第十四話【湖】
第31階層。
地下大国から階段を下りていくと、草原に出た。
遠くに湖と森が見える。
「よし、ここからは自分で歩いてくれ。重たくて腕が千切れそうだ」
そう言いながら瑠璃は彼女を地面に下ろす。
「実際私ってそんなに重くないと思うんですけど? 瑠璃さんは身体能力が半端ないわけですし、多分持ってないのと同じくらいじゃないですか?」
「まあ本当のことを言うと別に重くもなんともないんだけどさ……。めちゃくちゃ神経を使わないといけないから非常に疲れる」
「ん?」
「月を怖がらせたくなかったから今まで黙っていたんだよ」
「何がです?」
「いや、ちょっと力加減を間違ったら軽く月の体を潰してしまいそうだから、必死で腕の力を抜いてお姫様抱っこしてた」
「いやいや、ちょっと! そういうことは先に言ってくださいよ」
「悪い」
「もう二度とお姫様抱っこしないでください。……だって甘い言葉を掛けられている時、私は死と隣り合わせだったってことでしょ?」
「そうなるな」
「……絶対知らない方が幸せだった事実ですね」
「だから言わなかったんだよ」
「まあ過ぎ去ったことをしつこく言っても仕方ないんで、許すことにします。それに瑠璃さんはそんな失敗をするような人ではないですし」
「約束はできないぞ」
「だって瑠璃さんは私のことが世界一好きなんでしょ? 壊すはずないじゃないですか」
「ま、まあな」
「で、これからどうします?」
「多分地面を掘ったらいつでも下の階層へ行けるんだろうけど、とりあえず喉が渇いたから湖に行こう」
「わかりました。私もちょうど喉が渇いていたのでありがたいです」
瑠璃は月のペースに合わせて走り、湖に移動する。
かわいそうなことに、道中の雑魚敵は全て瑠璃によって一掃された。
「ゴクッゴクッ」
突然瑠璃が湖を目の前にして、そう言った。
「なんで水を飲む時みたいな音を口で言ったんですか?」
「もし仮に俺が主人公の小説があった場合、喋ったこととかが全て文字で表されるわけだから、読者を一瞬だけ騙せるんじゃないかなと思って」
「頭大丈夫です? そんなことあるわけがないでしょう」
「いや、ほぼ100パーセントあるだろ。四次元の思考回路で考えた結果、そういう結論に至った」
「ゴクッ……ゴクッ……あー、めちゃくちゃ冷たくておいしいですね」
「お前演技下手だな。なんでずっと棒読みなんだよ」
「だって瑠璃さんの考えによると、言ったことが文字で表されるんですよね? つまりどんなに抑揚のない喋り方をしていようとも、私と瑠璃さんは同レベルです。なんなら飲んだあとのセリフがある分、私のほうが飲んだと思われますよ?」
「もうその話題飽きたし、普通に飲もうぜ」
「なんか逃げられたような気がしなくもないですが、まあそうですね。もう喉がカラカラです」
そう言って月は湖の水を飲み始める。
「もう喉がカラカラです。赤ちゃんが遊ぶおもちゃはガラガラです! なんつってな」
「ブッ!! ……ゲホッゲホッ」
突然月が吹いた。
水しぶきが周りに飛び散る。
「お前汚いな。もう少し上品に飲めないのか?」
「けほっ……。瑠璃さんが笑わせるからじゃないですかっ! やめてくださいよ」
「いや、全然面白くなかっただろ」
「私にとっては面白かったんです!」
「そうか?」
「…………ほら、早く瑠璃さんも飲んだらどうですか?」
「絶対仕返しをするつもりだろ。俺は笑わない自信があるけど、大丈夫か?」
「ええ。問題ありません」
「上等だ」
瑠璃は湖の水面に口をつけ、少しずつ飲んでいく。
とそこで、
「えいっ!」
月がいきなり彼の背中を勢いよく押した。
「うわっ!?」
突然のことに対処できず、瑠璃はバシャァァン! という水しぶきを立てて湖へと落ちていく。
彼はすぐに水面から顔を出し、月を睨んだ。
「おい、びっくりするだろ!」
「あははっ、すみません。ちょっと手が滑ってしまって」
「えいっ! って言ってなかったか?」
「ふふっ、仕返しですよぉ~」
「ったく、冷たくて気持ちいいじゃねぇか!」
「じゃあいいでしょ」
「というか持ち上げてくれ。何か巨大な魚が足に噛みついてきていて、全然動かないんだけど」
「さすがにそれはないでしょ。瑠璃さんですし」
「いや、これはガチ。マジで動かない」
「その手には乗りません。どうせ手を握った瞬間に引っ張るんでしょ?」
「くそ、バレたか」
「何年一緒に過ごしていると思っているんですか」
「まあ仕返しとかは置いといて、入ってきたらどうだ? すごくひんやりしていて気持ちいいぞ」
「なんかそう言われたら入りたくなってきました」
「別に服が濡れても布の服であればいくらでもアイテムボックスから出せるし」
「そうですね、じゃあ私も入ります」




