第十三話【階段】
魔王城の四天王を全て瞬殺したあと。
オリハルコンの通路を奥へと進んでいくと、巨大な扉が待ち構えていた。
左側が赤色で、右側が青色。
どちらの取っ手部分にも窪みがある。
「なるほど……。このへこみ部分にぴったりはまる何かを、左右の通路からそれぞれ見つけてくるみたいですね」
「なんか魔王城、面白くないな」
ふいに瑠璃がつぶやいた。
「えっ?」
「ファイナルステージだっていうから多少警戒していたんだけど、ぬるすぎだろ」
「まあ確かに」
「どうせ通路の先に行っても、弱い敵がいたりつまらない仕掛けがあるだけだろうし、もういいや。力ずくで開けるぞ」
そう言って彼は扉を押していく。
「私としても早く進めるほうがいいので、そうしましょう」
「…………」
「……って、何をしているんです? 早く開けてください」
「いや、扉が予想以上に硬くて動かないんだけど」
「そんなことあるはずが……マジですか?」
「マジだ。今現在八割くらい力を入れているのに、びくともしない」
月は首を傾げる。
「う~ん、信じられませんね。単純に想像がつかないです」
「じゃあやってみろ。もしかすると月が本気を出せば開くかもしれないな」
「これで本当に開いたら私は瑠璃さんの八割よりも強いということですよね?」
「そうなる」
「なら頑張ります!」
月は扉に触れて一度深呼吸をする。
それから全身に力を入れ、思いっきり押した。
「──きゃっ!?」
ものすごい速度で扉が開き、月の体が前のめりになる。
並外れた身体能力でバランスを保ったため、倒れることはなかったが、もう少し反応が遅れていれば顔面を強打していただろう。
月はすぐに体勢を立て直し、後ろを向く。
「瑠璃さぁん?」
「……ふっ。なんだ?」
瑠璃は手で口元を隠しながら返答した。
「どうして笑いを堪えているんですか? まさか私をはめたんですか? 白状してもらっていいですか?」
「おかしいなぁ。俺が押しても全く動かなかったのに」
「……」
「どうやら月は俺の八割よりも強いらしい」
「……もう少しで顔に傷がつくところでした」
「安心しろ、俺の勘は当たるんだ。月の身体能力と反応速度を考えれば倒れないことくらいわかる」
「ということは、わざとやったんですね?」
「おし、進むか」
そう言って瑠璃は、扉の先に続いていた長い階段を上っていく。
左右に黒い壁があり、幅がわりと狭い。
「わざとやったんですね?」
後ろから月の声が聞こえてくる。
「この階段わりと長いな。見える限りずっと続いているぞ」
「やっていいことと悪いことがありますよ?」
「案外宇宙まで続いているんじゃないか?」
「私、なるべく痛い思いはしたくありません」
「もしそうだとしたら、やっぱり俺くらいの肺活量でも息ができなくなるのかな? そもそも空気がないわけだし」
「もう一度聞きますけど、どうして笑いを堪えていたんですか?」
「一度でいいから宇宙で泳いでみたいものだ」
「瑠璃さ~ん」
「今のレベルなら太陽のなかに入れそうだと思わないか?」
「……ふんっ! これ以上無視し続けるなら、もう瑠璃さんのこと嫌いになりますから」
その瞬間彼が振り返り、頭を下げた。
「申し訳ございませんでした! わざとです」
「……」
「ちょっと冗談のつもりでやりました」
「認めてくれるならそれでいいです」
「嫌いにならないでいてくれるのか?」
「まあ、私の考えが至らなかったせいでもありますし。……今思えば、空間そのものを破ることのできる瑠璃さんが開けられない扉なんて、この世に存在するはずないですよね」
「まあ、そういうことだ」
「だからと言って上の立場に立たないでください」
「……わるい」
「それにしてもこの階段、異様に長いですね」
「だろ?」
「本当に宇宙まで続いているんじゃないかとすら思えますよ」
「ああ」
「瑠璃さんの肺活量なら、宇宙空間でも息ができそうです」
「……」
「私も泳いでみたいです」
「おう」
「太陽のなかに入るのだけはやめてください。いくら瑠璃さんでも絶対に死にます。これは断定です。はい」
「俺のセリフを全部回収してくれてありがとう」
「私が瑠璃さんの言ったことを忘れるはずないじゃないですか。……今後の浮気防止のためにも、瑠璃さんの発言は全ておぼえますよ?」
「お、おう。愛が重たい」
「嫌ですか?」
「いや、むしろもっと執着してくれて構わない」
「じゃあお言葉に甘えて執着します。……よいしょっと」
月は彼の背中に飛び乗った。
「はぁ、仕方ないな。俺の月に対する愛と同じくらい重たいけど、我慢して終点まで運んでやるよ」
「微妙に上手いこと言いながら私の体重をいじらないでください! 別に大して重くもないですし。……あれ? ということは、瑠璃さんの私に対する愛ってその程度だったんですか?」
「いや、それはない。俺はあくまで月の体重が月よりも重いことを前提として発言しているからな?」
「もうめちゃくちゃですね」




