10. やはり変わったお方ですこと
「やあ、アルバン。良かったらどうだ?」
アルバン様の方へとグラスを差し出したのは、白色のお召し物が映える長身の体躯を持つ殿方で、皇太子であらせられるセドリック殿下でした。
殿下の艶やかなブルーブラックの髪色とこの国の王族の印である神秘的なアースアイを持ったとても整った顔立ちは品がよく、それらと対照的な気安い言葉遣いがアルバン様との親しい関係性を示しておいでです。
「これはセドリック皇太子殿下。ごきげんいかがです?」
「ごきげんいかがなどと、アルバンが言うとなんだか気持ちが悪いな。」
「では皇太子殿下、遠慮なくこちらは頂きます。」
アルバンとセドリック皇太子殿下はアカデミーで同級生だったこともあり、特に親しくしているとタチアナ嬢の日記に書かれていましたわね。
「アルバン、今日のタチアナ嬢はいつもと装いが違って美しさがより際立つな。」
「……そうですか。ありがとうございます。」
普段白いドレスばかりを着させておいて、私が勝手に選んだ今日の装いを皇太子殿下がお褒めになったから、アルバン様はなんとも言えないお顔をしていらっしゃるわ。
「皇太子殿下に拝謁いたします。私の装いをお褒めいただき光栄に存じますわ。」
ニッコリと、本来ならばタチアナ嬢のものであるこの美しい顔で微笑んでみせた。
「……タチアナ嬢、今日は普段よりも表情が明るく見えるな。これからも今日のような華やかな装いをこの王国の男どもはきっと楽しみにしているよ。」
少し砕けた口調でフッと唇の端に弧を描き微笑まれた皇太子殿下は所謂『イケメン』というものですわ。
色の混じり合う瞳が煌めいて、そちらの方を直視できませんもの。
「とてもありがたく存じます。」
隣でアルバン様が無礼な真似をするなよとでも言いたげな冷たい視線を私へと向けているのをヒシヒシと感じましたので、ここで私の得意なカーテシーをいたしました。
周囲から何故かどよめきが起き、それが四方へと広がります。
隣のアルバン様は視線の鋭さが増して、目の前の皇太子殿下はその美しいアースアイを見開いてどこかボウッとしているのです。
そんなにこの国ではきちんとした美しいカーテシーをできる女性が少ないのかしら?
たしかに、より美しいカーテシーのためにも私は大変な努力を重ねましたものね。
「アルバン、タチアナ嬢、それではまた会おう。」
「はい、ではまた。皇太子殿下。」
アルバン様が皇太子殿下のご挨拶に答えていらっしゃるので、私は視線を僅かに下げたままで大人しく皇太子殿下が立ち去るまで過ごしましたの。
そのうち貴族名鑑で覚えた方々が幾人かご挨拶においでになりましたわ。
「カルザティー侯爵令息殿、少しばかりタチアナ嬢とダンスを構わないかな?」
「……はい。」
社交辞令のようなものとはいえ、私が他の殿方から度々ダンスを申し込まれるのを愛想のいい笑顔で見送るアルバン様。
私という婚約者に対してどう思っておいでなのか、やはりよく分からないお方ですわ。
こう度々他の方たちとダンスを踊ることを嫉妬したりなさらないのかしら?
私はというと、先日読破したこの国の貴族名鑑と照らし合わせながらではありましたが、以前の私の経験も活かし、相手に合わせた適切な会話を順調に交わすことができて安心いたしました。
「タチアナ嬢、今日は普段と違って華やかなドレスなのですね。とてもお似合いですよ。」
「ありがとう存じます。こちら気に入った仕立て屋が見つかりましたので思った通りに仕上げてくださったのですわ。」
「そうなのですか。それは良い。またよろしければどの仕立て屋なのか教えてください。」
各々と社交辞令の会話を交わし、アルバン様の元に帰ってきたときにはさすがに足がフラフラになるほど踊り疲れておりましたわ。
以前の私ならば皇太子殿下の婚約者という立場もあり、上手くお断りもできましたけれど、今は皆様がアルバン様にお伺いをしてアルバン様自身が了承するものですから、私がいくら疲れていてもお断りできなかったのです。
「なんだ、もう疲れたのか。」
「お力不足で申し訳ございません。アルバン様も踊ってらっしゃってはどうですの?」
「俺はいい。」
そうなのです。私が踊っている間アルバン様は誰とも踊らずに、たとえ女性の方から誘っていただいてもお断りしているようで。
ただひたすらに他の方と踊る私の方をじっと見ているのです。




