第五話【おふくろの味】
まず最初に瑠璃たちはご飯を食べ始めた。
献立は唐揚げとハンバーグとふりかけご飯。
「うますぎだろ……」
あまりの懐かしさに泣きそうになりつつも、瑠璃は親の前で涙を見せるわけにはいかないとばかりに堪える。
「はい……。本当においしいです」
そんな彼の様子を見たのと料理のおいしさが合わさり、月ももらい泣きしそうになっていた。
二人は箸を止めることなく食べ進めていく。
「がはは、どっちもよく食べるな」
「それだけ幸せそうに食べてくれたら、作った私としても嬉しいわ」
父親と母親は、自分たちが食事をするのも忘れて嬉しそうに微笑んでいた。
もっとも父親の鬼の形相が微笑みと言えるのかはわからないが。
その後、お互いのことについて話し合っていったのだが、食べ終えたあとも会話が途切れることはなかった。
長年会っていなかったせいで、とにかく話すことが多かったのだ。
瑠璃と月が出会った経緯。
ダンジョンでの主な出来事。
瑠璃がいなかった時の琥珀川家の様子。
弟の吹雪の学校生活。
更には、月の過去など。
一区切りついたところで瑠璃と月は別々にお風呂へと入り、隅々まで体を洗う。
それから、瑠璃の部屋に移動した。
「ほんの少し物置として使っているとか言っていたが……ほぼ埋まってやがる」
「あはは、ですね。ベッド以外に座れそうな場所がありません」
床一面が大量の段ボールや本などで埋め尽くされている。
二人は足場を探しながら、ベッドに向かってゆっくりと進んでいく。
「それにしても、瑠璃さんのご両親ってすごくいい方々なんですね」
「ああ、子どもの俺から見てもいい親だと思う。昔から無駄に干渉してこないし、かといって放置されたりもしなかった」
「正直言って、お義父さんの容姿にはびっくりさせられましたけど」
「だから会う前に言っただろ? かなり怖いって」
そう言いつつ瑠璃はベッドの上に座った。
月はその隣に座り、彼の肩に首を乗せる。
「……でも、優しい人でした」
「人は見かけによらないっていう言葉があれほどわかりやすい例は他にないだろう」
それから少しの間が空いたあと、彼女が口を開く。
「……瑠璃さん」
「ん? 頭が重くないかどうかを尋ねたいのか? じゃあ先に言っておくけど、かなり重たい。あと数分で肩が砕けるレベル」
「違います! 明日から頑張りましょうねと言いたかったんですよ」
「なるほど。ああ、頑張ろうな」
「瑠璃さんのことですから大丈夫だとは思いますが、油断して死んだりしないでくださいね?」
「誰に言っている。俺は死んでも死なない男だ」
「ふふっ、相変わらず全く意味がわかりません」
「四次元にたどり着けば理解できる」
「残念ながら、そこへ行く気はありません」
「……月こそ、死んだりするなよ?」
瑠璃が突然真面目な表情で言った。
「精一杯頑張りますが、もしも危なくなったら守ってください」
「任せろ」
「……はい」
「……なんかさっそく眠たくなってきたな」
「私もです」
「ベッドで寝るのなんていつぶりだろう」
「そういえば、さっきカレンダーを見てようやく自分の年齢を知りましたけど、びっくりしましたね。私もう32歳でしたよ」
「俺なんて37歳だった」
「瑠璃さんと私に五歳も差があるとは思っていませんでした」
「俺はそのくらいだと予想していたがな」
「だって瑠璃さん、全体的に子どもっぽく見えるんですもん。……かわいいというか、そっち系ですよね」
「いやいや、かわいさで言ったら月のほうがやばいからな。その容姿を見て誰が32歳だと思うんだよ」
彼女の真っ白な頬に触れながら、瑠璃が言った。
「あ……ありがとうございます」
「よし、もう寝る準備をするぞ」
「そうですね」
部屋の電気を消し、二人は向かい合うようにしてベッドに寝転がった。
最初は目が慣れておらずあまり見えなかったが、だんだんと視界が鮮明になってくる。
窓から差し込む月明かりに照らされ、お互いの顔がいつもより綺麗に映る。
「月の目……いつ見ても綺麗だな」
アクアマリンのような薄い水色の瞳をじっと見つめながら、瑠璃がつぶやいた。
彼女は頬を紅色に染めて微笑む。
「それ、よくお父さんとお母さんからも言われてました」
「なぁ、月」
「はい?」
「生きてファイナルステージから帰ってこられたら、俺と結婚しような」
「…………なんで死亡フラグを立てるんですか。そんなこと言っていたら絶対死にますよ?」
「四次元にフラグなんてものは存在しない。俺は俺が言いたいことを好きなタイミングで言う」
「ふふっ、瑠璃さんらしいですね」
「ちなみに答えは?」
「そんなの今更聞かなくてもわかるじゃないですか」
「お前の口から聞きたいんだよ」
月は彼の唇に一度キスをし、返答する。
「こちらこそお願いします。もらってください」
「……」
瑠璃は無言で彼女を抱きしめた。
「瑠璃さん。大好きです」
「俺もだ」
「……」
「……」
二人はゆっくりと眠りに落ちていった。




