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婚約破棄されて神様へ嫁入り

 ◇


 ――これは決して自分が望んだ結婚ではなかった。


 日記には、震える文字でそう書かれている。


 ◇


「カナリア、君との婚約は破棄させてもらう」

「え?」


 開口一番に、婚約者からそんなことを言われて耳を疑った。

 そして、私がなにか言わなくてはと口を開く前に、今度は婚約者に走り寄り、抱きつく女の姿に言葉を失う。


 婚約者に抱きついたのは、妹のルリエラだったからだ。


 もうすぐルリエラは、『守り神様』の元へ嫁ぎに行くことになっていた。なのに自分の婚約者に抱きつき、胸を寄せて甘えている。本来なら悔しいと思うはずだろう。けれど、いつもの横暴でわがままな妹の姿と、素っ気ない婚約者の姿を思い出し、心のどこかで納得してしまっている自分がいた。


「ねえ、お姉さま。アイジス様もこう言っていることですし、お互いに気持ちがないのは悲しいことですわ。嫁入り先を取り替えっこしませんか?」


 納得はしてしまった。しかし、まるで大きなショートケーキのほうを欲しがる子供のような提案に、さすがに私は苦言を漏らす。


「ルリエラ、そんな簡単な話ではないのよ?」

「カナリア。僕はルリエラを愛しているんだ。分かってくれ」

「ああ、アイジス様ぁ……ね、お姉さま? お父様もお母様もすでにお許しになってくださいましたの。お山の守り神様の元へ嫁いだら、会えなくなってしまうって泣いていたら、すぐにお二人とも分かってくださいました」


 分かっている。


「それは……」

「それにね、お姉さま。守り神の人狼様って、今までも何人もお嫁さんをもらっているのに、その全員が逃げてきて、口を揃えて恐ろしい人だったから逃げたって言っているらしいじゃない?」


 分かっているの。私は、お父様とお母様にとって、愛する子供ではない。愛する子供はルリエラのほうで、私はただの労働役だって……分かってはいたけれど、いざ目の前にその事実を突きつけられると、胸が苦しくなる。


「そんな怖いところにわたし、行きたくないのよ。だから交換しましょう?」

「そうだ。麗しい姫君は犬畜生なんかにやるものではない。そうだろう? カナリア」


 アイジス様に同意を求められても、なにも答えることはできない。どんどんと息苦しくなっていく。追い詰められていく。この二人は、私にさっさと頷かせたいだけだ。決定事項なのに、わざわざ同意を求めてきているのだ。


「そうよ、人の姿をしていると言っても、所詮人狼様は畜生でしょう? 魔法もほとんど使えず、お掃除とかお洗濯とか、炊事とか、そんなことしかできないお姉さまにお似合いだわ! 役立たずなのに守り神様に侍ることが許されるのだから、感謝して嫁入りすればいいのよ!」


 どう考えても無礼なことを言っている二人に、けれど私は注意することもできない。瞳には涙が溜まっていた。声を出せばみっともなく泣き出してしまいそうだった。


「国の守り神様のお嫁さんなんて名誉あることよ! そういうのはやっぱり、長女のお姉さまじゃないと、ね……?」


 ルリエラが私の肩に手を置く。

 家督を継ぐお兄様だって、私の味方はしない。お兄様と、ルリエラ。中間に位置する私だけが、まるで小間使いのような扱いだった。こんなときだけ長女として扱うだなんて、卑怯だ。


 けれど、そんなことは口が裂けても言えない。言ったら最後、もっと酷い目に遭うに決まっているのだから。


「そう、ね」


 私はただ、自分自身の気持ちを封じ込めて無理矢理頷くことしかできなかった。

この作品は裏で完結まで書いてから投稿しております。

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