第十四話【レベルカンスト】
それから三年後。
オリハルコンのスライムが無限湧きする円形の部屋にて。
37歳となった瑠璃は床に座った状態でじっとステータス画面を見つめていた。
彼にしては珍しく、覇気のない表情だ。
そんな瑠璃に疑問を抱いたらしく、月が戦闘をやめて彼に近づいた。
「瑠璃さん、どうしたんですか? 体調不良です?」
「……」
「……あのぉー」
「レベルがカンストした」
「え?」
「さっきからレベルが上がらないなと思ってステータスを確認してみたら、一億になる手前で止まってやがる」
「あ……おめでとうございます」
「月。お前にこの指輪やるよ」
そう言って瑠璃は、獲得経験値が二倍になる破戒の指輪を差し出す。
「いいんですか?」
「もう俺には必要ないからな」
「まあ確かにそうですね。じゃあ、ありがたくいただいておきます」
「……」
彼女が指輪をはめている間も、瑠璃はじっとステータス画面を見つめている。
「……落ち込んでます?」
「わかるか?」
「何年も一緒にいますからね」
「……どんなに魔物を倒してもこれ以上強くならないって思ったらさ。なんか力が抜けた」
「まあそれは、ちょっとわかるような気がします」
「とりあえずしばらくはステータスを振ったりしているから、月はその間レベル上げを続けていていいぞ」
「……」
「あ、パーティーを解散したほうが経験値が半分にならなくて済むな」
「いえ、パーティーは組んだままでいいです」
「でも効率が悪いだろ」
「もうレベル上げはやめましょう。瑠璃さんの悲しそうな顔を見ていたらなんか私も力が抜けてきました」
月は彼の横に座った。
「悪いな」
「構いませんよ」
「さてと……せっかくだしバランス良く振っておくか」
そうつぶやき、瑠璃は貯まっていた大量のステータスポイントを全て割り振った。
「ちなみにレベルがカウンターストップしたわけですけど、新しいスキルが増えたりとかしてないんですか?」
「……なるほど。その可能性があったか」
「私もよくわかりませんけど、あってもおかしくないような気がします」
「スキルポイントを割り振る前に言ってくれてありがとな。もう少しで全部【HPアップ】につぎ込むところだったぞ」
瑠璃はスキル一覧をゆっくりとスクロールしていく。
「これでもし増えていなくても、私のせいにしないでくださいよ?」
「いや、する予定だ」
「なんでですか!」
「だって期待させといて落とされるのってかなりダメージが大きいぞ?」
「それで言えば、あとから気付いて後悔するほうが嫌だと思いますけど」
「……確かにな。月にしては良いこと言う」
「私は生まれてから良いこと以外言ったこと──」
「──あった!」
「えっ!? あ、本当ですね」
一番最後の項目に、まぎれもなく新しいスキルが存在していた。
「多分今までこんなのはなかったと思うぞ」
「はい。私も暗記するくらいスキル一覧を見ているのでわかりますけど、これは確実になかったです」
探していたものが見つかったはずなのに、瑠璃はなぜか浮かない顔をしている。
「……にしても、気に食わないな」
「?」
【弱者の意地:逆境になるほどステータスがアップする】
「レベル一億近くにならないと手に入らないようなスキルに、普通【弱者】なんて入れるか?」
「そう言われたら……この弱者ってどの立場の人が言っているんでしょう」
「やっぱりダンジョンやレベルシステムを創ったやつがどこかにいるってことだろうな」
「なんかムカつきますぅ。確実に私たちを見下していますよね?」
「ああ」
「ですが、たとえダンジョンを創った人だろうと、瑠璃さんが負けるとは思えません」
「まあ負ける気はないが、ちょっと不安なのも事実だよな」
「え、今なんて?」
「俺は世界最強で四次元の思考回路を持っているが、理から外れたやつと戦った場合、勝つのはまず無理だろうし、五次元以上の思考回路にたどり着ける自信もない」
「そもそも四次元の思考回路なんてないんですけど。……ともかく瑠璃さんが弱気なんて珍しいですね」
「無謀と勇敢は違うからな」
「……瑠璃さんって結構無謀な生き方をしていたと思いますが」
「傍から見ると無謀だったかもしれないが、一応頭のなかで成功するっていうビジョンは浮かんでいたからな。……けど、今回は全く想像できない」
「あー、なるほど」
「ま、実際ダンジョンを創ったやつがいると決まったわけじゃないし、それは完全攻略してみないとわからないんだけどな」
そう言いながら瑠璃はスキルポイントを全て割り振っていく。
どうやら【弱者の意地】には1ポイントしか振れないらしく、余った残りの全ては【HPアップ】につぎ込んだ。
「あの、もしですよ?」
「なんだ?」
「もしこのフォースステージをクリアしたあと、もう次のダンジョンが出てこなかった場合、瑠璃さんはどうするんですか?」
「その可能性もあるといえばあるんだよな。……もしそうなったら結婚式を挙げて月と一緒に幸せで平凡な生活を送りたい」
「へぇ、意外ですね。瑠璃さんのことですから、引き続きダンジョンを創った人を探したり、危ないことに挑戦し続けるのかと思っていました」
瑠璃は首を傾げる。
「う~ん、俺も歳かな。若い時に比べてそういう欲が少なくなってきたんだよ。特についさっきレベルがカンストした瞬間、大きな目標がなくなったような気がして、少しの間生きる意味を見失っていたし」
「……なんというか、さっきから瑠璃さんっぽくないですね」
「心配をかけてすまん。だけどここ最近自分の価値観が変わってきている自覚はある。昔は満身創痍で死にかけの状態からスタートって感じだったけど、今は半殺しの状態からスタートくらいのレベルまで落ち着いてきた」
「いやそれ、充分やばい人ですから」
「ま、ダンジョンを創ったやつに会うという最大の目標がある限り、俺が止まることはないから安心しろ」
「ならよかったです」
「それにしても。自分で言うのもあれだが、改めてすごいステータスだよな」
彼は再び自分のステータス画面に目をやる。
【琥珀川 瑠璃 男
LV99999999
HP 549999990
MP 100
攻撃力 1350000000
防御力 299999998
素早さ 300000000
賢さ 100
幸運 100
所持スキル一覧
弱者の意地 LV1
HPアップ LV29999998
攻撃力アップ LV70000000】
「本当にやばいですね。魔女王が持っていたステータスが二倍になる覚醒の指輪を装備しているので、余計にですよ」
「これを見たら、全ての王になったような気分になるな」
「全ての王ですか?」
「ああ……。異世界のチート野郎だろうが、神だろうが、余裕でボコせそうな気がする」
「ふふっ、間違いないですね」
「さてと。月がレベル上げをしたいっていうなら、一時間くらいなら手伝うけど、どうする?」
「全然手伝う気ないじゃないですか! ま、レベル上げはいいのでもう先に進みましょう」
「それはありがたい」
瑠璃と月は立ち上がり、歩き出す。




