毒々しいリズム
ホラー回です
カツン――――カツコツン――――――――・・・
人通りの少ない路地に軽快とも不気味とも感じられるステップが鳴り渡る。革靴にもヒールにも聞こえる足音は街頭の三つ四つ先から聞こえているようで、丁度真っ暗な空間で、月明りだけではどうも心許ない。
酔っ払いか? とも思ったが、この近くに居酒屋はないし、コンビニは今さっき通り過ぎたところだ。家で飲んでいたにしては一九時を指す腕時計に違和感がある。現実的な推測ではどれも少々無理があるようだ。
カツン―――カツコツン――――・・・
私がたじろいでいようとも足音は止まらない。それはある一定のリズムで歩く……というより小躍りをしているようにも、また、全くの不規則に鳴っているようにも聞き取れてしまう。意識を向けていても、ふと予期せぬタイミングで足音はなってくる。
足音の主が街頭の辺りから鳴っているがしかし、音の正体は一向に照らされない。
そうなるといよいよ私の脳は非科学的な分野にまで手を伸ばしだす。冷静に考えられたなら、右往左往していたりだとか、もっと現実的なことを考えられただろうに。今の脳は幽霊や、未確認の……もしくは宇宙人かも。
だが、今まで科学の下で育ってきた頭では一向に結論が出ず、また、この場の打開策も、四肢への命令もできないままでいる。
金縛りの中、熟考と思考停止を繰り返す頭に、やはり全くの気息性のない足音が響き渡る。
カッツンコツン―――――カツン――――――コツカツン――――――
それは目と鼻の先まで迫っていた。未だ金縛りは解けず、いよいよもってこれは夢ではないかしら、と脳が現実を疑いだす。しかし、肌を突く寒さも、近くの家から微かに香る夕食の匂いも、そして遠くで空気を揺らすエンジン音さえもが、私が今聞こえ、見えない恐ろしさが、不気味さが現実であると迷惑にも教えてくれるのだ。
カッツン――――コッツンカッ――――ツンコッカツン―――
私の横を確実に、何かが通っている。
全身が総毛立って歯がカチ……カチ……と鳴り止まない。
カツカツ―――コッツン――カツン――カツン――コツン―――
ぎょろり、とした気持ちの悪い、果ては見られているばかりではなく、今にもナイフが背中に突き立っているのではないかという不気味な目が私を後ろから見る。
止めてください止めてください。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……お願いしますお願いします。
カツン―――――
数時間とも取れる数瞬間が過ぎて、私への興が醒めたのか、音は遠く遠くへと歩いていく。
走り出す。私は必至に走り出す。一目散に一心不乱に走り出す。地平線の奥底にでもあるかという程長い、長い帰路を。安寧の場を求めて求めて走り出す。
バタン!と力強く玄関を閉める。
今になっても、あれが何だったのか分からない。過労による一種の幻聴だったのかもしれない。だが、そうであって欲しい。そうでなければ、私は毎夜毎夜怯えてあの道を通らなければならなくなってしまう。
だからどうか、私の幻聴であってくれ。
ここまで読んで頂き誠にありがとうございます。
趣向を変えてホラーに挑戦してみました。心霊映像でも、バッと現れるものより気づいたら空恐ろしく、蝕んでくるような怖さの方が嫌になるのは私が日本人だからなのでしょうか。
私は時折足音が聞こえてきそうだな、と思ってしまって、するともう足音がしようがしまいがゆっくり壁に背を付けて歩きたくなってしまう程臆病なんです。なのに怖い話は好きなものだから、余計に夜がもっと怖いものになってしまっています。
その中で酔っ払いの不規則なリズムが鳴りだそうものなら……いや、想像してしまうのはやめましょう。
次回についてですが、まだ何を書こうかも考えていません。別で投稿している長編小説のポップコーンの方もある程度溜まってきたので、もしかしたらそっちが先に更新されるかもしれません。
感想、評価の程お待ちしております。