第二十二話【怪しいベッド】
五分ほど分かれ道を右に進んでいった結果、行き止まりだった。
しかもただの行き止まりではなく、ボロいベッドがひとつだけポツンと置いてある。
「ほら、やっぱり左だったじゃないですか」
「俺も左って言ったぞ」
「あの言い方は、実質右を選んだようなものです。男のくせにずるいですよ!」
そう言って月は頬を膨らませる。
「それよりもさ。そろそろ下ろしてくれないか? お姫様抱っこされていたら、普通に走るよりも十倍くらい疲れるんだが」
「そうですか? 私は抱っこされている時のほうが格段に楽ですけど」
彼女は瑠璃を地面へと下ろす。
「別にキュンキュンしたりもしなかったし、しんどいし、俺はもう抱っこされたくない」
「確かに、これじゃない感がありましたね」
「やはりお姫様抱っこは男がするものだし、女がされるものなんだよ」
「はい。すごく実感しました」
「ちなみに楽に抱っこされるコツでもあるのか?」
「コツと言われましても、相手に身を委ねるくらいですかね?」
「あーじゃあ無理だな。だって月って俺に比べて頼りないし」
「瑠璃さんと比べた場合、世界中の全員が頼りなくなると思うんですけど、気のせいでしょうか」
「気のせいだ」
「うん。絶対違いますね」
瑠璃はゆっくりとベッドに近づきつつ、口を開く。
「で、さっきから気になっていたこのベッドなんだけど、どうする?」
「どうするとは?」
「寝るか無視するか」
「いやいや、そんなの無視の一択でしょ。こんなの明らかに罠ですし」
「でも罠じゃなくて本当のベッドだという可能性もあるぞ?」
「仮に本物だとしてもボロボロですし、どちらにしろ寝ることにメリットがないんですよ」
「俺は月と同じベッドで添い寝できることがメリットだと思っているけどな」
「あそこで添い寝するくらいなら、まだ地面のほうがましです」
「でもそれだと雰囲気がなぁ」
「だから。あんな怪しい所では、雰囲気もくそもないんですよ」
「じゃあちょっと俺が一人で試してくるから、もし何もなければあそこで添い寝してくれないか?」
月の甘い声を聞いてから、瑠璃は更に彼女に惚れていた。
ゆえに純粋な彼は、腕枕をしてあげながら一緒に眠りたくなっていたのだ。
「ま、まあ。罠がなければ」
「ほんと?」
「……はい」
恥ずかしそうに頷く月。
「よっしゃ。というわけで試してくる」
瑠璃は嬉しそうに近づいていき、ベッドに飛び込んだ。
その瞬間、彼の姿が消えた。
「瑠璃さん!?」
月は心配そうな表情を浮かべる。
一応昔は天神ノ峰団で盗賊の役割をしていたこともあり、彼女は罠について詳しかった。
だから、止めるべきであったと後悔する。
瑠璃であればなんとかなるだろうと思い、安心して一部始終を見ていたのに、彼の姿が見えなくなった瞬間一気に不安になった。
身体が震えるくらい寂しくて、心配だ。
「私も……行きましょう」
もし彼が異空間よりもやばい所に閉じ込められていたら。
もしそこに彼でも勝てないような魔物が大量にいたら。
そう考えるとじっとしていられなかった。
そうして歩き出したその時。
月の頭上からレベルアップの音が連続で響き始めた。
「ん?」
少し立ち止まって待ってみるも、鳴り止む気配はない。
「……まさか、強敵を倒しまくっているんです?」
何はともあれ、彼女はベッドへと近づく。
「今の私であれば瑠璃さんのお役に立てる。そのためにパーティーを組んでレベル上げを手伝ってもらっているのだから」
そうつぶやきつつベッドに軽く触れた。




