第二百八十話【集結】
月が病院をあとにし、大通りを歩いていると、急に誰かが目の前に立ちはだかってきた。
上を向くと、赤髪で強面の男性。
月は少し眉を潜めつつも、隣を通り過ぎようとする。
しかし、
「待て」
通せんぼされてしまった。
「むぅ……なんでしょうか?」
「なぜあんたがここにいる? まだ病院で大人しくしていないとダメだろ」
「? どちら様ですか?」
「オレはノヴァ。あんたの知り合いだ」
「……避けてください」
「無理だな」
「なんで邪魔をするんですか?」
「あんたのことが心配だからだよ」
「っ…………私はもっと強くなれなければいけないんですっ!」
「気持ちはわかるが……それで身体を壊したら、むしろ逆効果だろ」
「むぅぅぅ……」
「がるぅぅぅ……」
不機嫌に不機嫌で対抗するノヴァ。
「………………はぁ……わかりました。諦めます」
月は残念そうに踵を返す。
その瞬間、──魔法で自身の身体能力を強化し、ノヴァのほうに向かって走り出した。
「──っ」
反射的に阻止しようとするノヴァ。
「チッ!?」
しかし足元に氷が張られていたことにより、滑ってしまった。
月がこっそり仕込んでいたのである。
彼女はその隙に大ジャンプをし、ノヴァの頭上を飛び越えた。
そして、ものすごい速度で走り去っていく。
「…………」
ノヴァはそんな月のことを追おうとはせず、むしろ嬉しそうな笑みを浮かべて、
「……まだまだ元気じゃねぇか」
◇
しばらくして。
ひとつ前の階層でレベル上げを始めた月の元に、大量の人々が押し寄せてきた。
先ほどのノヴァだけでなく、瓜二つの双子や子連れの金髪女性、ハチマキをした集団など。
それに加えて、統一性のない屈強な冒険者たちもいる。
月は目の前の魔物を葬り去ったあとで、みんなのほうを向き、
「ど、どうされたんですか!? ……って、あなたは先ほどの。……言っておきますが、私はやめませんからね!」
「いや、止めるつもりはねぇよ」
「えっ!?」
「今から全員であんたの手伝いをしてやる。だからオレたちとパーティーを組め」
「な、なんで……」
「説明が面倒くさいから詳しいことは省く。まあとにかく、ここにいるやつらは全員、あんたの頑張る姿に惹かれて集まったんだよ」
そう言いつつ、パーティー申請を送るノヴァ。
「…………えっと」
月は状況が理解できていない様子だが、とりあえず承認した。
その瞬間、ノヴァが大声で叫ぶ。
「よし、やるぞお前らぁぁぁ!!」
「「「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」」」
「親衛隊、隊長の名にかけて、必ずるなたんを守ってみせる!」
「副隊長として、俺も役に立つぞ!」
「ぐふふっ。久しぶりのるなたんはやっぱりかわいいなぁ~。思わずペロペロしたくなっちゃうよぉ~」
「あ~、戦いなんて数年ぶりだからワクワクするぜ!」
「俺はかつて王国最強の魔法師と謳われていたんだ。るなたんの支援は任せとけ」
「…………みな、さん」
あまりの迫力に圧倒される月だが、両頬を軽く叩いて気持ちを入れ替えるなり「よしっ」とつぶやいた。
その後、圧倒的な戦力によって、階層中の魔物を蹂躙していく。




