8. ラベンダー色の装いとは意外ですこと
――あれから早ひと月が経ち、舞踏会が開かれる日になりましたのよ。
「お嬢様、本日はいつもにも増してとてもお綺麗ですよ。やはりこのドレスは作られて正解でしたね。」
「ありがとう、アン。」
「お礼を言うなんてやめてください。もうすぐアルバン様がいらっしゃいます。道中お気をつけて。」
実はあれからアルバン様から新しいドレスが届けられましたの。
やはりお色は白で、デザインや生地はそれなりにこだわっておられましたがぼんやりとした印象になることは否めませんでしたわ。
なぜアルバン様は私の髪色や瞳には曖昧で似合わない白のドレスばかりを贈られるのでしょう?
白のドレスというだけでも社交会では目立ちますし、似合わないと分かっていてもそればかりを選ばれるのは何か大きな意図があるとしか思えませんの。
ですから、今回はやはり私の選んだピーコックグリーンのドレスで今日の舞踏会に臨むことになりましたの。
あの年配のクチュリエが仕上げたドレスは想像以上に素敵で、公爵令嬢だった頃でもお目にかかれないような仕上がりでしたわ。
特に随所に施された銀糸の刺繍がとても綿密で繊細で、ため息が出そうになるほどですの。
――コンコンコン……
今日は扉が壊れるような音ではなく、ノックが聞こえましたわ。
現れたのはもちろんアルバン様で、ラベンダー色を基調とされたものをお召しになっていました。
私の瞳のお色味を着てらっしゃるなんて、まるで仲の良い婚約者同士のようで、そのようなことをなさる方だとはあの日記からは読み取れませんでしたから意外でしたわね。
「なんだ、そのドレスは……。」
「ご機嫌よう。どうですか?新しく新調しましたの。とても良いドレスでしょう?」
部屋に入ってくるなり、アルバン様がワナワナと拳を握りしめたのが目に入りましたわ。
「なぜ俺が送ったドレスを着ない!?ふざけてるのか?」
あら、またその単語がお出ましですわ。
この方本当に一辺倒なんですのね。
「ドレスを送っていただき、どうもありがとう存じます。しかし随分と長い間体調を崩してしまったお陰で体型が変わってしまったようですの。そこで新しいドレスを自らオーダーしたのですわ。」
「体型の管理くらい、きちんと俺のドレスに合わせておけ!」
「申し訳ございませんこと。その代わり、今日の宝飾品はアルバン様の瞳の色に合わせた深いブルーの石にしましたのよ。」
しばらくはクルクルした金髪をフルフルと揺らしながら怒りを抑え込もうとなさっていた様子のアルバン様でしたけれど、もう時間も迫ってきていることから諦めたようです。
「クソッ……。タチアナ!行くぞ……。」
「はい。参りましょう。」