第三十八話【時空破壊】
瑠璃が空気を読まずに横入りした瞬間、魔女王の表情が一気に暗くなった。
「私と空蝉の会話を邪魔するとは、よほど苦しみたいらしい。──咲き乱れろ、切断風刃!」
魔女王の手からいくつもの鋭利な風の刃が放たれる。
金属をも軽く切断するその風たちは、全て瑠璃の体に命中し、布の服とズボンを部分的に切り裂いた。
「馬鹿お前。なんで避けないんだ!」
空蝉が大きな声を上げた。
瑠璃は首を傾げつつ返答する。
「えっ、だってあんなの躱すほどでもないだろ?」
「はぁ!? 魔女王の魔法だぞ……って、なんであの攻撃を受けて無事なんだよ!」
「お前……何者だ?」
魔女王が眉間にしわを寄せて尋ねた。
「何者って言われても、ついさっきこの階層にたどり着いたばかりの冒険者だけど」
「なぜ私の魔法を受けて無傷なのだ?」
「はぁ……。お前喋るばかりして自分の力を出し惜しみするから嫌いだ。なぁ、月。あっちのほうで地面を掘るからさっきと同じく俺が呼んだら下りてきてくれ」
「あ、はい。そうですね。では空蝉さん、最後に教えておきますけど、彼が今までランキングトップの座を一度として譲ったことがない人類最強の男、琥珀川瑠璃さんです」
「まさか!? こんな弱々しい見た目の男がか!?」
「彼の実力はさっき見たでしょう? ちなみに私が第二位の鳳蝶月です」
そう言って二人は歩き出す。
「!? 圧倒的なレベル差のトップ二人がど、同時に……」
空蝉は驚きで声も出ない様子。
魔女王は歯ぎしりをしながらつぶやく。
「よ……よくも私をコケにしてくれたな。何が人類最強の男だ。人間の限界を教えてやる。──突き刺せ、残虐の黒剣!」
先端の尖った禍々しい黒剣が、刹那のうちに瑠璃の背中に衝突し、なぜか黒剣のほうが折れた。
瑠璃は面倒くさそうに振り返り、口を開く。
「お前、魔女王だとか言われてみんなにもてはやされて調子に乗ってんのか? 出し惜しみすんなって言ってるじゃん」
「な、なぜだ」
「次手加減みたいな真似をしたら殺すからな?」
「そうですよぉ~。瑠璃さんが本気になる前にもうやめておいたほうがいいと思います」
そう言って瑠璃と月は再び歩き出す。
「……殺す。殺す殺す殺す殺す殺す。刺し殺せ、大残虐の黒剣!」
魔女王の言葉とともに、先ほどの黒剣が30本同時に二人のもとへと放たれた。
その刹那、瑠璃の表情に不快感が生まれる。
いつも瑠璃の近くにいたはずの月ですら恐怖を抱くほどの、重たくて冷たい雰囲気。
彼は振り向き、黒剣のすべてを一瞬で破壊した。
そして魔女王に向かって低い声で話しかける。
「なぁ。今、月のことも狙っていただろ?」
「な、お前。……はぁ、はぁ」
あまりの圧力に、魔女王は過呼吸気味になりつつも後ろへと下がっていく。
「もう決めた。……殺す」
瑠璃はゆっくりと歩き出す。
「月を傷つけるやつを、俺は絶対に許さない。たとえそれが神であろうと」
「はぁ……はぁ。遅くなれ、時間遅延!」
魔女王は必死に呪文を発動し、自分以外の周囲の時間を遅くした。
一瞬瑠璃の動きが止まるも、すぐに彼は動き出す。
「時間を遅くされたのなら、その分速く行動すればいつも通りに戻る」
月と空蝉ほどの高レベル冒険者が全く動いていないことから、瑠璃の異常さがわかる。
「くっ、ならば!」
魔女王は自身の左腕を肩から引きちぎり、顔を悲痛に歪ませながらも呪文を唱える。
「我が汝に対価を支払って命ずる。止まれ、時間停止!」
瞬間、瑠璃は殴る動作を行った。
圧倒的な身体能力が覚醒の指輪によって更に二倍になった状態での、左ジャブ。
それは空間のみならず、刹那の間に迫りくる時空の波をも破壊した。
「どうした? 時間を止めただけじゃ時間は止まらないぞ」
「……」
魔女王が絶望の表情を浮かべる。
左肩からは大量の血が溢れ出ており、とても痛々しい。
「時間という固定観念に囚われているお前程度に、真の時間を操れるわけがないだろ」
それから彼は魔女王の目の前で立ち止まり、口を開く。
「もっと四次元的な思考回路を持て。……じゃあな、弱者」
全力のパンチが放たれた。
計り知れないほどの威力に、魔女王は抵抗すら許されずに消滅する。
遅れてレベルアップの音が響いた。
「……ふぅ」
一度ため息をついた後、瑠璃は直線上の壁にできた巨大な穴を見つめながらつぶやく。
「俺より強いやつ……マジでいないんじゃね?」




