第一話【帰還】
34歳のわりに若々しく見える黒髪の小柄な男、琥珀川瑠璃。
29歳には見えないほど小さくてかわいい白髪ロングヘアーの女、鳳蝶月。
金髪の高身長イケメン、空蝉終。
この三人はサードステージの最下層を攻略した後、秋葉原のダンジョン入り口前へとワープさせられていた。
今は深夜らしく昼間ほどの人ごみではないが、それでも人口密度は充分に高く、また周囲の人工物の光によって昼間のように明るいのは、やはり世界唯一のダンジョンがある場所だからというべきか。
「なんか騒がしいぞ」
瑠璃が周囲を見渡しながらつぶやいた。
「騒がしいのはいつものことなんですけど、多分あのアナウンスがあったり、新しい階段が現れたりしているはずなので、余計にだと思います」
「あぁー。久しぶりに地上へ出たような気がするな」
空蝉が背伸びをしながら言った。
「月、どこか行きたい所はあるか?」
「そう言われたらいろいろありますけど、言い出すとキリがないのでダンジョンを完全制覇してからでいいです」
「おぉ、良い心がけだ」
「逆に瑠璃さんは行きたい所とかあります?」
「それはもちろん、次のダンジョンだろ」
「絶対言うと思いました」
「サードステージから生きて出られるだけじゃなく、クリアまでできたのはあんたたちのおかげだ。本当にありがとう!」
そう言って空蝉は深く頭を下げた。
「おう、じゃあな」
「またどこかで会いましょう」
「予想以上に冷たい!?」
あっさりとした二人の返事に、空蝉は驚いた表情を浮かべる。
「冷たいと言われても、別にそんな深い関係じゃないだろ。出会って一日くらいしか経ってないし」
「それでも、もっとこうなんかないのか? これからも頑張れよ、とか。俺たちと一緒にこないか? とか」
「これからも頑張れよ」
「これからも頑張ってください」
「……おう」
「俺たちは二人で旅立つことにする」
「なので探さないでください」
「…………なんだその置き手紙みたいなセリフは! しかも息ぴったりすぎるだろ」
「ちなみにですけど、空蝉さんはこれからどうするんですか?」
「それについては、久しぶりに酒場で酒でも飲みながらじっくりと考えようと思う」
「へぇ。あ、そういえば瑠璃さんってまだお酒飲んだことないですよね?」
空蝉の返答を軽く流し、月が尋ねた。
「ないな。……月もか?」
「はい。一度もないです」
「ふ~ん」
「見た目的に瑠璃さんってお酒弱そうですよね。ふふっ、ジョッキ一杯で目を回して倒れそうです」
「何言ってんだお前。俺がアルコールごときに負けるはずないだろ。こう見えても世界最強の男だぞ?」
「それはどうでしょう。お酒の強さは基本的に遺伝子で決まっているらしいので、レベルは関係ありません」
「……なぁ、もしよかったらレベルがたくさん上がるような場所を教えてもらえないか?」
空蝉が二人に尋ねた。
「遺伝子で決まるというのはあくまで三次元の考え方でしかないだろ」
「この地球に生きている限り三次元なんですから、どんな思考回路をしていようともアルコールを分解できる能力は決まってますぅ」
「そんなに言うなら勝負でもしてみるか? どっちがより多く飲めるか」
「あーいいですね!」
「見た目的に月のほうが弱そうだし、おちょこ一杯で死なないように気を引き締めておけよ?」
「私お酒は初めてですけど、なんか瑠璃さんにだったら勝てる気がします」
「あのー。効率の良いレベル上げのスポット──」
「──おい金髪! 俺たちも酒場に案内しろ。今からこの身の程知らずと勝負をして圧倒的な勝利を収めてやる」
「というわけなので空蝉さん。私たちも一緒に酒場へ行きますね」
「…………レベル上げが捗るスポットを教えてもらえませんでしょうか?」
空蝉が諦め気味に言った。
「そんなのあとで教えてやるよ。だから早く行くぞ」
「えっ、いいのか?」
「あーそうだ! 面白そうだからついでにお前とも勝負してやるよ。もし飲み比べで俺に勝てたら、このレベルへ到達するきっかけになったおすすめのスポットを教えてやる」
その瞬間、空蝉の表情が変わった。
眉間にしわを寄せて瑠璃を睨みながら口を開く。
「言ったな? レベル6000万越えだろうが容赦しねぇ。歩く貯水タンクと言われた俺に喧嘩を売ったことを後悔させてやるよ」
「なんだそれ、ださっ」
「ふふっ、貯水タンクって。センスないですね」
瑠璃と月が小馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「うるさい! 行くぞ」




