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【本編完結】便箋一枚分の距離〜妹に婚約者を奪われた私が、神様への嫁入りという名の生贄にされた結果、幸せになる話〜  作者: 時雨オオカミ
寡黙な神様と生贄令嬢

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ちょっとした思いつき

 このお屋敷で暮らし始めて一週間ほど経てば、お屋敷内の施設についてはある程度触れて覚えることができた。そうして、このお屋敷がへたな貴族のお城よりも便利なことも……。


 冒険者とやらが、魔窟(ダンジョン)で魔導石というものを拾ってくることがあるのだという。魔導石は、属性魔法の力が込められた特別な宝石のようなものだ。熱い地方では、熱を吸収し続けて炎の属性が込められた石を。寒い地方では氷の力が込められた石を発掘できる。


 これら貴重な魔導石は、人々が暮らすために必要な魔道具の燃料として使われている。しかし、大きな魔導石はなかなか発掘されることもなく、魔道具も価格が高いため貴族でさえ所有する数によって自慢し合うような権力と財産の象徴でもある。


 その魔導石を用いた魔道具が、このお屋敷には数多く点在していた。


 熱の蒸気を利用した霧のお風呂ではなく、わざわざお水をあたたかくしたお風呂。自動で浄化魔法がかけられるお手洗い。ほんのちょこっと魔力を込めただけで自動的にお洗濯ができるため水。お料理をするためのちょうど良い火を出してくれるキッチン。


 お屋敷から少し離れたところには、解体した魔物の素材を街まで直接転送する魔法陣があるし、お屋敷の貯蔵庫の近くには転送したものの代金や、食糧などが直接届く受信専用の魔法陣。


 貯蔵庫の中は常に冷やされている状態になる魔道具が使用されているし、さらにその奥には食糧を腐らせないよう凍らせる、威力の強い魔道具が使われている氷室まである。


 正直、自分のお屋敷にいた頃はここまで便利な生活をしていなかったため、びっくりしてしまった。やはりここでの生活のほうが、私にとって便利だし、心地よい。


「これで、人狼様のことをもっとよく知れたらいいんですけどね……」


 なにせあのかたはお喋りが得意ではないようだから、話しかけても二、三言で会話が終了する。別に無言でそばにいて苦痛なお相手ではないので、必要最低限でもいいとは思う。


 けれど、私はもう少しだけでいいからあの人のことをちゃんと知りたいと思っているのだ。なぜ顔を隠そうとしたがるのか……とか、なぜ自分の名前を連呼していたのか……とか、いろいろと。


 しかし、私が彼ときちんとお話しするためには、なにかきっかけが必要なのだろう。いきなり対面で会話を続けるのが難しいなら……。


 手が便箋の束に当たる。


「……これ。これです!」


 対面でお話しするのが難しいなら、少しずつお手紙でご挨拶を送って交流してみればいい! 


 さっそく昼食のとき、一緒に渡してみよう。

 そう思っていざ便箋とペンを()った。

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