第五話【金属スライム】
続いて視界に入ってきた魔物は、金属みたいなやつだった。
「は?」
緑色の草原の上で明らかに目立っている、銀色の大きなスライム。
「あんなやつ初めて見たぞ。……あれならちょっとは手ごたえがありそうだな」
瑠璃はすぐさま近づいて、軽めの右ストレートを入れた。
周囲にカキィィィン! という音が響く。
その瞬間、銀色のスライムがすごい速度で逃げ始めた。
「なんだと!? 硬すぎだろ、あいつ」
パンチに手ごたえを感じなかったのは、瑠璃にとって久しぶりのことだった。
「ははっ、面白い。全力を出さないと倒せないってことか?」
それゆえにスイッチが入ってしまった。
彼がランキングのトップから落ちなかった理由はいろいろと存在するが、そのうちのひとつに、強敵を見ると身体が疼いて仕方がないという特徴がある。
言わゆる戦闘狂。
ファーストステージの700階層付近での話だが、瑠璃は毒針で腹を貫通させられたのにもかかわらず、笑いながら魔物を殺し続けていたことがある。
戦闘が終わった後三日ほど意識不明になったが、強靭な肉体のおかげでなんとか生き延びることができていた。
気絶している間に他の魔物に襲われていたら確実に死んでいただろう。
「それで逃げたつもりか?」
今出せる最高速度で追い付いた瑠璃は、全力で相手をぶん殴った。
金属でできているはずのスライムの体が、くの字に曲がりながら吹っ飛んでいく。
「あぁー、久しぶりの全力はやっぱ気持ちいいな」
とその時、金属スライムが途中で光の粒子となり消えていった。
同時にレベルアップの音が響く。
その一部始終を見ていた瑠璃は首を傾げた。
「は? ……なんで消えたんだ?」
魔物は基本的に、死んでも丸一日ほど消えない。
それはずっとダンジョンに潜り続けてきた瑠璃が一番よく知っていた。
だけど、あの金属スライムは倒してすぐに消滅したのだ。
「ま、考えてもどうせわからないし別にいいか。それよりもレベルが上がったからステータスとスキルポイントを割り振ろう」
そう言ってメニューからステータス画面を開くと、瑠璃は自分のレベルが以前よりも三つ上がっていることに気づく。
「マジで?」
ファーストステージの最下層にいたボスを倒した後もレベルアップはしなかった。
つまりレベル10003のままだったはず。
だけど、今現在ステータスには【Lv10006】と表示されている。
「じゃあ、あの金属スライムが大量の経験値を持っていたということか?」
一瞬納得できなかったが、パンチ一撃で倒せなかったことを瑠璃は思い出す。
「レベルランキング第一位にいて、攻撃力をめちゃくちゃ鍛えている俺ですら全力を出さないと倒せなかったんだから、他の人には到底倒せないよな?」
要するに金属スライムは、瑠璃だけが倒すことのできる経験値が非常においしい強敵というわけだ。
「効率が良いし、しばらくこの階層でレベルを上げるか」
そうつぶやいて、瑠璃は金属スライムを探すために勢いよく走り出した。
彼のレベルが異常な他の理由。
普通であれば、ファーストステージのダンジョンをクリアするのにレベルは10000もいらない。
パーティを組まずにソロで進み続けたために経験値が分散されることなく、全て自分の物になっていたというのもあるが、瑠璃は一度ハマってしまうとなかなかやめることができない性格だった。
600階層付近にて、一年間も同じ階層で閉じこもり続けていたことがある。
とにかく精神力が異常なのだ。
普通の人間であれば途中で飽きるはずのことを、彼は楽しんでこなせる。
それに加えて500階層のボスを倒した時に手に入れた、経験値が二倍になる指輪を装備している。
まさに鬼に金棒だろう。
ちなみにその指輪は、初めて500階層のボスを倒した者にしか与えられない非常にレアな装備品なのだが、他の冒険者はおろか本人すらそのことは知らない。
良い意味でも悪い意味でも、琥珀川瑠璃はこの世に生まれた怪物だろう。
それから、他の人が全くやってこないのに瑠璃が気づいたのは、一ヶ月経ってからのことだった。
一瞬どうして別の冒険者がこのダンジョンに入ってこないのか疑問に思ったが、「まあどうでもいいや」とだけつぶやき、再びレベル上げに戻るのだった。
幸いこの階層には湖の水や食料が大量にあるため、ファーストステージのダンジョンで過ごし続けていた瑠璃にとっては天国のような場所だった。
そんな環境で、瑠璃はただひたすらレベルを上げ続ける。




