第八話【ショッピング】
自動車で大型ショッピングモールへとやってきた鳳蝶一家は、並んで通路を歩いていた。
左右にはいろんなメーカーの店舗が並んでおり、休日ということもあってかなりの人ごみだ。
「それじゃあ家で言った通り、父さんと母さんはキャンピング用品を見に行くから、買い物が終わったらくるんだぞ?」
「うん、わかった」
「月ちゃん、またあとでね」
「は~い」
元気よく返事をし、月は書店へと入っていった。
早速ライトノベルコーナーに移動する。
「新しいの出てるかな」
そう言いつつ緑色の本に目を通していき、今読んでいるシリーズを探していく。
三巻は……まだないようだ。
「あぁー。やり直すために主人公が崖から飛び降りたあと、どうなるか気になるのにぃ」
彼女は落胆したように肩を下ろす。
「仕方ないから別のを買って帰ろっと」
そう言って本のタイトルを一瞥していく。
だが大抵読んだことのあるタイトルばかりで月の目に留まるものはなかなかなく、やがてひと回り大きなサイズの本のコーナーへと差し掛かった時。
ふと興味のある文字が視界に入ってきた。
【ダンジョンでただひたすらレベルを上げ続ける少年】
「あれ? これ……どこかで見たような」
初めて見るはずなのに、知っているような感覚。
CMか何かで目にしたのだろうか。
「ううん、違う」
見覚えがないのにもかかわらず、その本は不思議と月の興味を引いていた。
手に取り、表紙のイラストをじっと見つめる。
「私。この男の人、知ってるような気がする」
好きで、大好きで……ずっと隣にいたような。
「あれ? 私──」
月が何かを思い出そうとした瞬間、突然彼女の背後に父親と母親が現れた。
「月ちゃん。まだ本を見ていたの?」
「月。父さんたちと一緒にキャンピング用品を見に行こう。本屋はまた帰りに寄ったらいいじゃないか」
「ひゃっ!? ふ、二人とも……いつの間に?」
反射的に本を元に戻す月。
「うふふ。ちょっと驚かせたくて、いきなり現れてみたの」
母親が微笑みながら言った。
「もう、やめてよ。心臓に悪いし」
「ははっ、やっぱり月はかわいいな」
「は、恥ずかしいから人前でそういうこと言わないで」
「さ、月。行くぞ」
そう言って父親は月の手を握る。
「待って。私この本買いたい」
「だめよ!」
「だめだ!」
突然両親が怖い顔で大声を出した。
「えっ……なんで?」
「月がこんなものと関わる必要はない」
月は怯えたような表情をしつつも、小さくつぶやく。
「でも私、ライトノベルが好きだし」
「だったら別の本にしなさい。面白そうなものなら他にいくらでもあるだろう」
「…………今日のお父さん、なんか変」
「何を言っているの? お父さんはいつも通りじゃない」
母親が父親を擁護するように言った。
「どうして買ったらだめなのか教えてよ。いつものお父さんならそんなこと言わないもん」
「だめなものはだめだ。ほら、早くきなさい」
そう言いながら、父親は月の手を強く引っ張った。
彼女は反射的に腕を振りほどく。
「やめてっ!」
「な、月。お前……父さんに向かって何をするんだ!」
「どうしたのよ月ちゃん。さぁ、今すぐお父さんに謝りなさい」
「二人ともさっきからおかしいよ。どうしちゃったの?」
月が尋ねると、二人の表情が徐々に冷たくて重たいものに変わっていく。
「変なのは月だ」
「そうよ、あなたが変なのよ」
「私が? なんで?」
「お前は父さんたちの言う通りにしていればいい。そうすればずっと幸せに暮らしていけるんだ」
「これから毎日一緒に朝ご飯を食べて、一緒に遊んで、一緒の家で眠りにつきましょ。……永遠に」
「…………あなたたち、誰?」
「父さんだ」
「お母さんよ」
「絶対に違う!」
そう言って彼女は再び本を手に取った。
表紙の小柄な男のイラストをじっと見つめる。
「「それを見るなぁ!!」」
両親が同時に月へと飛び掛かった。
彼女はバックステップを踏んで避けつつ、何かを思い出そうと必死に頭を動かす。
「……って、あれ? 私の体ってこんなに身体能力が高かったっけ?」
そしてなにより、反射的に回避できたことに驚いた。
「言うことを聞けない子はお仕置きしないとな」
「優しく地獄に送ってあげるわね」
両親は怖い表情でゆっくりと月に近づいていく。
「こ、こないで」
いつの間にかこの空間は本屋ではなくなっていた。
真っ暗で何もない場所。
だが、月が持っている本だけはなぜか光り輝いていた。
「さぁ、早くおいで」
「逃げなくてもいいのよ? 月ちゃん」
「た……助けて」
「どれだけ逃げても状況は変わらないぞ?」
「ここはあなたとお母さんたちの住む世界なんだから」
「助けてください、瑠璃さぁん!!」
自分でもよくわからないままそう叫んだ瞬間、彼女は全てを思い出した。
両親がもういないということ。
本当の自分は29歳であり、つい先ほどフォースステージの第二階層にたどり着き、突然意識が遠のいていったこと。
そして、ずっと一緒にいた大好きな琥珀川瑠璃のこと。
視界が真っ白に輝き始める。
「戻れるんですね……」




