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Episode.19


      ◇


 気づくと、辺り一面お花畑だった。

 暖かくて心地よい。

 そよぐ風が甘い香りを運んでくる。


「…………えっと、あの人は誰なんでしょう?」


 遠くにいる男性を見つめながら首を傾げる月。

 妙に懐かしさを感じ、彼を見ているとなぜか胸が締め付けられるような感覚に襲われる。

 そのまましばらく見つめていると、やがて彼がこちらへと近づいてきた。


「月、一度しか言わないからよく聞け」


「?」


「概念を殺して先に進みたいなら、ただひたすら生きたいと願え」


「……なんの話ですか?」


「希望が体内から溢れて零れるくらいに、願って、願って、願い続けろ」


「えっと……」


「……待ってる」


「ちょ、ちょっと待ってください。そもそもあなたは一体──」


 そう問いかけるも、途中で意識が遠のいていく。


      ◇


 目を覚ますと、まだ夢の記憶が残っていた。


「ケホッ、ケホッ。……不思議な夢でしたね」


 そうつぶやいた直後、急に隣から声が聞こえてくる。


「どんな夢だったんだ?」


「ひゃっ!? …………えっ?」


 突然のことに驚いたあとで顔を向けてみると、そこには一人の男性が座っていた。

 夢で見た彼と瓜二つだ。

 おそらく同一人物なのだろう。

 だが、なぜかはわからないが、全く別人のような気がする。


「月? どうしたんだ?」


「…………っ」


 とそこで、身体の違和感に気づいた。

 とてつもない飢えと吐き気。

 頭が割れそうなほどに激しい頭痛。

 全身が重くて、寒くて、動きたくても動けない。

 とにかくしんどい。

 これなら死んだほうがマシだ。


「…………うぅ」


 喉の渇きを満たしたくても、アイテムボックス内から水分を取り出す余裕がない。


「……めちゃくちゃ辛そうだな」


 誰かもわからない男性が話しかけてくる。


「…………」


「ここまで、本当によく耐えたよ」


「…………」


「けどもういい。そろそろ生から解放されて楽になろうぜ」


「…………」


「死んだら全ての痛みから解放されるぞ」


 そう言われて、大人しく目を閉じる月。

 自分が今どういう状況に置かれているのかはわからないが、この苦しみから解放されるのであれば、今すぐにでも死にたい。

 だからこのまま眠るようにして、命を手放そう。


 だがその瞬間、


『概念を殺して先に進みたいなら、ただひたすら生きたいと願え』


 ふいにそんな声が聞こえてきた。

 先ほど夢で聞いたセリフだ。

 月はギリギリで踏ん張り、耳を澄ませる。


『希望が体内から溢れて零れるくらいに、願って、願って、願い続けろ』


 あなたは誰なんですか? と心のなかで問いかけるも、返答はない。

 その代わり脳内に、夢と同じセリフが響いてくる。


『……待ってる』



 それから数秒後。


 月は一切状況が把握できていないにもかかわらず、声の言うことを信じてみることにした。


 目を閉じたまま震える両手を動かし、胸の前でぎゅっと握る。


 そして【生きたい】と願った。



 しかし、特に何も起こらない。



「…………」


 不審に思いつつも【生きたい】と思い続ける月。

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