第十一話【本物】
瑠璃も出口のないオリハルコンの部屋に転移させられていた。
月と同じく、円形で狭い決闘場のような場所だ。
「月?」
彼は少しイラついた表情で周囲を見渡す。
「俺と月を引き離すとは、このダンジョンは本当にいい度胸をしているな」
とそこで、部屋の中心に顎鬚を生やしたいかつい顔の男性が現れる。
「おう瑠璃。久しぶりだな」
「なるほど、偽物の父さんか」
そう言いながら瑠璃は拳を構える。
「お、おい。ちょっと待て」
「じゃあな」
「ま──」
拳が触れるよりも早く、拳の風圧によって父親が光の粒子になって消えていく。
続けて部屋の中心に細身の女性が現れた。
「瑠璃。元気にして──」
母親が光の粒子になって消えていった。
「もうフォースステージの小細工は飽きた」
次に白髪ロングヘアーで小柄の女性が現れる。
全体的にふわふわしていて、かわいい見た目だ。
「さっさと消え──!? ……チッ」
瑠璃は途中で殴るのを止めた。
「瑠璃さん。どうしてそんなに睨むんですか? …怖いですよ」
「マジでムカつくダンジョンだな」
「確かにムカつきますよね」
「ちなみに聞くが、お前は偽物か?」
「あなたに嘘をついても通じない気がするので、本当のことを言いますが……私は偽物です」
「そうか」
「ですが、瑠璃さんにこの体を傷つけることができますか?」
「できるぞ」
彼は即答した。
「えっ……」
「俺にとって大切な女は、この世でたった一人しかいないからな」
「ですから私がその大切な女なんですよ?」
「見た目や中身が同じであろうと関係ない」
「? 人間の判断材料は、見た目と中身が全てだと思いますけど」
「はぁ……。本物の月ならもう少し四次元に近い発想ができるぞ?」
「何を言っているんです?」
「というわけで消え失せろ、偽物」
「ちょ──」
瑠璃のパンチにより、月が消滅していった。
「……ま、かなり手加減していたし、本物の月ならこの程度で死なないんだけどな」
瑠璃の視界が真っ白に輝き始める。
◆ ◇ ◆
第四階層。
二人が目を開けると、そこには草原が広がっていた。
遠くに巨大な湖と森が見える。
「あー。やっぱり本物の月はかわいさが違うな」
瑠璃が彼女を見つめながらつぶやいた。
「瑠璃さんこそ、本物のほうが断然かっこいいし強そうです」
「ん? ということは、そっちにも俺の姿をした偽物が出てきたのか?」
「はい。部屋の中心から全然動かなかったですけど、見た目だけじゃなくて四次元の思考回路がどうのこうの言っていたので、かなり似てました」
「で、ここにいるということは……倒したのか?」
「はい。本気でぶん殴りました」
そう言って微笑む月。
「さすがは俺が認めた女だな」
「だって本物であれば、私の攻撃で死んだりしませんから」
「まあな」
「逆に瑠璃さんこそ、私に攻撃したんですか?」
「一応本物の月が死なない程度の力で殴った」
「…………」
「俺にとっての月は世界でお前一人だからな。あんな偽物に手心を加える気はない」
「…………」
「ん、なんだ? その微妙そうな表情は」
「できれば殴らないでほしかったです。瑠璃さんであれば部屋そのものを壊したり、得意の四次元的思考でどうにかできていたでしょ?」
「いや、月を騙っている偽物をそのままにするわけないだろ。俺の大切な月は一人で充分だ」
「それは……ありがとうございます」
「とにかく俺はもう頭にきた。次に小細工を仕掛けてきやがったら、フォースステージそのものをぶち壊す」
そうつぶやき、瑠璃は歩き出す。
「あーあ。瑠璃さんにスイッチが入りましたよぉ」




