第二十四話【腕枕】
月が見えてきたため、瑠璃はこの通路にきて初めて全力を出した。
時間にして二秒。
彼女もすさまじいスピードで走っていたのにもかかわらず、それが赤ちゃんのハイハイに思えるかのような差だった。
「よう、月。何してるんだ?」
「はひゃっ!? る、瑠璃さん? びっくりしたじゃないですか」
「なんで俺よりも進んでいるんだよ」
「それはこっちのセリフです。どうして後ろからくるんですか」
「「……あっ!」」
瑠璃と月が同時に声を上げた。
「わかったぞ──」
「──この通路は永遠にグルグル回り続ける仕組みになっているんですよ!」
横取りされたことにより、彼は月を睨む。
「おい! 俺が先に気づいたんだぞ」
「いいえ、私のほうが早く気づきました」
「嘘つけ。お前ちょっと喋り出すのが遅れていただろ」
「なんでそんな三次元みたいな考え方しかできないんですか」
「いや、言い始める速度に関しては次元なんて関係ないからな」
「とにかく今回は私の勝ちということで、もうここから出ましょう」
「俺の勝ちということでこの議題は終わるとして、もう少しレベル上げしていかないか? カラフルな色の竜がかなり経験値を持っているんだよ」
「瑠璃さんが勝ったと思って一応ビデオ判定をしたら実は私のほうが早かったんです! どうせまた一時間くらい待たないと竜たちは復活しないでしょ? ならさっさと脱出して先に進んだほうがいいと思います。絶対ここよりも効率のいい場所はたくさんあるでしょうし」
「実は月のほうが早かったんだけど、そもそもそれは世界の理が間違っているからであって、全てが平等な世界線で判定してみたら俺の勝ちだった! それもそうだな。月にしては良いこと言うじゃん。じゃあ出るぞ」
瑠璃は全力で通路の壁を殴り、オリハルコンと異空間の膜を同時に貫いた。
この部屋が真っ白に輝き始める。
「あっさりしてますね」
「二回目だからな」
◆ ◇ ◆
気づくと二人は洞窟の行き止まりに戻ってきていた。
瑠璃が残念そうにつぶやく。
「あぁ……あのベッドがなくなっている」
「まあ罠を内側から壊したわけですし、当然と言えば当然ですけど」
「月と添い寝できるかと思ったのに」
「そんなに残念なんですか?」
「めちゃくちゃ落ち込んだ。もう立ち直れないかもしれない」
「すごいダメージを受けているじゃないですか」
「ベッドで腕枕をしてあげながら一緒に眠りたかったな」
「ちなみになんですけど。……それ以上のこととか、する気ありました?」
「それ以上って?」
月は「はぁ」とため息を吐く。
「やっぱりいいです」
「まさか口づけとか……そういうことを言っているのか?」
瑠璃が顔を赤くして言った。
本当はそれ以上のことを想像していた月は、まあ瑠璃さんは昔からそういう人ですよねと心のなかでつぶやきつつ、頷く。
「まあ……はい」
「お前、かわいい顔してわりと変態だな」
「うるさいですよ!」
「キスなんて結婚してからするものだろ」
「……ですね」
「……」
月は瑠璃の顔を見つめる。
「あの、瑠璃さん。ここで腕枕してもらえませんか?」
「急にどうしたんだ?」
「いえ、さっき全力で走っていたんで、ちょっと疲れました」
実際は腕枕をやってもらいたかっただけなのだが、恋愛感情に疎い瑠璃は気づかない。
「そういうことか。俺なら大歓迎だ」
「よ、よろしくお願いします」
二人は同時に土の地面へと寝転がる。
「重かったらごめんなさい」
そう言って、月が彼の腕に頭を乗せたその時。
「こうしてもいい?」
瑠璃が低い声で尋ねながら、月の体を抱きしめた。
彼女は頬を赤く染めつつ返答。
「……もうやってるじゃないですか」
「うん」
「瑠璃さん。心臓の音すごいですよ」
「いや、月の音だろ」
「違います」
「……どっちでもいい」
「そうですね。どっちでもいいです」
そう言って、月も彼の体に腕を回した。
すると、一瞬にして瑠璃の顔が赤くなる。
自分の大切な人から求められた気がして、言葉では言い表せないような気持ちになったのだ。
気を抜けば襲ってしまいたくなるような、そんな感情。




