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第十二話【精霊】

 真っ赤な双眼の巨大な黒い狼。

 黒いローブを被ったリザードマン。

 オリハルコンの斧を装備している紫色の鬼。

 

 それらの強そうな魔物たちが草原の上を徘徊している。

 まあ瑠璃と月にとってはただの雑魚敵に過ぎないのだが。

 

「……それにしても、急に雰囲気が変わったよな」


「上の三階層は全部異質でしたからね。草原が視界に入った瞬間、ちょっと安心しました」


「湖もあるし、魔物もいる。まるで天国みたいな所だ」


「ですが、その……上へ戻るための階段や転移用のクリスタルが見当たらないことに関してはどう思います?」


 そう言われて瑠璃は後ろを振り向く。

 

「あー、確かにないな。でも大丈夫だろ」


「軽いですね」


「魔物がいる時点で食料に困ることはないし、そもそも俺たちに帰り道なんて必要ない」


「私たちはただひたすら進み続けるだけですから」


「そうだな。……って、おい! それ、俺が言おうと思っていたセリフなのに、横取りすんな」


「ふふんっ。言った者勝ちですよぉ~」


「はぁ……。で、これからどうする? 次の階層に直行してもいいけど、とりあえず食事にするか?」


「正直あまりお腹は空いていないんですけど、喉が渇きました」


「俺も朝まで酒を飲んでいたせいか、めちゃくちゃ喉がカラカラなんだよな」


「それは自業自得です」


 そんな会話をしつつ、二人は湖に向かって走り出す。


 道中で魔物が行く手を遮ってくるものの、その全てが瑠璃の一撃によって消滅していく。


 フォースステージの敵とはいえ、白竜レベルのぶっ壊れた魔物に比べるとやはり劣るようで、いくら倒しても二人のレベルが上がる様子はない。

 

 その後、湖での水分補給と魔物の肉による食事を済ませた二人は、森へと移動した。

 




 不規則に並んでいる木々。

 それらの葉っぱが太陽光の侵入を妨げ、少し薄暗い。

 しわの多い木の根っこが至る所でむき出しになっている。

 

「そういえば。この階層は異空間とは違うみたいですけど、穴を掘って進まないんですか?」


「なんというか、普通に階段を探したほうが効率が良いと、俺の勘が言っているんだ」


「……まあ確かに、フォースステージは何かおかしいですもんね。普通に攻略するのが一番かもしれません」


「ああ」


 瑠璃が短くそう返答した直後。


「キィィィ!!」


 木の上から紫と黄色のチンパンジーが襲い掛かってきた。

 

「キモいから近寄るな!」


 瑠璃の拳の風圧により、相手は空中で爆発する。

 

「なんかこうして見ていると、魔法を使って倒したかのように見えますね」


「正解だ、よくわかったな。実は俺の拳には風の精霊が宿っている」


「はい?」


「だからパンチをすると、勝手に風の力を乗せてくれるんだ。いわゆる精霊魔法というやつだな」


「何を言っているんです?」


「まあ月は精霊に愛されていないみたいだし、力を貸してもらえなくても当然と言えば当然だが」


「いやいや。瑠璃さんのは確実に力ずくですからね? 今更そんな設定をつけるのは無理ですよ?」


「設定じゃなくてガチだから」


「それを言ったら私の拳にも一応精霊が宿っていますけど」


「でも威力が俺とは明らかに違うだろ?」


「それは……」


「俺の拳に宿っているのは、普通のやつじゃなくて精霊王だからな。ついこの間、人類最強の俺の前に現れて、ぜひ力を分け与えさせてくださいってお願いしてきたんだ」


「けど私にも精霊女王が宿っているので、瑠璃さんとほぼ同レベルのはずです」


「じゃあ試しにやってみろ」


「わかりました。瑠璃さんと同じくらい綺麗に殺して見せるので、目をかっぽじってよく見ていてください」


「いや、失明するから」


「瑠璃さんなら大丈夫ですよ」


「無茶言うな」


「あっ、あそこでウロチョロしている赤色のゴリラを殺しますね?」


 そう言って月は本気で空中を殴った。

 風の塊がものすごい速度で相手のもとへと飛んでいく。

 

 それは真っすぐ命中し、赤色のゴリラの胴体を破裂させた。

 血が飛び散り、四肢と顔が地面へと落下する。

 

「汚い殺し方だな」


「遠かったので仕方ないですよ」


「俺だったらどんなに遠くても綺麗に消せる。……見ていろ」


 瑠璃がにやけながら空中を殴った瞬間。

 

 ──進行方向上の森が消し飛んだ。

 

 二人の視界の先には、巨大な土の道が出来上がっている。

 月の頭上からレベルアップの音が響いた。

 

「な、何してるんですか! 魔物だけでなく、それ以外のものまで全部消えましたよ?」


「どうだ。月よりも綺麗だろ?」


「……はぁ。瑠璃さんに対抗しようとした私が間違っていました」


「けど月もいい線いってたと思うぞ。風の魔法だと言われたら納得するしな」


「私は瑠璃さんのパンチが魔法だと言われても納得できません。もう災害ですよ、こんなの」


「だが、綺麗に殺すかどうかの勝負については俺の勝ちだ。文句はないな?」


「それに関しては全く文句ないです」


 そんなことをして遊びつつも、二人は階段を探して次の階層へと進んで行った。

 

 かわいそうなダンジョンである。

 もっとも今までの三階層で瑠璃の癇に障るようなことをしているため、やられても文句は言えないのだが。

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― 新着の感想 ―
[一言] 緊張感のない内容展開は結局破局を迎えます。 ストーリー中にイベントと克服、そしてそれに伴う補償が必要ですが、ただワンファンマンレベルで周りの話なくそのまま進めば、すぐにストーリーは底をつくと…
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