良は第四コーナーを曲がり、校舎の前を颯爽と通過し、二週目に突入した。
一方で、隼人はまだ第三コーナーを曲がり終えたばかりだ。一週目で大きな差が生まれてしまった。先ほどと異なり、スピードが出ておらず、今にもバランスを崩しそうな、不安定な飛行をしている。
「こりゃあ、キラーの圧勝だな」
「だね、キラーちゃんと新人くん、凄い差がついちゃったよ」
吉良が二週目を終える頃には、二人の間は半周までに広がっていた。
三週目はクライミング。高度千メートルまで、急上昇しなければならない。吉良はフライヤーの先端を上空へ向け、力一杯、空へ登った。だが高度が上がるにつれ、その表情はみるみる険しくなっていく。
「いやあ、あれはきつそうだねえ」
アレッタはスクリーンから離れ、上昇する吉良の小さな背中を眺めた。
「あれがキツイの?」
奏多は不思議そうに遠くを眺める。
「相当キツイですよ。あ、奏多くんはフライヤーに乗ったことが無かったんですよね。まあ、全速力で坂を駆け上がってるようなものですから」
物体が自ら動くには、エネルギーが必要なのと同じで、フライヤーを使って空を飛ぶのにもエネルギーが必要である。スカイヤーたちは己の魔力を消費して、それを運動エネルギーに変換している。魔力を変換するには体の気管を働かせる必要がある。体の気管を働かせるには、酸素が必要になる。そう、スカイングという競技は体力を消費する。れっきとした有酸素運動なのだ。だから選手は鍛え、魔力量や体力を増やそうとする。そう、これはスポーツなのだ。
隼人も二週目を終え、三週目のクライミングに突入した。差は半周以上も広がってしまった。
登りに入ると、運動量がガラリと変わる。魔力をフライヤーに送りこんでも、なかなか上へは進んでくれない。
隼人のフライヤーは奇妙な登り方をしている。まるで自動車のセルモーター発進のように、一瞬だけ大きく進み、勢いが失われ、またしばらくすると、一瞬だけ進んでいる。
登り初めてから体が急激に酸素を欲しはじめ、呼吸が荒くなる。空気の摩擦で肺が熱せられて熱い。今にも灰が破裂してしまいそうだ。喉元から血の味を感じる。高度が上がるにつれて風が冷たくなっていく。手がかじかみ、感覚がなくなっていく。
苦しい。
『お前、スカイング部に推薦で入ってきたのに、ろくにフライヤーに乗れないの? それってただのゴミじゃん』
頭の中で呼び起こされる声。
『お前はクズ以下の戦力だ。この部活にはいらん』
『知ってるぜ? お前ダグラス・ローザンベルトからスカイングの技術を学んだことがあるんだろ? 二人そろって同じ事故なんて、可愛そうに』
『やっぱり知らなかったんだ。隼人君って可哀想だよね……同情するよ。幼馴染なんでしょ? 昔はスカイングのレベルも同じくらい、いや、むしろきみの方が速かったって聞いたよ。それが、今ではどう? 柚月ちゃんは一年生で全国駅伝入賞を経験。さらに一人しか選ばれない新人賞を獲得。それに比べて隼人君は、ろくに飛ぶことすらできなくなった、羽をもがれ、死を待つだけの鳥。ゴミ以下の存在』
苦しいのが嫌で、全てを諦めて。全てを捨ててここにやってきた。その選択が最善だと思っていた。なのにどうして。
どうして俺はまた空を飛んでいるのだろう。
『違うよ、隼人はすごい才能を持ってると私は思うよ』
夕方の帰り道、一人で帰っていると、柚月が話しかけてきた。訳を放すと柚月はそう言った。思い返すと、柚月はいつだって、隼人の味方をしてくれて悩んでいるときは励ましてくれた。ずっと支えてくれていた。部活の後疲れているのにフライヤーに乗る練習に付き合ってくれた。上手く乗れたときは、自分以上に柚月が喜んでくれた。柚月がそばにいてくれた。だから、どんなに陰口をたたかれても、めげずに努力を続けることができた。彼女の背中を追おうと、進むことができたんだ。
『柚月ちゃんから、水島先輩にアプローチしたんだって。ほら、柚月ちゃんて顔が可愛いし、勉強もできるし、スカイングもすごい記録持ってるじゃん。だから水島先輩もすぐに落ちちゃったらしいよ』
なんでこんなことをしているのだろうか。スカイングと関わっても、苦しいことしかない。嫌なことしかない。
隼人は徐々に速度を落とした。
ゆっくり飛ぼう。今、苦しんで全力を出して飛んだら、苦しみから解放されるのか? そんなわけがない。なら、苦しくない方を選ぼう。
「あれ! 隼人くん、急に速度落としちゃいました」
校舎の屋上で、隼人の異変に気がついたのはサムだった。
「え、そうか? う~ん、あんまり変わらない気がするが」
奏多は目を細めて、スクリーンを見る。
「本当ですよ! 明らかに速度が落ちています。何かあったんでしょうか?」
サムは「おーい」とスクリーン越しに手を振った。
葵は黙ったまま、スクリーンから離れると、遠くの点となった隼人の背中をただただ見つめた。
隼人はふと、フライヤーの先端に何かがはためいているのを見つけた。ゆっくり飛行し始めて、視界に余裕ができたためだった。
目を凝らしてよく見てみると、それはミサンガだった。このフライヤーと一緒に捨てたはずのミサンガ。
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青い空に描かれた白い一線。それは空高く上昇し、頂上まで上がると、稜線は空を切り裂く鋭敏な角度で地上へと向かう。まるで空に描かれた鋭い氷山。一線の雲はやがて風の内に溶けて行く。その様は真夏の氷山。
当時小学校低学年だった隼人は、スカイングという競技に魅了された。
「柚月! 早く見に行こうぜ!」
「もうちょっと待って、隼人!」
お互い家は近かいが、お隣同士というわけではなく、数ブロック離れている。隼人の家はいたって普通の平凡な家庭だった。柚月は大きな三階建ての家に住んでいた。なんでも両親が共に大学の教授らしい。だが当時は、それがどのくらいスゴイのか、よくわからなかった。
あることをきっかけに、二人はよく遊ぶようになったのだ。
この日も、隼人は柚月を連れて、スカイングの競技を見に行くのだった。
「やっぱり、俺はダグラスローザンベルトが一番好きだな。一番早いし、一番かっこいい。柚月は?」
「私も同じかな」
「なんで?」
「隼人が好きだから」
「なんだそれ!」
この日、競技は町中で行われた。道路は完全規制。国際大会ということだけあって、町は大盛り上がり。隼人は柚月の手を取り、人ゴミの間を縫うように進んだ。
抜けると白いガードレール、強い日差し。アスファルトが熱を反射し、空気が揺らめいている。
「きた!」
誰かが叫んだ。轟が伝播してきた。
風と共に、スカイヤーの列がやってきた。その速さと迫力はまるで雷のようだった。近くの建物の窓ガラスが揺れている。切り裂かれた空気が、隼人と柚月の顔にかかった。二人は一段が過ぎ去るまで、耳を塞いでいた。
二人は顔を見合わせた。ガードレールから二歩ほど下がっているのを見ると、笑いあった。風圧で乱れた髪を柚月は直している。
「すげえ……」
「ね……人ってあんな速く飛べるんだ」
「俺、決めた。俺も将来、速く飛べるようになる!」
「隼人ならなれるよ!」
「柚月も一緒にならない?」
「え? いいの?」
「もちろん! 一緒に、この舞台で飛ぼうぜ」
「うん、いいね! 約束だよ!」
隼人は手首に結んであったミサンガをほどくと、柚月に渡した。
「じゃあ、これは約束の印な」
「ありがとう」
二人は夢を共にした。
しかし、数年後、あの事故が起きてしまい、隼人はフライヤーに乗れなくなってしまった。一時期は、リハビリやトレーニングを続け、復帰に向けて努力をした。だが、なかなか症状は良くならず、高校に入り、一度隼人はスカイングを諦めかけ、リハビリをやめてしまった。
そんなある日だった。
このミサンガを柚月が渡したきたのだ。
なんでスカイングを始めたのか。それは、憧れていたから。好きだったから。二人の夢だったから。それがいつしか、戦いの厳しい場となり果ててしまっていた。それを思いださせてくれたのが、柚月のミサンガだった。約束のミサンガ。
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三週目後半、隼人はなんとか高千メートルに到達した。視界いっぱい、雲なし。左手には太平洋が見える。右手には深緑の森林地帯。目視することはできないが、さらにその奥には東京湾に面する蘇我東高校があるはずだ。
ここから海岸線まで土が剝き出しの田んぼが続いている。
隼人は深呼吸をすると、再び発進した。
屋上にいたメンバーはすっかり勝負がついたものだと思っていた。奏多はゲームを始め、アレッタはその隣で「そのゲーム面白いの?」と画面を見ている。
サムはノートになにかを書き込んでいる。
スクリーンを見ているのは葵だけだった。
「ねえ」
葵は他のメンバーに呼びかけた。だが、返事をする人は誰もいない。皆、レースに興味を失ってしまっている。
「見なくていいの?」
「ああ、ちょっと待ってください。今、練習メニューを考えているので」
「でも、隼人がすごい速さで追い上げてるよ」
「うそおおおッ!」
サムは飛び起きると、スクリーンを見た。隼人と吉良の差はまだ半周ほど開いている。しかし見てすぐに、隼人が追い上げているのがわかる。
「ほんとだッ! 皆さん見てください! ゲームなんてしてないで!」
サムは奏多のゲームの電源を落とした。
「あああああああああ! なにしやがる!」
「隼人くんが猛烈な追い上げを見せています!」
「あら、本当だ! 新人くん、すごいね!」
「やはり、彼は堀上高等学校の救世主なのかもしれませんね……」
四週目の後半に差し掛かり、吉良はやや速度が落ちていた。だが、わざと速度を緩めているわけではない。前半スピードを上げ過ぎてしまい、体力が持たなくなってきたのだ。ぎりッと歯を食いしばっている。後半は吉良の大きな課題だった。県大会の個人戦でも、同じだった。後半に失速してしまい、順位を三つも落としてしまったのだった。
それだけではない。吉良は背後から不気味なオーラを感じていた。背中をそのオーラが舐めている。勝手に神経が反応し、ぶるりと震えあがる。なんて気持ち悪い感覚なんだ。
後ろから来ている。
はっきりとわかる。
吉良は後ろを振り返った。そしてすぐに視線を前に戻した。
奴は、奴はバケモノだ。後ろから刺される。
スピードが自然と上がった。これは恐怖から逃れるために、本能が体の秘めた力を出力させたのだろうか。
四週目が終わり、五週目に入った。
ホログラムの岩が無数に現れた。五週目はダイビング。高度千メートルから地上までイッキに駆け下りる。だが障害物があるため、直線的に降下することはできず、避けなければならない。だからといって、スピードを落とすわけにもいかない。最大の速度で、最短の距離を、体で感じてダイブする。もし岩にぶつかりそうになったら、フライヤーのAIアシスタントによって自動的に速度が落ちてしまう。だが搭載されたAIが障害物を瞬時に認識し、自動で方向を調節してくれる。吉良のフライヤーは性能が良く、ダイビングも得意としていた。そのため吉良はダイビングにそれなりの自信があった。
だが、次の瞬間、隼人は吉良を抜き去った。一瞬の出来事だった。
吉良は隼人を追いながら驚いた。
隼人は障害物のほんの数センチ、いや数ミリの単位でかわしている。しかもスピードを一切落とさず、あり得ない速度で。ありえない。普通であれば、アシスタントのAIが自動で減速させるはず。
吉良は必死になって隼人の背中を追いかけた。だが、差はみるみる広がっていく。まるで、彼の背中にはジェットエンジンでもくっついているかのようだ。
しかし、次の瞬間だった。
隼人は障害物に触れてしまった。ホログラムが警告の色に変わる。さらに隼人はバランスを崩し、ホログラムをいくつも突っ切ってしまった。吉良はすぐに気がついた。
隼人は制御を失ってしまっている。
異変には、屋上にいたメンバーも気がついていた。
「ちょっと誰か、スカイングに自信がある人、助けにいってくださいッ!」
とサムが叫んだ。
アレッタが、フライヤーを持つと、駆け出した。そして、柵と飛び越えると、空中でフライヤーに跨り、隼人の方へ飛んだ。
「うわ、すごい運動神経」
奏多はボケっとそれを眺めた。
吉良もホログラムを無視し、直線的に落下する隼人へ向かった。
地面からわずか数メートルのところで、吉良が隼人を受け止め、アレッタがフライヤーをキャッチした。