第三十三話【串焼き】
「ほらあんたたち、お待たせ! 二本と、一本ね」
瑠璃と月の会話の途中で、おばさんが言った。
「おっ、ありがと」
「ありがとうございます」
「熱いからやけどに気を付けるんだよ」
「熱っ!?」
瑠璃が大声を上げた。
「ほら言わんこっちゃない」
「瑠璃さん。串焼きは逃げないので落ち着いてください」
「わかってるって。何十年も熱い物を食べていなかったせいで、大して熱くもないのに体が変な拒絶反応を起こした」
「何を言っているのかよくわかりません。……あっ、これめちゃくちゃおいしいです! タレが香ばしくて、塩胡椒が絶妙に効いていて、とにかく最高ですよ」
瑠璃ほどではないが、月も調理された物を食べるのが久しぶりだった。
そのため普通の串焼きなのにもかかわらず、驚くほど美味に感じていた。
「そう言ってもらえると作った甲斐があるよ」
おばさんが嬉しそうに頷いた。
「ふぅ……ふぅ……、はむっ」
瑠璃はしっかりと息で冷まし、一口齧った。
無言でゆっくりと咀嚼していく。
「どうですか? 瑠璃さん」
「どうだい? あたし特製のタレの味は最高だろう」
「……」
彼は反応することなく、次々と食べ進めていく。
「……あれ? 聞こえてますか?」
「……」
そのまま二本目に突入した。
「えっ、瑠璃さん!?」
「……」
気づくと、瑠璃は静かに涙を流していた。
「いきなりどうしたんですか?」
「……うまい」
そう言って彼は鼻をすする。
人生の半分くらい魔物の死体を食べ続けていたため、もう調理された食べ物の味なんて忘れかけていた。
そんな時にこの串焼きを食べて、おいしさと懐かしさが混ざって涙腺が崩壊したのである。
「あんた、それはさすがに大げさだろう」
そんなおばさんの言葉に、瑠璃は首を左右に振る。
「……こんなにおいしい物は初めて食べた」
「そうかい。それはよかった」
「正直、瑠璃さんに人間らしい感情があったことにびっくりしてます」
月が言った。
「失礼な奴だな」
「あ、泣いているところ申し訳ないんですけど、そろそろ行きませんか? もっと街中を見たいですし。歩きながら食べましょう」
「……そうだな」
そうして二人が歩き出そうとした瞬間、おばさんが小さい声で話しかける。
「…………ちょっと待ちな」
「はい、なんでしょうか?」
月が首を傾げて聞き返す。
「さっきあたしが言ったことを覚えているかい?」
「というと……魔女王がレア装備品を持っていることについてですか?」
「……それなんだが、山の頂上にある魔女王様の屋敷へは絶対に行ってはならないよ」
「えっ? どういうことです?」
「実は、あの御方は冒険者からありったけ金目の物を奪い取って、レア装備品を渡すことなく殺すんだ」
「!?」
「確か半年前にも冒険者が二人殺されているんだよ」
「なんでそんなことを俺たちに教える」
瑠璃が怪訝そうに尋ねた。
「本来ならあたしたち魔女は、温厚な態度で冒険者に接し、魔女王様のいる屋敷へと向かうように誘導しろと命令されている。だけど、あたしの串焼きをここまで喜んでくれたあんたたちを売ることはできないよ。だから絶対に行くのはやめておくれ」
「あんた、やっぱり良いやつだな」
「そういえば。半年前に殺された冒険者の仲間が一人この森のどこかへ隠れ住んでいるって噂だけど、どこにいるんだろうねぇ。……あの子も無事だといいんだけど」
「そんなやつはどっちでもいい。よし、月。とっとと行くぞ」
そう言いつつ串焼きの肉を食べ進める瑠璃。
「大体予想できますけど、どこに行くんですか?」
「決まってるだろ。……あの山の頂上にある魔女王とやらの屋敷」
「やっぱりそうですよね」
「ちょっと話を聞いていたのかい? あの御方は本当にやばいんだよ。強さのレベルがまるで違う。ここまでたどり着くことのできた冒険者たちが、まるで赤子の手を捻るように殺されるんだ」
「へぇ、だったらなおさら楽しみになってきたな。その悪党みたいなやつを殺してレア装備品を奪い取るか」
「どっちが悪人かわかりませんね。でもそのレア装備品は確かに興味があります。行きましょう」
「な、なんで二人ともそんなに嬉しそうなんだい!?」
おばさんは意味がわからないといった表情で尋ねた。
「だって俺強いから」
「だって瑠璃さん。強いですから」
瑠璃と月が同時に言った。




