第十五話【水遊び】
月は布の服とズボンを着たまま、ゆっくりと湖のなかへ入った。
「うわぁ、冷たいですね」
「だろ? ストレス解消になるというか、とにかく気分がいい」
瑠璃は泳いで陸から離れていく。
「確かに気持ちいいんですけど……ちょっと怖くないですか?」
「何がだ?」
「湖の底が見えないんで、恐怖心を感じるんですよ。……例えばいきなり巨大魚が襲ってきたり、実は底なしだったり。そんなことを考えていたら怖くなりませんか?」
「俺は別に怖くない。自分が最強だと思っているからな」
「瑠璃さんはそうかもしれないですが、私はさほど強くないですし」
「俺の側にいたら大丈夫だって」
「すごい説得力ですね。大口を叩くだけの男とは違って、実際に実力が伴っていますから」
「さて……。ちょっと湖の底を見てくる」
「え?」
「どれくらい深いのか興味がわいてきた」
瑠璃はすぐさま潜り始めた。
「側にいたら大丈夫とか言いつつ、一人でどこかに行っちゃったんですけど!?」
月が水中に向かってツッコみを入れる。
「全く、本当に仕方のない人ですね」
その瞬間。
とてつもない水しぶきと共に巨大なネッシーが宙を舞い、草原へと落ちていった。
「はいぃ!?」
全長50メートルを超える首長竜が吹っ飛んでいく光景に、月は口を開けることしかできない。
続いて30メートル級の魚が打ち上げられ、ウツボの横へと落下した。
「これ絶対瑠璃さんの仕業でしょ!?」
月は急いで草原に上り、走って遠くへと移動していく。
「湖のなかにあんな生物がいることを知ったのも怖いですが、早く離れないと瑠璃さんの攻撃に巻き込まれそうです」
そう言って走る月の真横に、山のようなサイズのカメが落ちてきた。
「ひゃっ!?」
更に巨大なザリガニ、ワニ、ナマコが降ってくる。
「ち、ちょっといい加減にしてくださいよ!」
最後に瑠璃がものすごいスピードで湖から飛び出してきた。
彼は遠ざかっていく月の真横に着地し、口を開く。
「ちゃんと底あったぞ」
「きゃっ……て、瑠璃さんじゃないですか! 私、あの巨大な魔物たちに潰されそうになりましたよ!?」
月が立ち止まって言った。
「どうして湖から離れたんだよ。月が泳いでいた位置を避けて吹っ飛ばしていたのに、その意味がないだろ」
「そんなの知りません。そもそも地上に飛ばさないでください」
「だってこいつらがダイビングの邪魔してきたし、もしかすると食べられるかもしれないと思ってな」
「ま、当たらなかったからいいですけど」
「実際月のレベルなら潰されても死にはしないと思うぞ」
「そういう問題じゃなくて、無駄なダメージを負いたくないんですぅ。お嫁に行けなくなったら責任取ってくれるんですか?」
「当たり前だろ。というかお嫁に行ける状態でも俺は離す気ないし」
「……そういうセリフを吐くなら、もう少し恥ずかしそうに言ってもらえません?」
「とはいっても別に恥ずかしくないしな」
「ま、それが瑠璃さんですよね。知ってます」
「それより聞いてくれ。この湖そこまで深くなかったぞ」
「そうなんですか?」
「ああ。そして魔物を倒すたびにレベルが上がるし、いいこと思いついた」
「レベル上げがしたいんでしょ?」
「……えっ、なんでわかったの?」
「そのくらいわかりますよ」
「そういうことだから、ちょっとだけやってきてもいいか?」
「別にいいですけど、ひとつ条件があります」
「なんだ?」
「私も経験値が欲しいのでパーティを組んでください」
「…………」
「なんでそんな露骨に嫌そうな顔するんですか!」
「だって半分になるし」
「瑠璃さんは経験値が二倍になる指輪を装備しているんですし、別にいいじゃないですか。……それに、私もこれからダンジョン攻略の役に立ちたいんです!」
「俺にとってはいてくれるだけで十分なんだけどな」
「そう言ってもらえるのは嬉しいんですが、私は瑠璃さんと一緒にダンジョンを攻略したいんですよ」
「なるほど。了承!」
「軽っ!? えっ、本当にいいんです?」
「ああ。その代わり月は湖の近くに徘徊している弱そうな魔物を狩っていてくれ。危なくなったらすぐに大声を出して俺を呼ぶんだぞ? どんなに奥深くに潜っていても助けにくるから」
「はい。ありがとうございます」
二人はパーティを組み、レベル上げを始めた。
瑠璃は湖のなかに潜んでいる強敵。
月は草原の弱い魔物。
ものすごい速度でレベルアップの音が響いていく。
実はこの第31階層目にある湖。
調子に乗って水遊びをする冒険者を殺すために、白竜レベルの強敵が大量に設置されていたのだが、瑠璃にとっては都合の良い経験値でしかなかった。




