第三話【飲み比べ】
三人は同時に生ビールを飲み始めた。
「ゴクッ、ゴクッ…………ぷはぁ。これが人生初めてのお酒ですかぁ? おいしいれすぅ」
そう言いながら月は机に倒れた。
「何やってんだお前」
「んふふぅ。瑠璃さんの馬鹿ぁ~」
「あほか」
「まだまだ飲めますよぉーだ」
「どう見てもダウンしているじゃねぇか。もうそこで寝てろ」
「逃げるんれすぅ?」
「お前と違って俺はもう飲み終えた」
「俺も終わったぞ。て、あんた早いな」
空蝉が瑠璃のほうを見て驚いたような表情を浮かべた。
「久しぶりに炭酸飲料を飲んだけど、魔物の血のほうが飲みやすいな」
「そうか? 俺は絶対こっちのほうが好きだ」
「…………むぅぅぅ。瑠璃さんに勝てましたぁ~」
真っ赤な顔でそうつぶやく月。
「一人脱落だな」
「これからはあんたとの一騎打ちか。俺は男同士の勝負で負けるつもりはない」
「その意気込みは好きだぞ。……ま、精々頑張って世界最強を追い詰めてみるんだな」
「追い詰めるだけじゃ飽き足らない。捻り潰してやる。……すみません! 生40杯追加で!」
「ありがとうございまぁーす。少々お待ちください」
「世界最強を相手にするのに、一人20杯程度で足りるのか?」
瑠璃が尋ねた。
「そう言うセリフは飲み終えてから言ってくれ。普通は一人で十杯も飲めないだろうからな。ちなみに俺は余裕だ」
「お前が大丈夫なら俺もいけるだろ」
「言ってろ」
◆ ◇ ◆
瑠璃たちの隣の席にて。
「おい。会話の内容からしてあの三人、確実にランキングトップの琥珀川瑠璃と鳳蝶月と空蝉終だろ。話しかけてこいよ」
仲間の耳打ちに、鎧の男は首を左右に振る。
「……き、緊張して身体が動かねぇ」
「何してんだ」
「仕方ねぇだろ。今までいるかどうかもわからないような尊い存在だと思っていたんだぞ。それがいざ間近にいると思うと……」
「いつもは強気なくせに、しょうがないやつだな」
「にしてもあの二人やばくないか? もうどっちも20杯目だぞ」
「さすがランキングトップなだけあって、酒にも強いな」
「俺はどっちが勝つのか、最後まで見届けることにするぜ」
「あぁ、俺もだ」
◆ ◇ ◆
「あんた本当に人間かよ。なんで20杯も飲んでおいて顔色が全く変わらないんだ?」
真っ赤な顔をした空蝉が眉間にしわを寄せて尋ねた。
瑠璃は涼しい表情で答える。
「知らん」
「全く、どういう体の構造してんだよ。身体能力と言い、人間とは思えないぞ」
「お前だって俺と同じ量を飲めているじゃん」
「……ふぅ、正直もう限界だ。ギブアップ……する」
その言葉と同時に、空蝉は机へと倒れた。
瑠璃は手に持っていた生ビールを飲み干し、女性店員に話しかける。
「これよりも強いお酒をもらえないか? ちょっと自分の限界が知りたくなった」
「えぇー。あなたすごいですね! わかりました。とびっきり強いお酒を持ってきます」
どうやら瑠璃はお酒が強いどころのレベルではないようだ。
酒豪である父親の血を引いているというのもあるが、後天的に歩んできた壮絶な人生がこの異常なアルコールの分解速度を可能にしている。
なんせ毒針が腹に貫通した状態で笑いながら魔物と戦い続けていたほどだ。
今更アルコールごときでダウンするはずがなかった。
とその時、瑠璃の側に巨大な鎧を着た男が近づいてきた。
「あ、あのぉ~」
「なんだ?」
「あ、いえ。……その……えぇっと、あなたがランキング第一位に君臨し続けている琥珀川瑠璃さんでいらっしゃいますでしょうか?」
「そうだが」
「やはりそうでしたか。……あの! 握手していただけませんか?」
「まあそれくらいなら」
そう言って瑠璃は手を差し出した。
鎧の男はすぐさま両手で握り返し、笑顔を浮かべる。
「おぉ、ありがとうございます! この手は一生洗いません!」
「いや。汚いから洗えよ」
「実はダンジョンが出現したあの日からずっとあなたのファンで、最低でも毎日30回以上はあなたのレベルを確認し続けてきました。なので出会えて本当に光栄です。ちなみに興味本位で聞くのですが、あなたは今までダンジョンに潜り続けていたんですか?」
「まあな」
「へぇ。……あ、ええっと、あまり長居しても邪魔になりそうなので、この辺で失礼します。今後も応援しているので、ダンジョン攻略頑張ってください!」
「おう。ありがとう」
「も、もったいないお言葉です」
鎧の男は、いかつい顔に似合わず気持ちの悪い笑みを浮かべながら隣の机へと戻っていった。
そして仲間の男に向けてサムズアップをする。
「どうだ。かましてやったぜ」
「どこがだ。めちゃくちゃ下手に出てたじゃねぇか!」
「う、うるせぇ。尊い存在を前にしていつも通りでいられるわけねぇだろ」
「だったらかましてやったとか言うなよ」
「そんなことよりも、あの瑠璃に握手をしてもらえたぞ! ぬふふ、俺はもう一生手を洗わねぇ」
「お前やっぱりきもいな」
「今度そのセリフを吐いたら殺すぞ?」
そんな会話をしつつ、二人は朝まで酒を飲み続けた。
隣に憧れの琥珀川瑠璃がいる状態で。




