第三十一話【魔女の森】
大木をくり抜いて造ったような家。
巨大なきのこの形の建物。
遠くにある大きな山へと続いている一本の階段。
なかでも一番の特徴は、複数の魔女たちが杖に跨って空を飛んでいるということ。
一言で表すならば、ここは魔女の森。
かなり階層が飛んで第60階層に位置する場所だ。
「なんですか、ここ!?」
彼女は瑠璃の横に着地しつつ、驚きの声を上げた。
「俺も知らん。魔女の森って感じの場所じゃないか?」
「知らないと言いつつ、的確な答えを言うんですね」
「……ん? なんか一人の魔女がこっちに向かってきてないか?」
瑠璃が指さした先には、ほうきに乗って二人のもとへと近づいてきている魔女の姿。
黒いとんがり帽子とローブを着用しており、わりと若く見える。
「瑠璃さん。いきなり攻撃するのだけは止めましょう。人間っぽい見た目ですし、敵じゃないかもしれません」
「俺が心のない殺人鬼みたいな言い方をするな。世界一優しい男だぞ」
「見え透いた嘘はさておき、わかっているならいいです」
二人は戦闘態勢を取ることなく、彼女の到着を待つ。
「お前たちは冒険者か?」
やがて近くまでやってきた魔女が空中で静止し、瑠璃と月を交互に見ながら尋ねた。
「おう」
「はい。冒険者です」
「そうか、久しぶりに新しい冒険者に会ったな。とにかく魔女の森へようこそ」
「「?」」
歓迎されるという予想外の対応に、瑠璃と月は顔を見合わせた。
「私たち魔女は敵対行動を取らない者には温厚な態度を取る。だがしかし! 害になると判断した場合、全勢力を以ってお前たちを潰しにかかるだろう。それを理解したうえでゆっくりとしていってくれ」
そう言うなり、魔女はどこかへと飛んでいった。
「はぁ……ここダンジョンか?」
瑠璃がため息を吐きつつ言った。
「なんでそんなに残念そうなんですか!?」
「だって見た感じ安全地帯じゃん」
「えっ。私はそれがすごく嬉しいんですけど」
「俺はもっと戦いたいんだよ。……あ、良いこと思いついた」
「お願いします。それだけはやめてください」
「いやまだ何も言ってないだろ」
「今日一日かなり頑張りましたし、宿を見つけて久しぶりにぐっすりと寝ましょう」
「わざと悪いこと──」
「──本当にやめてください。言わなくても瑠璃さんの考えはわかりますから」
月の推察通り、彼はわざと魔女を怒らせて全勢力と戦おうとしていた。
ダンジョンで初めての安全かもしれない場所を見つけたのにもかかわらず、この考え方。
まさに生粋の戦闘狂である。
「えぇ……」
「本当に戦うことしか頭にありませんね」
「だってあいつら経験値たくさん持ってそうじゃん」
「そういうことを言うのもやめましょう! 聞かれたらやばいですって」
「ま、仕方ない。月の言う通り、とりあえずはおとなしくしておくか」
「ありがとうございます」
「でも次の階層へ進む前には、やっちゃっていいんだろ?」
「……その時次第ですね」
月は曖昧に濁しておく。
「あ、それと。もし魔女が妙な真似をしてきても、逆に全俺勢力がこの魔女の森を潰しにかかるから、月は羽を伸ばしておいていいぞ」
「急にどうしたんですか?」
「いや、あいつらが言葉通り何もしないとは限らないだろ」
「それは私も思いましたけど、いいんですか? 羽を伸ばしても」
「月はいつも頑張ってくれているし、たまには気分転換も必要だと思って」
「でも、どちらかといえば瑠璃さんのほうが身体を酷使しているわけですから、なんかもうしわけないような……」
「気にすんな。俺は羽を伸ばしながら周囲を警戒できるし」
「それ、絶対休めてないですよね」
「なんなら警戒が休憩まである」
「言っている意味が全くわかりません」
「そんなわけだから月は休め」
「もう……しかたないですね」
そう言いつつ、どこか嬉しそうな様子の月。
「というわけで、さっそく散歩しよう」
「はい」
二人は魔女の森のなかを歩き出した。




