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復讐讃歌叛逆VRゲーム物語  作者: 巳日月
1章 ザ・ファースト・オーディアル
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001話 今どきダウンロード版がないなんて


「……帰ろうぜ、千春」


「うん」


 俺、おぼろ冬真とうまは、隣の席で鞄に教科書を詰め込む少女を見やって言った。


 彼女の名前はおぼろ千春ちはる。同い年だけど、形式上は兄妹ということになっている。人形を思わせる端正な顔立ちに、手入れをおざなりにされてもなお艶を失わない黒髪。


 学校の中で結構な人気がありそうな見た目だけど、狂犬みたいな性格ゆえに関わろうとする人間はいない。ヘラヘラしたチャラ男をぶちのめしたのが原因だろうな。

 高嶺の花から怒れる悪鬼に大変身だ。今じゃ俺ぐらいとしか喋らないんじゃないかな。


「千春ー、追加の宿題はいつまでだった?」


「月曜。クソめんどくさい……。なんでこんなことしなきゃならないの、冬真」


 俺を睨みながら言う千春。知らんがな。宿題出したの俺じゃねぇんだけど?


「成績が悪かったからだな」 


 このやろう、とでも言いたげな目でこちらを見る千春。

 ふ、と鼻で笑ってやる。


「死ねよクソ野郎」


 思ってた二倍増しぐらいの返事がきた。


「口が悪いぜ、千春。まあ怒るなって。俺も手伝ってやるからさ。それに再来週から夏休みだ。もっと宿題増えるぞ。やることが溜まると余計に面倒じゃん」


 ふん、と鼻を鳴らす千春。まあいつものことだ。

 宿題は誰だって面倒くさいもんだ。成績が優秀じゃないとなおさらそうだろう。


 校門を抜け、最寄りのコンビニに目もくれずにそのまま歩く。名前を覚えていない同級生がこっちに気づいたみたいだけど、近寄っては来なかった。


 特に話題がなかったから、しばらく会話もせず帰路を歩く。この静かな時間は嫌いじゃない。気心の知れた仲だし。


 道中いつもどおり大きな駅に差し掛かると――乗車するわけじゃなく、通り道だ――、ふと大事な相談事があったのを思い出した。


「そう言えばさ、何だったっけ、トバリに勧められたあのゲーム」


「Wheel of Fortune Online」


「そうそれ。略称がUFOみたいなやつ」


「WFOでしょ」


「結局どうするよアレ」


 俺たち二人の共通のゲーム友達……『トバリ』と『アキカゼ』。


 その二人に一緒にやろうと誘われていた、新作VRオンラインゲーム、『Wheel of Fortune Online』。俺たちは事前情報を全然確認してないから詳細は知らないけど、それでもいかに世間から期待を持たれているタイトルか、っていうのは伝わってくる。


 それはどこの店に言っても売り切れ、ネットの通販も完売っていう異様な人気っぷりからもよく分かる。


「何でダウンロード版ないんだろう」


「だよなぁ。今どきダウンロード版がないなんて」


 そう、ダウンロード版があれば事足りる問題なんだよ。でもなぜかない。

 そのせいで転売ヤーがハッスルしてるんだよな……。フリマサイトで定価の十倍になってたのは笑うしかなかった。


「せっかくだからやりたい」


「だよなぁ。今までオンラインゲームを初日から始めたことなんてなかったし。トバリが超はしゃいでたからな。期待できそうだし」


 トバリのオタク度は凄いからな。実況動画作って……WEBで漫画描いて……小説も書いて……いつ寝てるんだあいつ。

 そんな奴が楽しみにしてるんだ。俺たちだってつられて気になるってもんだ。


 今回はこっちもちゃんとネットで調べておこう。騙されて噴飯もののクソゲーやらされた恨みはまだ覚えてるからな。


「明日のサービス開始からやりたかったけど……」


「まあ手に入ってない以上しょうがないさ。明日でかい店に行って探してみようぜ」


「うん……ん?」


 返事をした後、千春は変な反応をして立ち止まった。


「どうした?」


「……いや……話は変わるけど、あんなところに店あった?」


 千春が指差したのは、半ばシャッター街の中に埋もれるようにあった一つの店だった。

 千春の言う通り、あんな店があった記憶はない。毎日通学に使ってる店だ。今まで気づかなかったってのも不自然だ。今日新しく店出したのか? それにしてはボロい。


「……『ゲーム』ってあるな」


「ネオンランプ? だっけ? あの看板」


 ネオン管で作られた『ゲーム』の看板だけじゃなく、木彫りの『骨董品』看板、『本』のノボリ、『アクセサリー』と刻まれたオシャレな看板とか、統一感のない単語が並んでいた。そのくせ店の外観はレトロスタイルで、妙に雰囲気がある。


「……どうする?」


「……ダメ元で行ってみるか」


 一応ゲームの看板は出てるしな。こんなとこに最新のゲームがあるとは思えないけど……。


 店の中は物で溢れかえっていた。ちょっと移動すら困難なレベルで。

 千春の視線がスイーッと一つのショーケースに吸い寄せられる。何があんの?


「すごい……これ欲しい……。何でも切れそう……」


「……千春、流石にそれは買えねーよ。値段見てみろ」


「チッ、わかってる……」


 抜身でショーケースに飾られていたその刀は、どういうわけか夕焼けのような輝きを放っていた。

 千春にはああ言ったけど、正直めちゃくちゃ欲しい。千春と同じで、俺も武術をやってるから気持ちはすげぇ分かる。超かっこいい。

 ただ値段がヤバい。1億て。国宝かな? 国宝に値段がつくのかは知らねぇけど。


 他にも、素人目からしても只物じゃないと分かるような逸品――ファンタジックな作りの銃、鱗のようなものが表紙を覆う大きな本、SFゲームの産物に見える不思議なパソコン――や、逆にガラクタにしか見えない何か――折れた槍の穂先、得体のしれないヘドロの塊、黒焦げになった木製の像――まで、様々なものが所狭しと並んでいた。


「……この店……今まで見逃してたにしては不自然。絶対気づく」


「そうだな……だけどさ、単にシャッターを閉じてただけか、本当に最近入ったかのどっちかじゃねぇ? まあなんか不可解っちゃ不可解だけどさ……」


 今朝もこの道を通ったけど、その時にはなかったと思うんだけどな。

 ……ん? あれこれって……。


「おい、千春」


「え? ……あ、これ……」


 そこには、擦り切れた本と一緒くたに棚に並べられている、『Wheel of Fortune Online』のパッケージが。カテゴリは分けておいてくれよ……。


 やったじゃん。ちょうど二つあるし。というか本当にこんな店にあるとは。


「よかった」


「これで四人揃ってゲームできるな。……あーでも待って。いくらするんだけっかコレ? 俺あんま金持ってないんだよね今」


 学校帰りだからな。ゲーム買えるような大金は持ってきてない。しかもフルダイブ型VRゲームだしな。普通のゲームに比べると当然かなり高い。


「取り置きとかしてもらえるかな」


「そうだな。ちょっと店員に聞いてくるわ」


 どこだレジ……あった。やっぱり物に埋もれていた。いやレジぐらいわかりやすくしろよ。しかも入り口見えねぇじゃねぇか。万引きされたらどうするんだよ。


 店員は目深にフードをかぶり、白すぎる髪と表情のない口元しか見えないような、悪く言えば怪しい、よく言えば店の雰囲気に非常に合った姿格好だった。


「あー、すいません。このゲームが欲しいんですけど、今ちょっと手持ちが足りなくて……。すぐに戻ってくるんで、取り置きしてもらうことってできますか?」


 店員は俺の言葉に、こくんと頷いた。俺は差し出された手にパッケージを渡し、「ありがとうございます」と礼を言って、千春の元へ戻る。


「どうだった?」


「OKだって。さっと家にお金取りに行くぞ!」


「うん」


 千春の嬉しそうな返事を合図に、俺たち二人は家までの道を駆け始めた。


 いやぁ、マジでラッキーだったな。明日の12時スタートだったはずだ。楽しみだ。


 あ、その前に日課の稽古と……千春の宿題を終わらせておかないとな。

 絶対終わらせろよ?


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