第四話【別れ】
結局瑠璃は朝までお酒を飲み続けていた。
今現在もお店で一番強いお酒をがぶ飲みしている。
お店のなかでは酔いつぶれた冒険者たちがたくさん寝ており、起きているのは瑠璃だけだ。
隣のおっさん二人組もついさっき眠りについたらしい。
「なんかよくわからないけど、お酒って止まらなくなるな」
手に持っているのは一応アルコール度数50パーセントを超える飲み物なのだが、彼はまるで水でも飲むかのように進めていく。
「ピリッとした感覚と鼻に抜けるような風味が堪らない……」
とそこで、月が目を覚ました。
「ふぁー。……あれ、ここは?」
「月、起きたか。ここは酒場だ」
「酒場……あっ、そういえば! 私たち飲み比べをしていましたよね? 結局私が勝ったんですか?」
「何ふざけたこと言ってんだ。もちろん俺が勝ったに決まっているだろ」
「え、でも……私100杯くらい飲んで瑠璃さんに勝ったような気がするんですけど」
「それは夢を見ていただけだと思うぞ。現実の月は生ビールを一口飲んでぶっ倒れた」
「まさかそんな。嘘でしょ?」
「本当だ。ちなみに俺は一日中飲み続けていたけど、別に何ともないな。むしろ覚醒して元気が出てきた」
「もう化け物じゃないですか」
「さてと……。早速だがフォースステージに向かおう。金髪がついてこないうちに出発したい」
そう言って瑠璃はその場に立ち上がる。
「そうですね」
「俺はこいつにあのレベル上げのスポットを教える気はない」
「あ、もしかしてあの異空間へと繋がっている罠のことです?」
「よくわかったな。ダンジョンの罠が復活するのかどうかはわからないけど、もし復活しているなら効率が良いと思ってな」
「飲み比べで空蝉さんが負けたから教えないんですか?」
「それもあるが。あそこに入れば絶対に何年間も出られない。きっとこうしてお酒を飲みながら楽しくやっていたほうがこいつのためになるだろ」
「……ふふっ、優しいんですね」
「単純に教えたくないからだ。さて、代金は机の上に置いておけばいいか」
そう言って瑠璃はアイテムボックスから金塊を20個ほど取り出した。
「そんなに置いて行くんですか?」
「久しぶりに楽しかったからな。これくらい安いものだ」
「私は全然記憶がないですけどね。でも雰囲気は楽しかった覚えがあります」
彼は空蝉の肩を触り、小さい声で言う。
「金髪。あとで店員にこの金塊を渡しておけ」
「……う。……なんで……も、強いんらよぉ」
空蝉は目を閉じたままそうつぶやいた。
「空蝉さん。短い間でしたけど楽しかったです」
「またな。空蝉」
そう言い残し、瑠璃と月は歩き出す。
「あれ? 今空蝉さんのこと名前で呼びました?」
「まあな。俺は気に入ったやつの名前は覚えるんだ」
「じゃあ私がその一号ってことですよね?」
「おう」
「なんか特別な気がします」
「特別な気がするんじゃなくて、特別なんだよ」
「あ、ありがとうございます」
「それよりもお前。長いことぶっ倒れていたが、頭が痛かったり体調不良だったりしないか?」
「いえ、元気満々ですよ。瑠璃さんこそどのくらい飲んだかは知りませんけど、本当に大丈夫なんですか?」
「結局生ビールが20杯とアルコール度数50パーセント越えのお酒をずっと飲み続けながら月が起きるのを待っていたから、実際かなり飲んでいるはずなんだけどな。マジでなんともない」
「もしかすると瑠璃さんって世界一の酒豪なんじゃないですか?」
「だからいつも言ってるだろ? 俺は世界最強の男だって」
「ふふっ、じゃあ私は世界最強の女ですね」
月はにっこりと微笑んだ。
「いや、お前は違うだろ。お酒も一口目で倒れたし」
「なんでそういうことを言うんですか! そこはいい感じに締めくくりましょうよ」
「月が世界最強である必要はない」
「むぅぅぅ」
「俺がお前を守るからな」
そう言って瑠璃は歩く速度を上げる。
「……そんなのずるいですよ」
その後酒場をあとにした瑠璃と月は、新しくできた階段を下りてクリスタルに触れた。




