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3. あらあら、残念なお方ですこと


 私は服毒自殺を図ったタチアナ嬢のことを知るために更に日記を読み始めましたの。

 他人の日記を読むなんて、とてもはしたない事ですけれど今のこの状況を少しでも理解しておかないと私自身もパニックに陥りそうなのですわ。


「……アルバン様とは、とんでもなくお気立てに難がおありの(自己中心的でいじわるな)方でしたのね。」


 タチアナ嬢の日記を読んで分かりましたことは多くありましてよ。


 まず、殺されたイライザの時は公爵令嬢でしたけれど、今の私はドゥイエ伯爵令嬢という立場でカルザティー侯爵令息のアルバン様と婚約中だということ。


 アルバン様は大変お気立てに難がおありの方で、タチアナ嬢はその振る舞いに長年悩んで、このお部屋で密かに服毒自殺を図ったこと。


 周りの人間は誰一人としてタチアナ嬢の悩みには気付いておらず、タチアナ嬢はずっと孤独だったということ。


「伯爵令嬢では侯爵令息との婚約を自ら破棄することなど、おできにはならなかったでしょう。」


 それでも誰にも知られず密かに自殺を図るなど、とてもお寂しいことですわ。


 他に引き出しから出てきたのは、自殺に用いられたのでしょう毒薬の入っていた小瓶でしたの。


「とりあえず、こちらは人の目に付かないようにまた隠しておいた方が良いですわね。」


 私が件の引き出しを閉めたところで、外から何やら騒がしいお声がしてきましたのよ。



「お待ちください!お嬢様は体調が優れず休んでおいでです!どうかお待ちください!」

「黙れ!侯爵令息の俺に指図するつもりか?侍女風情のくせに生意気な!」


――バーーーーンッッッ!


 あらあら、私の新しいお部屋の扉が壊れてしまいますわ。

 どなたか存じ上げませんが、乱暴なことはおやめになっていただきたいのですけれど。


「タチアナ!!ふざけてるのか!?お前は俺に会いたくないなどとふざけたことを言って何をしている!俺はわざわざ侯爵領から来てやってるんだぞ!それなのに部屋着のままで、婚約者のために着飾ることもしないで……ふざけるな!」


 ふうん……。この方がアルバン様とやらね。同じようなことばかりお話になって、きっと頭がお軽い(お馬鹿な)のね。


「あら、アルバン様。ご機嫌よう。本日私は体調が優れませんで、お会いできませんと遣いをやったのですがきちんと伝わっておりませんでしたのね。それはどうも申し訳ありませんでしたわ。このようなお姿をお見せするなど、見苦しい限りと存じますのでどうか本日はお帰りいただけるようお願いいたします。」

「…………………………。」


 こちらを青色の皿のように大きな目で見つめながら、お口をポカンとお開きになったアルバン様は、しばらく私の方を見ておりましたが我に帰ったようで、クルクルと癖毛の金髪をフルフルと震わせながら色の悪くなってしまった唇でこうおっしゃいましたの。


「タチアナ……。お前、一体どうしたんだ。いや……、本当に体調が悪いようだな。今日のところは……これで失礼する。」

「はい。大変申し訳ございませんがそのようにお願いいたしますわ。」


 アルバン様が部屋から出ようとした際に、こちらを振り向いたので、私がイライザの時に妃教育の教師たちから特にお褒め頂いていた完璧なカーテシーを披露しますと、それをご覧になったアルバン様は一瞬息をするのを忘れているご様子でしたわ。


 アルバン様と共に部屋までやってきたソバカス侍女は最初から最後まで呆気に取られたまま微動だにしておりませんでしたが、そのうち我に帰るとアルバン様を玄関までお見送りに行ったようです。


「やはり、あの方かなり残念なお方でしたわね。」








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