第七話【鳳蝶家】
「月ちゃん、いつまで寝ているの? 早く起きなさい」
そんな言葉で10歳の鳳蝶月は目を覚ました。
ベッドの側には白髪ショートボブで肌が真っ白な女性が立っている。
「あれ、お母さん? ここは?」
「何を言っているの? あなたの部屋じゃない。変な夢でも見ていたの?」
「あ、そっか。ここって私の部屋だよね。ちょっと頭がぼーっとしてた」
「朝ごはんができているから早く下りていらっしゃい」
「うん!」
ピンク色のパジャマを着ている月はベッドから下り、まずは洗面所へと向かった。
彼女は朝食の前に歯磨きをするタイプなのである。
「ふあぁぁぁ、今日はいつもよりたくさん寝たような気がする」
そう言いながら歯ブラシを手に取った瞬間、ふと鏡に映っている自分の姿に違和感を覚えた。
「あれ? 私……若くなった?」
月はほっぺたを触る。
もちもちでぷにぷにだ。
なぜかはわからないけど、彼女はいつもより若返ったような気がしていた。
幼い自分の見た目が記憶に当てはまらない感覚。
「まだ頭が寝ぼけているのかな?」
月は鏡のすぐ目の前まで近づき、自分の顔を凝視する。
「何か大事なことを忘れているような……」
胸のなかに感じるモヤモヤ。
いつもと変わらない日常のはずなのに、何かが違う気がした。
「ま、気のせいだよね」
歯磨きを終えたあと、月はリビングへと移動した。
もうすでに父親と母親が食事をしている。
「月ちゃん。早く食べないと置いて行くわよ」
「えぇ、待ってよぉ」
そう言いつつ月は椅子に座り、さっそくバターが塗ってある食パンと目玉焼きを食べ始める。
「月は今日、ショッピングモールで何を買うんだ?」
歳のわりに比較的若い見た目の父親が、コーヒーを飲みながら尋ねた。
「う~ん。かわいい服と、あとはライトノベルの新作が欲しい」
「そうか。……じゃあ父さんと母さんは一緒にキャンピング用品でも見に行ってみるかな」
「えっ、キャンプ用品?」
「近いうちにキャンプ場へ行こうと思っているんだ」
「ほんと? 私一度行ってみたかったの!」
「ふふっ。月ちゃんは何にでも興味があるのね。最近はずっと読書にハマっているし」
「人生楽しんだ者勝ちだからね。私は好きなことをして生きていくの」
「遊ぶのは構わないが、きちんと勉強もするんだぞ?」
「わかってるよぉ……。私それなりに成績良いんだから」
そんな温かい雰囲気のまま、朝食は続いていった。




