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第28話 皇二、不良と対峙。視点、皇二


「はいボディーブロー!」


 かれこれ何分経ったのだろうか。

部活勧誘のための投げられ屋は、何故か殴られ屋になっていた。

2人組は交互に腹部や頬を殴打する。

俺はただ、その攻撃に耐え抜くしかなかった。


「なぁ、うめき声ばっかでつまらなくね? 剥ごうぜこれ」


 倒れ込んでいると、頭を掴まれて覆面を剥ごうとしてきた。

こんな奴らに顔を覚えられたら、後でどうなるかわからん。

覆面の布に2方向からの力が加わり、耳元でミシミシと引きちぎれそうな音が聞こえた。


「ハハハ! こいつ絶対ブサイクだろ」


 不良たちは必死に覆面を守る俺をあざ笑い、なおも引き剥がすことを止めなかった。

しかし埒が明かないと思ったのか、みぞおちに蹴りを入れられる。

ダンゴムシのように背中を丸め、両腕を撃たれた部位に自然とかざした。


「よっし、雑魚野郎はどんな顔してんのかなー」


 顔を晒されようとしたその時、誰かが遠くから喋りかける。

覆面越しに声の方へ向くと、先ほど投げられ屋に参加した3人がいた。


「んだよお前ら」


「だから、それ以上暴力を振るうと先生呼びますよ?」


 3人はどうして戻って来たのかわからない。

けど、彼らの機嫌を損ねたのは間違いないだろう。

2人組の標的は完全に俺ではなく、気弱そうな3人へ切り替わったのは確かだ。

散々興味を持った俺の頭から手を放し、離れていった。


「お前ら、いい度胸しているなぁ。呼んで見ろよ教師をよぉ。後でどうなってもいいならな」


 1人がそう言い放つと、3人はビクりと反応して気張った顔が段々と崩れていった。

逃げようと3人が背を向けると、またしても2人組は怒声を出す。


「逃げてもいいが、お前らの面はスクショした。今ボコられるのと、後でもっとボコられるの......選べ」


 3人は足をガクガクと震わせながら、ピタっと走る構えのまま静止した。

2人組は3人の中で一番小柄な生徒の肩にポンと肘を置き、口を開く。


「イキってたのにダサいねぇ。そんなボコられたくないなら金出せよ」


 俺は左手でみぞおちを抑え、痛みがまだ引かない状態で立ち上がった。

3人を巻き込んだんだ、熱士のように尻拭いは自分で......。

でも柔道を多少習ったとはいえ、体格のいいあの2人を一変に倒すのは無理だ。

ここはとりあえず、ゆっくりと近づいて隙を狙うしかないか。

そう思いすり足で迫るも、小柄な彼が財布を取り出すのが遅かったためか、不良は腕を振り上げた。

その瞬間、急ぎ足に切り替えたが間に合う距離ではないと悟る。


「今時カツアゲなんて流行らないわよ?」


 突如、不良の腕を誰かが掴んだ。

顔がくっきりわかる距離へ来ると、その人物が縁下さんであることがわかった。


「あぁ? お、お前そこそこいい面してるな。名前はなんていうんだ?」


「私は縁下陰子です。柔道部のマネージャーをしています」


 あぁ!

縁下さん、不良に顔と名前を覚えられたらヤバいって!

真面目な性格の彼女は、睨み返して淡々と素性を明らかにしてしまった。

男ニヤニヤしながら彼女の胸へ手を伸ばす。

クソ、逃げるな俺!

俺は覆面を剥ぎ、縁下さんに接近する男の顔面へ投擲した。


「なんだこれ!」


 目を瞑った一瞬を突き、懐に入り彼を投げ飛ばした。

男はコンクリートに背を当てたためか、のたうち回る。


「てめぇ、何してやがんだ」


 残ったもう一人は小柄な彼から離れ、バタフライナイフを取り出した。

頭に血が上って少し理性が失われたように見える。


「佐藤......君?」


 今にも突進してこようとする不良と対峙している最中、隣で縁下さんが驚いた表情でこちらを眺めて来た。

そうだ、彼女も巻き込むわけにはいかないんだ。

肺の空気が空っぽになるまで吐き終え、眼前のナイフ男に向かって口を開く。


「俺は......俺は佐藤皇二! 隣にいる彼女は、柔道部のマネージャーじゃありません! 柔道部は俺です!」


 大声でそう言い放つ頃には、ナイフ男は走り始めていた。

聞こえていたかどうかも怪しいが、でもとりあえず彼女は部外者であることは伝えることができた。

でもどうするか?

ナイフを持った相手に勝てるわけ......。


「おーい! そこでお前ら何してるんだ!」


「あっ!? 逃げるぞ馬鹿!」


 切羽詰まる中、突然遠くから枯れた声が響く。

倒れ込んでいた男は痛みに耐えながら立ち上がると、ナイフ男の腕を掴んだ。

教師が来ていることを知った彼は、こっちを睨みつけ、舌打ちをしながらその場を去った。

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