第六話【出発】
瑠璃が目を覚ますと、まだ部屋のなかは暗かった。
どうやら夜が明けていないらしい。
正面には、目を開けている月の姿。
「月……もう起きていたのか」
「はい。五分くらい前からずっと瑠璃さんの顔を見つめていました」
「やめてくれ。恥ずかしい」
「この前の仕返しですよぉ」
「この前? ……ああ、サードステージの最下層でのことか」
「はい」
「……もう出発しよう。父さんを叩き起こして宿泊代を渡すか」
「私からも渡したいです」
「いや、俺が月の分まで出すからいい」
「自分の分くらい自分で払いたいんです。どうせお宝を持っていても使い道なんてないですし」
「……多分俺の親が困るだけだと思うけどな」
「ちなみに何を渡すんですか?」
「オリハルコンの塊」
「あ、やっぱり。私もそれを渡す予定でした」
「フォースステージの第五階層でめちゃくちゃ手に入ったからな」
「瑠璃さんほどではないにせよ、私もそれなりの量を持ってます」
ドロップアイテムは魔物にとどめを刺した者しか手に入らないため、瑠璃のほうが多いのは明らかだった。
「けど、オリハルコンって値がつくのか? 俺、相場とかよく知らないんだけど」
「そういえば……オリハルコンが市場に出ているのを見たことがありません」
「じゃあ、一応金塊も渡しとくか」
「ですね」
瑠璃と月は起き上がり、部屋を出る。
するとリビングには明かりがついていた。
父親がテレビを見ながらビールを飲んでいる。
机の上には空き缶がすでに十本以上ある。
「父さん。俺たちもう行くよ」
「おぉ、瑠璃か。まだ一時だぞ?」
「ちょっとでも人が少ないうちに行きたいんだ」
夜中でもかなり人口密度は高いのだが、昼間よりかはましだろう。
「母さんを起こしてくるからちょっと待っていろ」
そう言って立ち上がろうとする父親を瑠璃が止める。
「いや、いい。食事の時に充分話したし」
「そうか」
「とりあえず底が抜けない程度に、アイテムボックスから金目の物を出していくから、収納していってくれ」
「またくれるのか。言っておくけど、そんなにたくさんはいらないからな?」
「わかった」
「あの、私からも受け取っていただきたいです」
「断る」
父親がいかつい顔で即答した。
「え……」
「息子の女から施しを受ける気はない」
「そうですか」
「その分、帰ってきた時に瑠璃と二人で使えばいい」
「あ、はい!」
月は納得したように頷く。
「瑠璃。一応言っておくが、死んだりしたら俺がお前を殺すからな?」
「……おう」
その後瑠璃は、信じられない量のオリハルコンの塊と金塊を父親に渡し、このマンションをあとにした。
◆ ◇ ◆
ダンジョンの入り口前へと戻り、新しく出現していた黒い階段の目の前へと移動したその時。
「おぉ、琥珀川瑠璃くん」
後ろからそんな声が聞こえてきた。
瑠璃と月が振り向くと、そこには天神ノ峰団の団長こと村雨刃の姿があった。
相変わらず全身真っ白の鎧を装備している。
他の団員も勢ぞろいしているらしく、全部で30人近くいる。
「あれ? ……この集団、どこかで見たような気がするんだけど、誰だっけ?」
「私が昔所属していた天神ノ峰団ですよ! なんでおぼえていないんですか」
月がツッコんだ。
「ああ、そうだったな」
「サードステージの獣人の階層でがっつり会っていたと思いますけど」
「鳳蝶も、久しぶりだな」
目の前へとやってきた村雨が言った。
「お久しぶりです、村雨さん。みんなでこんな時間に何をしているんですか?」
「ちょっと新しく出現したという階段の視察にきたんだ。二人は今からこのファイナルステージへ挑戦するのかい?」
「はい!」
「まあ、二人のレベルなら問題ないとは思うけど、気をつけて」
「おう」
「ありがとうございます」




