第二十九話【学校】
第35階層。
「どう見ても……学校だよな?」
「はい。どこからどう見ても学校ですね」
二人は下駄箱の側にいた。
掲示板に【校則は守るべし】と表示された紙が貼られている。
「そろそろ地面を壊して進んでみてもいいか? もしかすると下の階層に繋がっているかもしれないし」
「えー。ちょっとだけ見て回りませんか? どんな風に作られているのか興味があります」
「……まあ、確かにそう言われたら気になるけどさ。学校っていろいろと頭使いそうじゃん」
「大丈夫ですよ。私頭良いですから」
「いや、絶対に俺のほうが優秀だろ。前回の謎解きも全部俺が解いたし」
「あれはたまたまですよ」
「なんにしろ、ちょっと歩いてみるか」
「はい」
そんなやり取りをし、瑠璃と月は学校の探索を始める。
最初に土足で廊下を歩き出したその瞬間、二人の目の前に化け物が出現した。
三メートルくらいある人型の魔物。
青い肌で、顔面にバツの形の傷がついている。
すごい速度で接近してきたというわけではなく、突然現れたのだ。
「土足厳禁。ルールを破った者には罰を──」
そう言いながら月に向かって殴りかかる。
「おい! なに俺の女に手を出そうとしてんだ、こら」
瑠璃が横から蹴り飛ばしたことにより、相手は吹き飛んで壁にぶつかった。
そしてそのまま地面へと倒れて動かなくなる。
レベルアップの音が響いた。
「えっと、どうやら校則を破ると魔物が出現するみたいですね。……そういえば、掲示板にも【校則は守るべし】って書かれていましたし」
「…………?」
瑠璃は無言で自分の足を見つめる。
「ん? どうしたんですか?」
「わりと力を入れて蹴ったはずなのに、破裂しなかった」
その言葉を聞き、月は倒れている人型の死体を見つめる。
「本当ですね。血も一切出ていません」
「レベルアップの音が聞こえたから一応倒せてはいるんだろうけど、あいつ結構硬かったぞ」
「それはどのくらいです? 白竜以上でしたか?」
「白竜どころか、それよりも強いカラフルな竜以上の防御力だった」
「えっ、それって普通にやばいと思います」
「ああ。弱そうな見た目だから、余計にギャップを感じてびっくりしたんだよ」
「……なるほど、要するに──」
「──校則を破ってしまった場合、普通では到底倒せないような強敵が出てくるってことか」
「なんで先に言うんですか」
「だって俺のほうが先に気づいたし」
「いやいや今回に関しては100パーセント私ですって」
「とにかくだ! たくさん校則を破るように努力していこう」
「話のそらし方が雑ですし、瑠璃さんならそう言うと思ってました」
「いい経験値稼ぎになりそうだからな」
「でも、校則って具体的に何を指しているんでしょうね? さっきは土足で廊下に上がったからだと思いますけど」
「う~ん。……ま、適当に悪いことをしていたら出てくるんじゃね?」
「それが一番手っ取り早そうですね」
その後瑠璃と月は、無人の学校でひたすら悪いと思われる行為を繰り返していった。
廊下を走ってみたり。
教室の窓ガラスを割ってみたり。
机の上で寝転がってみたり。
それぞれ男女別のトイレに入ってみたり。
学校の壁を破壊したり。
とにかくちょっとしたことでも青い人型の魔物は出現するため、その度に瑠璃が瞬殺していった。
「もう悪いことが思いつかないし、そろそろ地面を掘って先に進むか」
玄関へと戻ってきた瑠璃が、つぶやいた。
「一応階段を探していたんですけど、全然見つからなかったですね」
「マジでどこにもなかったな。……俺たちには関係ないけど」
「まあ、はい。階段を下りても地面に穴を空けても一緒ですから。それにしても、結構楽しかったです」
「月もか?」
月は頷いた。
「学校って厳しいイメージがあったので、こうして自分から進んで悪いことをするのはドキドキしました」
「外の世界の学校では、絶対に今日みたいなことできないよな」
「退学どころか、確実に警察がきますよ」
「でもここはダンジョンだからそんなの関係ないし。とにかくいい経験ができた」
「はい」
「じゃ、床をぶん殴って穴を空けるから、ちょっと離れていてくれ」
「もしこの真下に次の階層がなかった場合、この階層で階段を探すんですか?」
ファーストステージとセカンドステージは基本的に真っすぐ下へ伸びていたのだが、サードステージの階層の位置はずっと不規則だった。
東京に似た巨大な階層の下に地下大国があったかと思えば、謎解きのような小さな部屋があったり。
「いや、今回はしばらく掘り続けてみようと思う。仮にひとつ下にたどり着かなくても、二つ下や三つ下の階層がこの真下にあるかもしれないし」
「あー、なるほど」
「とりあえずどこかの階層にたどり着いたら呼ぶから、そしたら下りてきてくれ」
「わかりましたけど、全然次の階層がないと思った場合、戻ってこられなくなる前に帰ってきてくださいよ?」
「どんなに掘り進めていようと、連続で壁キックをすれば余裕で登れるだろ」
「映画とかだとそういうことを言う人って大抵死ぬんです」
「ま、肝に銘じておくよ。月をこんな所で一人ぼっちにさせたくないし」
「お願いしますね?」
「おう」




