第五話【仲間割れ】
フォースステージ、第一階層。
二人が目を開けると、そこはオリハルコンで構成された円形の部屋だった。
背後に転移用のクリスタルがあり、正面には巨大な扉が存在している。
そしてなぜかうっすらと煙が充満している。
「なるほど。さすがフォースステージというだけあって、最初からこういう感じか。……って、なんだこの煙?」
「……」
「ん? 月?」
いつものような返答がないことに疑問を抱き、瑠璃が問いかけた。
すると彼女はなぜか彼を睨み、拳を構える。
「気安く話しかけないでもらえます?」
「何を言って──」
「──鬱陶しいから死んでください」
放たれた高速のジャブを、瑠璃は体を捻って躱した。
「何やってんだお前。冗談にしてはたちが悪いな」
「ムカつくので口を開かないでください。臭いです」
「……それ、面白いと思って言っているのか?」
「黙れっ!」
首をめがけて放たれた月のハイキックを腕で受け止めつつ、瑠璃はじっと彼女を見つめる。
「……いつもの月ならこんなこと言わないだろ。まさか、この煙のせいか?」
「前からずっとあなたのことが嫌いでした。もう我慢の限界です」
「俺はずっと好きだけどな」
「私は無理です。気持ち悪い」
「月。あそこに扉があるし、さっさと先へ進むぞ」
「あなたと一緒だなんて考えられません。一人で行ってもらえます?」
「お前と一緒じゃないと行くわけないだろ」
「うるさい」
「ついてこないなら俺が連れていくまでだ」
瑠璃はゆっくりと月に近づいていく。
「こないでください!」
月の強烈な連撃が瑠璃の顔や胴体に命中していくも、彼は足を止めない。
「きもい。近づくな!」
レベルが高いだけあって彼女の攻撃も相当な威力らしく、瑠璃の鼻や口元から血が流れ始めた。
だが、止まらない。
「どっか行け、殺すぞ!」
瑠璃は優しく彼女を抱きしめた。
「……」
「離せっ!」
「……」
「離れろ!!」
「抱っこしてもいいか?」
「するなっ」
「だめって言われてもするけど」
そう言って彼は、暴れる月を傷つけないようにゆっくりとお姫様抱っこする。
「やめろと言っている!」
月のパンチが瑠璃の目に刺さった。
瑠璃は微笑んでつぶやく。
「やめねぇよ。……お前が好きだから」
「──っ! しつこい!」
「煙のせいか知らないけど俺もちょっとムカついてきた。二人ともおかしくなる前に早くここから出ような」
彼は月をお姫様抱っこした状態で走り出す。
一秒後にはオリハルコンの扉の前に到着していた。
「あんたなんか嫌いです。こんなにひどいことばかり言っているのになんで怒らないの!」
「四次元の思考回路にたどり着いたらわかる」
扉を蹴り飛ばしながら言った。
すると先にはものすごく長い通路が続いている。
この部屋と同じく煙が充満しているようだ。
「何が四次元ですか、この馬鹿」
月の攻撃が彼の顎に何度も命中していく。
「わりと痛いからやめろよ。お前それなりに強いんだから」
そう言いつつ瑠璃は走り始めた。
「だったら逆にやめないでやるぅ!!」
月によるパンチの威力が上がった。
「……やばいな」
突然そんなことをつぶやいたかと思えば、瑠璃は自分の唇を噛んだ。
大量の血が溢れてくる。
「何をしているんです? あなた本当に馬鹿なんじゃないですか?」
「あぶねぇ。……くそっ、もう少しで月を潰すところだった」
「だったら早く殺してよ! 嫌いなあんたに抱っこされるくらいなら死にたい」
「そんなこと言うなって」
奥へと進むごとにどんどん煙が濃くなってくる。
「もうこんな苦痛嫌だ。殺してよ。あんたの力ならできるでしょ?」
「……無理だ」
「じゃあ私があんたを殺す──」
月が彼の首を掴もうとした直後。
「──なぁ、月」
突然瑠璃が月を力強く抱きしめ始めた。
彼女の体が軋む。
「痛いですぅ」
「チッ──くそぉ!!」
瑠璃は全力で横にステップを踏み、頭から壁に衝突した。
オリハルコンの壁が破壊され、異空間の膜が露わになる。
同時に瑠璃の頭から大量の血が流れ始めた。
それでも足を止めることなく通路を進み続ける。
「何するんですか、このくそ野郎!」
「月、ごめん。……もう少しで、俺、お前をやるところだった」
「そのままやれば、よかったのに」
「するか、馬鹿!」
「そっちのほうが馬鹿です! 血まみれで気持ち悪い顔して」
「逆に……お、お前の顔はかわいいな」
「かわいくなんてない!」
「あっ、階段が見えてきたぞ」
「ちゅっ。たどり着く前に殺してやります」
そう言って月は再び彼の首元に両手を伸ばし、勢いよく掴んだ。
「相変わらずお前の舌打ち、きもいな」
「うるさい」
「でもかわいいよ」
「黙れ」
「うっ…………月、もう少しだからな」
「しねぇぇぇ!!」
月は全力で彼の首を潰そうと力を入れる。
さすがの瑠璃でもきついらしく、もう息ができていない。
「……」
「絶対殺す」
「……」
「あんたを先へは進ませない」
「……くっ」
瑠璃は苦しそうな表情をしつつも、階段を下りていく。




