第十話【別行動】
第三階層。
再びオリハルコンで構成された円形の部屋だった。
部屋の中心に転移用のクリスタルがあり、他に扉のようなものはないらしい。
「もう最後か?」
「サードステージの最下層と同じ造りですし、その可能性はありますね」
「じゃあさっさと終わらせて次のステージに進もう」
「はい」
瑠璃と月は同時にクリスタルへと触れた。
◆ ◇ ◆
月が転移させられた先は、出口のないオリハルコンの部屋だった。
円形で、狭い決闘場のような感じになっている。
「また瑠璃さんがいません……」
彼女は不安そうな表情で辺りを見渡す。
「むぅぅぅ。このダンジョンうざいです」
とその時、部屋の中心に突然何者かが現れた。
年のわりに若く見える男性。
「誰です……って、お父さん!?」
「おぉ、月。久しぶりだな。15年ぶりくらいか?」
「……またダンジョンの仕業ですか」
「何を言っているんだ? さぁ、早くこっちにおいで。久しぶりに一緒に遊んでやろう」
「勝手にお父さんの真似をしないでください!」
そう叫びながら、月は父親をぶん殴った。
「──うっ!?」
彼は吹っ飛んで壁へと衝突し、光の粒子になって消えていく。
続けるようにして、部屋の中心に白髪ショートヘアーの女性が現れた。
今度は月の母親だ。
「本当になんなんですか」
「月ちゃん。あの日……あなたに内緒でダンジョンに行っちゃってごめんね」
「はい?」
「でも。お父さんと二人で相談して、キラキラ光る物が大好きだった月ちゃんに誕生日プレゼントとしてお宝を渡したらきっと喜ぶからって。それでダンジョンに潜っちゃったの。その結果、二人ともゴブリンに殺され──」
「──それ以上言わないでください! ……私は別にそんな物、望んでなんかいなかったのに」
「ごめんなさい」
「私はただお父さんとお母さんが帰ってくれば、それでよかったんだよ?」
「もう遅いかもしれないけど、反省しているの。……だから一緒になりましょう。今からでも」
「何を言っているの?」
「ほら、早くこっちにおいで」
そう言って母親は手招きをする。
「……嫌です」
「どうして?」
「あなたは本物のお母さんなんかじゃありません」
「本物よ。月ちゃんとの記憶があるもの」
「そうかもしれませんが、お母さんはもう死んでこの世にはいないんです!」
「そんな、悲しいこと……言わないでよ」
母親がゆっくりと涙を流し始めた。
「正体はわかりませんが、その見た目で泣かないでください。私まで辛くなってきます」
「月ちゃん。……お母さんとお父さんは、あなたにも天国へきてほしいの。夢のような楽園で一緒に暮らしましょ。永遠に」
「本物のお母さんは絶対そんなこと言いません。……に、偽物は消えてください!」
月は目を瞑って母親を殴った。
「!? 月ちゃ──」
彼女が光の粒子になって消えていく。
続けるようにして、一人の男性が現れた。
小柄で決して強そうには見えないが、顔以外の体全身にたくさんの傷跡がある。
月が世界で一番好きな男、琥珀川瑠璃だ。
「おう、月。さっきぶり」
「瑠璃さん……どうしてここにいるんですか? また偽物ですか?」
「四次元の思考回路にたどり着いたらわかる」
「ちゃんと答えを言ってください」
「それについてはいったん永遠に置いておこう。さぁ、こっちにこい」
「……」
「俺はずっと月の側にいたい」
「それは私もです」
「だったら──」
「──けどその相手は、偽物の瑠璃さんではありません」
「偽物? 何言ってんだお前。俺が偽物なわけないだろ」
「……じゃあ、あなたが私の元まできてください」
「嫌だ」
「今までのお父さんとお母さんもそうでしたけど、そこから動けないんですか?」
「そんなことはない」
「だったら動いたらどうです?」
「四次元の思考回路にたどり着くことができれば、俺が動かない理由がわかる」
「そこにたどり着く気はありません。四次元は世界最強の瑠璃さんにだけふさわしい場所ですから」
「まあな」
「……よし、決めました。今から本気でぶん殴りますね」
「何?」
「本物であれば私のパンチ程度余裕だと思います」
「おい。ちょっと待て」
「──必殺、全力パンチィ!!」
月の拳が瑠璃に直撃した。
「る……な……」
彼は光の粒子になって消えていく。
同時に月の視界が真っ白に輝き始めた。




