第三十九話【決意】
魔女王が死んだことにより、遅くなっていた時間が元通りに戻る。
「……あれ、瑠璃さん。魔女王はどこに?」
月が辺りを見渡しながら言った。
「俺が倒したぞ」
「えっ、いつですか?」
「時間の流れを止められてお前たち二人が動かなくなっている間に殴っておいた」
「今サラッととんでもないことを言いませんでした? 時間を止められてもなお動けるなんて……。やっぱり瑠璃さんには常識が通用しませんね」
「いつの間に……て、なんだあれ!? あの壁の穴はお前がやったのか?」
空蝉が壁の大穴を見て驚きの声を上げた。
「あぁ、パンチの風圧で空いた」
「ふ、風圧で!? ……な、なるほど。やはりランキング一位は次元が違うらしい。というか、そもそも琥珀川瑠璃は存在していたんだな」
「さてと。邪魔者もいなくなったことだし、地面を掘って先に進むか」
そう言って瑠璃は月の側へと向かう。
「早くしないと他の魔女たちがくるかもしれませんし、そうしましょう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。地面を掘るって何を言っているんだ?」
空蝉が尋ねた。
「階段を探すのが面倒だし、そのまま次の階層に向かうんだよ」
「……なるほどな。そんなこと考えもしなかった」
「もう会話はいいだろ」
「おい、俺もついていっていいか? いや、言い方が違うな。あなたたちと一緒に行動させてください」
「えー、嫌だ。月と二人きりがいいし」
瑠璃が即答した。
「そんなこと言わずにお願いできませんか? 俺は数年前、仲間を魔女王に殺されて下の階層へ進めずに困っているんだよ」
「知らん。お前が弱いだけだろ」
「その通りだ。だからもう何年もこの階層でレベルを上げているんだが、何しろ獲得経験値が少なすぎてほとんど成長しなくてな」
「だったら別に下の階層に進んで強いやつと戦えばいいんじゃないのか?」
「それは私も同意です。空蝉さんも十分レベルが高いみたいですし、普通の魔物を相手にするだけなら先に進んでも大丈夫だと思いますよ?」
すると空蝉は首を左右に振る。
「無理だ。次の階層にはあいつが出る。一度一人で攻略しようと思って挑戦したんだが、ものすごく強い相手に出会って、この俺ですら死にそうになりながら逃げるのに必死だった」
「だったら上の階層に帰れ」
瑠璃は地面を殴って巨大な穴を空けた。
「あ、もう次の階層が見えた。……行くぞ月」
「はい」
短くそんなやり取りをし、二人は飛び降りた。
「あっ……ちょっと」
空蝉は穴を覗きつつ、顎に手を当てる。
「……帰れと言われても、俺一人の力じゃ限界がある。仲間がいたからここまでくることができたんだ。いくらこの比較的安全な階層でずっとレベルを上げ続けていたとはいえ、ここから抜け出せるほど成長してなんかいない」
彼の言う通り、ここは60階層なのにもかかわらず、ほぼ安全地帯のような場所だった。
出現する魔物は弱く、おかしなことをしなければ魔女たちも優しい。
そして何より、空蝉は魔女王に気に入られていた。
だからこの階層にいくら留まり続けていても、手出しされなかったのだ。
「決めた。俺はあの二人の後をついていくぞ」
そう言って彼は穴へと飛び込んだ。




