第二話【天神ノ峰団】
瑠璃は騒ぎのもとへ移動したのだが、人が多すぎて階段を見ることができずにいた。
背があまり高くないため、覗きこもうとしても身長が足りない。
「おい、誰か入ってみろよ」
「さっきのセカンドステージがどうとか言ってたアナウンスと、本当に関係があるのか?」
「ちょっと行ってみようぜ」
「こっちのダンジョンのお宝は、早いもん勝ちだ!」
そんな話し声が聞こえてくる。
瑠璃は小さくため息を吐いた。
「もう少しあとからくるか。……とりあえず家に戻って、親に挨拶だけでもしておこう」
そう言って踵を返し、歩き出す。
瑠璃が去っていったあと。
天神ノ峰団の団長である村雨が、周りを見ながら口を開く。
「まずは俺たちが中の様子を見てこよう! 安全かどうかわからないからな」
「おぉ、レベルランキング上位のほとんどを占めている天神ノ峰団が行ってくれるなら安心だな」
「私たちは安全が確認できてからにしておきましょっか」
「おい、なんだと! 宝を独占する気か!」
「そうだそうだ! 俺たちが先にこの階段を見つけたんだ」
「レベルが高いからって調子に乗るなよ!」
案の定、賛否両論の声が上がった。
「みんな聞いてくれ! さっきのアナウンスを信じるならば、おそらくファーストステージが誰かの手によってクリアされたから、セカンドステージであるこの階段が現れたんだ。ファーストステージとは、多分三年前に現れたあっちのダンジョンのことだろう。……もしあのダンジョンをクリアできる自信のあるやつがいるなら、先に行けばいいさ。クリアの目処が立ってはいないが、それなりに実力のある天神ノ峰団は、遠慮なくそのあとをついていくことにする」
村雨の重い声が響いた。
それにより、先ほどまで騒いでいた者は全て黙ってしまう。
村雨がとんでもない圧を発していたというのもあるが、言っていることに納得できてしまったのだ。
「でも、あのダンジョンがクリアされたと言われても、あんたたちほどの大規模ギルドが未だ最下層へ到達できていないのに、クリアしたやつなんて本当にいるのか?」
一人の男性からそんな声が上がった。
おそらくほとんどの人が疑問に思っていたことだろう。
「俺が思うに、ランキング一位に君臨し続けている琥珀川瑠璃じゃないか?」
村雨が答えると、何人かが納得したように頷く。
「そういえば。ひとりだけレベルの桁がおかしいし、その可能性はあるかもしれねぇ」
「レベル10000近くあればクリアできても不思議じゃない」
「まあ、本当に存在しているかどうかは怪しいがな。誰も姿を見たことがないし。俺は何かの間違いだと思うぞ」
「俺も表示のミスとかだと思う」
少し悩むようにしつつ、村雨は返答する。
「俺も琥珀川瑠璃についてはわからないが、俺たち天神ノ峰団よりもレベルの低い冒険者たちがダンジョンをクリアできるとは思えない」
「そうだ。ウチの団はこう見えても世界最強だと自負している」
更に村雨は反論を上げていた者たちを一瞥し、静かに告げる。
「安心しろ。別に俺たちも本腰を入れて探索するわけじゃない。少し中の様子を見て、冒険者ギルドに情報を渡すだけだ」
「そ、そういうことなら、まあ……」
「噛み付いちまって申し訳ねぇ」
「どうぞ、行ってください」
どうやら否定的な意見の者はいなくなったらしい。
これが、大規模ギルドの団長でレベルランキング第二位にまで昇り詰めた男のカリスマ性である。
決して拳に頼ることなく、短時間で大勢を納得させた。
「よし、それじゃあみんな行くぞ! 決して油断するな」
「「「はい!!」」」
天神ノ峰団は、整列してゆっくりと階段を下りていく。
まるで軍隊のような圧力に、他の冒険者たちはあっけにとられるばかりだった。
階段を下り始めて三分ほど経った。
「村雨さん! 何かが見えてきました」
「ああ、わかっている」
彼らの目の前には、水色に輝くクリスタルが宙に浮いていた。
「なんでしょう?」
「おそらく触ることで転移させられるのだろう。とりあえず一番レベルの高い俺が最初に行ってみることにする。あまり大勢で行くとパニックになるかもしれないから、夜霧と赤松だけ追ってきてくれ」
「了解です」
「俺に任せといてください」
黒髪の夜霧と赤髪の赤松が同時に返事をした。
そして村雨がクリスタルを触ったその時、
【ファーストステージのクリア者以外の立ち入りは許可できません】
空中にそんな文字が出現した。
「……は?」
「なんだと?」
首を傾げる夜霧と赤松。
「なるほどな。……念のため、夜霧も触ってみてくれ」
「了解です」
夜霧はすぐさまクリスタルに触れる。
【ファーストステージのクリア者以外の立ち入りは許可できません】
全く同じ文字が空中に出現。
「どうやら、まずは向こうのダンジョンをクリアしろということらしい」
後にこの情報は冒険者ギルドに伝えられ、じわじわと冒険者たちに広まっていくのだった。




