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第17話 皇ニ、提案を受ける。視点、皇二

 「キュッ」と、上履きが廊下を滑る音がしたものの、教室の扉を開くとかき消された。

いつもなら一番乗りし、教室の隅で勉強をしていたのだ。

しかし、今日はしつこい勧誘者のおかげで出遅れたらしい。

室内へ入るとそこらで3・4人ぐらいの友達グループの輪があり、話し声がそこら中から響いた。

落ち着いた朝を迎えたかった俺としては、かなりテンションが下がる一日が始まった。

そう思いながらため息をついて席へ腰を下ろし、校庭を眺める。

勉強に集中できない以上、こうして授業が開始するのを待機するしかない。


 だが幸いにも、この待ち時間に退屈を覚えることはなかった。

この出遅れの元凶である"太眉の男"への対策を考えるにはいい時間配分といえる。

それにしても、アイツは何故こんなガリ勉男に頑なに柔道部へ入らせようとしているのか?

確かにあの夜、助けに入ってくれたことは感謝している。

その恩を返せという意味合いを含めて勧誘しているのだろう。

しかし、このガリ勉男を入部させたところで戦力なんかにはならない。

となれば理由は1つ、欠員が多すぎて大会に出場できないとかか?

うーん、穴埋め要員を当てるなんて俺のコミュ力じゃできない......どうしたものか。


「おはようございます!」


 聞き馴染みのある女性の声が、騒がしい空間でもよく耳に入った。

やはり容姿が段違いだからだろうか、彼女が教室へ入るだけで少し雰囲気が変わるような気がする。

男たちは話合いを続けながらも、時折彼女へ目線をチラチラと向けている。

女性陣も嫉妬というより憧れ的な感覚なのか、同じく見ていた。

しかし愛菜フレンズ2人だけは彼女へ向かっていった。

黒板側の扉近くで、彼女の前に来ると頭を下げる。

言葉は遠くでわからないが、謝っているであろうことは察しがつく。

2人と数分会話をした後、メリディアナはその場を離れた。

で、俺の隣の席に到着。


「愛菜ちゃん明日には退院するそうですよ。よかったです」


 楽しそうにそう報告する彼女に、俺は顔を向けずにいた。

はぁ、なーんで勇気出して助けに入った俺は報われないで、メリディアナは楽しい学園生活を送り始めてんだよ。

イライラするから音楽でも聞くか。

この現実から逃避しないでいられる人間がいたら、そいつはサイボーグかなんかだろうな。

イヤホンを耳に当て、再生ボタンを押下した。

すると、艶めかしい女性の喘ぎ声とバチコンバチコンという弾ける音がすっと耳に入った。

しまった、小さいお姉さんの動画を見たまま閉じてたんだ!

やべぇ、こんなの学校で聞き流すとか背徳感とかあって興奮する。

じゃない、バレたら中学人生終わるぞ。

スマホに手をかけ、動画の消去を試みたその瞬間だった。

メリディアナが膨れっ面で片耳につけたイヤホンを奪いやがった。


「もう! 無視しないで下さいよ。そんなにいい曲なんですか?」


 彼女は銀髪を耳にかけ、イヤホンを耳に装着した。

急いで動画を消滅させるも、赤面した様子を見ると手遅れだったようだ。

彼女は顔を反らし、奪い取ったそれをこちらに返還した。

名誉を挽回するための説明をこれから繰り広げようと考えたが......やめた。

結局エ○動画見ていた事実は変わらないし、大した印象回復にはならない。

大事にならず、コイツで済んでよかったと受け入れるしかないだろう。

頬を染め合い、妙な雰囲気がお互いの空間に帯びた。

イチモツ咥えてた女とはいえ、エロを直接理解すると恥ずかしいんだな。

まぁ、こいつもなんだかんだ言って普通の女の子なのかも知れない。

と、冷静に分析をして鼓動を静めようと試みるも、今一つ効き目がない。


 そんな動揺し続ける俺へ、スマホは「ピロリン」と音を響かせた。

メッセージはメリディアナからだ。

隣にいるのに、スマホでやりとりかよ!

とツッコミを入れたかったものの、こっちの方が自分としてはありがたい。


「皇ニさん、柔道部入らないんですか?」


 と思ったが、開口一番で返答に詰まる文言が書き連ねていた。

反応を待たず、彼女は続けて送信をしてきた。


「よかったらなんですけど、放課後柔道部へ見学しに行きませんか?」


「どうして?」


 俺は何も考えず、とりあえず様子見を決めた。


「それがですね、熱士さんに皇二さんの説得を頼まれまして。話を聞いて行って、そういえば部活というものに興味があったの思い出したんですよ! 色々わからないこともあるので、付いてきてくれると......チラっ」


「ふざけるな! 俺は受験で忙しいんだよ!」


 そう入力し、送信に指を置きかけたが脳裏にある考えがよぎった。

待てよ、こいつは柔道部に興味があるといった。

ならばこいつを正式に柔道部に加入させ、欠員を補充すればいいのではないか?

そうすれば俺はもう、朝っぱらからあの暑苦しい太眉と出会うことはなくなる。

よし、そうとなれば......。


「仕方ないな。同行しよう」


 そう返答すると、彼女はニッコリしたスタンプを送信してきた。

ハハハ、お前ばかり楽しい人生を謳歌するのは癪なんだよ。

お前を利用して、俺も少しばかりは楽させてもらおう。

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