1. 願いを聞き入れられずに申し訳ありませんわ
「カスティーユ公爵令嬢イライザ!貴女が……貴女さえいなければ
!!私こそが皇太子妃よ!!」
――ドスッ……!
「あら?何か生温かいものが……。これは……血……?」
アニヤ嬢からお茶会の名目で呼び出された伯爵家のドローイングルーム。
突然人払いがされて不審に思っているうちにアニヤ嬢が私の方へと突進してきましたのよ。
コルセットで守られた腹部ではなく、胸の真ん中に衝撃を受けて呆然としていましたら、生温かいものがスウッと垂れたような気がしましたの。
手をやって見ると胸から赤黒い液体がどんどん流れ出てきましたわ。
「あはははははは……!イライザ嬢!ご機嫌よう!さようなら!!」
もう口から声を出すこともできませんで、胸元がとても熱くなるのを感じました。
そのまま絨毯の敷かれた床へと身体が倒れ込むのを拒むことはできませんわ。
――バーンッ……!
「イライザ!!アニヤ嬢!一体何を!?」
ドローイングルームの扉から飛び込んで来られたのは私の婚約者で皇太子でもあるヒューバート様ですわね。
「ヒュー……。」
もう彼の名前を呼ぶこともできないようですわ。
「アニヤ嬢を捕らえよ!……イライザ!イライザ!!しっかりするんだ!」
あら?ヒューバート様泣いてらっしゃるの?ダメですわよ。
貴方はこの国にとって大切なお方……。
そのように感情を表に出してはいけませんでしょう?
ああ……、なんだか目の前が暗くなってきましたわ。
もう痛みも熱さも感じませんし、なんだかとても眠くて……。
「イライザ!目を開けるんだ!死ぬな!!」
ヒューバート様、申し訳ありません……。
なんだかもう……瞼が持ち上がらないのです。