第十二話【ダメージ反射】
「──っ!? なんですかこの部屋! 寒すぎて肌が痛いです」
月が肩をさすりながら言った。
オリハルコンと全く同じ色の円形の部屋だが、温度が凶悪なほど低く、どこからともなく強い風も吹いているため体感温度がすごいことになっている。
「月の肌を守らないといけないし、急ぐぞ」
「グォ──」
「──うるせぇ」
口を開けて叫ぼうとした青い竜を破裂させ、瑠璃は正面の扉を開けた。
続いて待ち受けていたのは、全ての面が鏡でできた通路。
瑠璃は扉を閉めつつ尋ねる。
「まだ肌荒れとかしてないよな?」
「はい。早く部屋から離れることができたおかげで問題ありません」
「ならよかった」
「それよりもここ……なんですか? 鏡ですか?」
「ああ。月のかわいい姿が映っているし、間違いなく鏡だ」
瑠璃が左右にある鏡を見ながら言った。
「瑠璃さんのかわいい姿が映っているので、間違いなさそうですね」
「かわいいって言われてもあまり嬉しくないから、かっこいいに言い直してくれ」
「わかりました。瑠璃さんのかわ──」
「──変わってねぇ!」
「ふふっ、さすがの反応速度ですね」
嬉しそうに微笑む月。
「……にしても、非常に周りが見にくい」
「少し向こうに私たちの姿が見えるということは、壁があるということなので……。曲がり角か行き止まりがあるっぽいです」
「めんどいし、もう壊そうかな」
「私はやらないほうがいいような気がしますけど、馬鹿正直に攻略したらとんでもなく時間がかかりそうですよね」
「よし決めた。手加減したパンチでとりあえず一枚割ってみよう」
「はい」
瑠璃は正面の鏡の前に移動し、左ジャブを放った。
その瞬間ゴキッ! という音が響く。
「…………」
少しの間が空いたあと、瑠璃は拳をさすり始めた。
「今すごい音がしましたけど、どうしたんですか?」
「鏡がかわいそうだから壊すのをやめてあげた」
「めちゃくちゃ痛そうですが……」
「痛くない」
「誤魔化してますよね?」
「そんなことあるはずがある」
「……やっぱりですか」
「どうやらこの鏡、ダメージを反射するっぽいな。殴った瞬間びっくりしたぞ」
「さすがファイナルステージというだけあって、一筋縄ではいきませんね」
「いいや、一筋縄でいかせてみせる」
「はい?」
「おい鏡。俺に歯向かったことを後悔させてやろう。痛みを与えてくれた礼として、ほんの少しだけ力を込めてやるよ」
「ちょっとやめましょうよ。瑠璃さんの拳が砕けたらどうするんですか?」
「安心しろ。ダメージを反射する程度でダメージは反射されない」
「……相変わらず四次元の考え方をしてますね」
「忘れたか? 俺は空間をも破壊する男だ」
「ダメージを反射する鏡VS空間そのもの破る瑠璃さん。どうなるのか、ちょっと興味はありますけど……不安です」
「俺を信じろ」
「……はい」
瑠璃は拳を握り、笑う。
「必殺、普通のパンチ!」
その刹那、ガラスの壁が粉々に砕けながら直線方向へと吹き飛んでいった。
「わかっていましたけど、この人……本当にダメージ反射の鏡を壊しましたよ。しかもめちゃくちゃ手加減してましたし」
「多分これくらいだったら月でも壊せると思うぞ?」
「絶対やりたくありません。もし全力で殴って壊せなかったらやばそうです」
「まあ、悲惨だろうな」
「で……まだガラスの壁が続いているみたいですね」
「このまま真っすぐ壊して進み続けたらそのうち次の部屋へたどり着けそうな気がする」
「それはわかりません」
「なんにせよ普通に歩くよりかは効率がいいだろ。もし万が一ガラスの粒子が飛散して月の毛穴に入ったら大変だし、俺の背後に隠れていろ」
「あ、はい。気を遣っていただきありがとうございます」
「当然だ」
その後瑠璃は、ダメージを反射するはずの鏡をまるで紙でも破るかのように破壊して進んでいく。
もう三人称視点での説明をする気すら起きない光景である。
少しして。
次の場所へとたどり着いた。
見慣れたオリハルコンの円形の部屋。
中心に醜い姿の魔人がいた。
紫色の肌で、顔や体がぶくぶくに太っている。
杖を持っているため、おそらく魔法を使うタイプなのだろう。
「ぬひひぃ。貴様らが初めての冒険者か。待ちくたびれたぞい?」
ねっとりとした声質で、魔人がつぶやいた。
瑠璃が冷たい視線を向ける。
「お前、気持ち悪いな」
「ぬぅん? 何を言っておるんだ、貴様。痛くて苦しい殺し方をされたいのかぞい?」
「次俺のことを貴様と呼んだら殺すからな?」
「ぬふふぅ。男は黙っていろ。おい、そこの女。貴様なかなかおいしそうな見た目ではないか。そんな気持ちの悪い男のことなど放っておいてこっちにこい。相手をしてやらんでもないぞい?」
「黙ってください。ゴミ」
月が無表情で相手の元へと近づき、パンチを放った。
魔人の胴体が半分ほど吹き飛び、辺りに血が飛び散る。
「ぬおぉぉぉん? なんだ貴様」
「俺の女を貴様呼ばわりするんじゃねぇ。ゴミ」
瑠璃がそう言って蹴りを入れた直後、魔人の残りの部分が全て消滅した。
「むぅぅー! 瑠璃さんのことを言われてムカつきます。もう一度殺したいです!」
月はその場でシャドーボクシングをする。
「あいつ復活しないかな?」
「瑠璃さんの力で蘇らせてください」
「無茶言うな。俺は壊す専門だ」
「……ですよね」
「ま、このストレスは次の相手にぶつけるとするか」
「とりあえず最初に私が攻撃してもいいですか? 瑠璃さんがやるとすぐに終わってしまいますので」
「いや、月がやってもすぐ終わるだろ」
そんなやり取りをしつつも、世界一恐ろしいカップルは正面の扉に向かって歩いていく。
その後、二人は危なげなく魔王城を攻略していった。
なぜか行きたい方向と反対に進んでしまう通路。
力ずくで抵抗している瑠璃の姿を見た月は、そのおかしさに笑うしかなかった。
歩くとダメージを受ける毒沼。
もちろん、そんなものが二人に通用するはずがない。
それぞれ魔王城の四天王が待ち構えている部屋。
言わずもがな瞬殺である。




