第十三話【お姫様抱っこ】
「さてと、下の階層へ続く階段を探さないといけないな」
もうすでに小さくなってしまった穴から地下大国を見下ろしつつ、瑠璃がつぶやいた。
「かなり広いですし、また別々に探しますか?」
「いや、一緒に探そう」
「でも地下大国と地上に分かれて探したほうが効率よくないです?」
「また月がどこかにいなくなったら嫌だ」
瑠璃の言葉に月は「あっ」と口を開ける。
「……この度は心配をかけてすみませんでした」
「無事だったからよかったけど、もう大切な物を失うかもしれないという不安を味わいたくない」
「相変わらず真顔で恥ずかしいセリフを言うんですね」
「本心を言っているだけなんだから、恥ずかしいも何もないだろ」
「それは瑠璃さんだけですよ」
「その考えに至るということはまだまだ三次元の思考回路だな」
「三次元ですか……。なんか最近、別にそれでもいいと思うようになってきました。同じ四次元の考え方だと対立が生まれたりしてうまくいかないような気がするんです。違う場所にいるからこそ、こうして何年も一緒にいられるんじゃないかなって」
「えっ、マジで? その考え……もうたどり着けているんだけど」
「はい?」
「つまり四次元ってそういうことなんだよ」
「全然わからないんですが」
「あっ、じゃあまだ月は三次元の思考回路だな。四次元にいる人間はわかるとかわからないとか、そもそもそういう疑問にたどり着かないし」
「どうせそれっぽいことを言って、適当に喋っているだけでしょ」
「その適当にすら理が当てはまっていくのが四次元だからな」
「そうですか。早く階段を探しましょう」
「あっ、考えることを放棄しやがった。まあいいけど。……で、それについてなんだけどさ、さっき良いこと思いついた」
「なんです?」
「俺が月をお姫様抱っこして全力で走り回ったら全部解決じゃないか? 月が誰かに連れ去られる心配もないし、待ち合わせとかしなくていいし、何より俺の速度で移動しながら二人で探すのは効率が良いし」
「あー、それはそうですね。……でもあれちょっと恥ずかしいんですが」
「じゃあなんの問題もないな」
「はぁ、まあそういうことでいいです」
瑠璃はすぐさま月をお姫様抱っこし、再び穴の下に広がっている地下大国へと下りていった。
地上ほど広くはないが、それなりに探す場所は多い。
上手に地面へ着地し、土の街を駆け抜けていく。
「大丈夫か? 怖くないか?」
「めちゃくちゃ怖いです。もうちょっとスピードを落とせないんですか?」
「これでも落としている。ま、もう少ししたら慣れてくるだろ」
「改善する気がないなら最初から聞かないでくださいよ。なんとなくわかってましたけど」
「とりあえずお城を通り抜けて、更に遠くへ行ってみようと思うんだけど、どう?」
「いいと思います」
瑠璃が空けた穴からかなり遠いはずのお城を30秒と経たずに通過した。
「あの、瑠璃さん」
「どうした、トイレか?」
「実はちょっと前から我慢してて、言おうかどうか迷っていたんですけど、走るスピードが速すぎて出ちゃいそうなんで、やっぱりどこかで済ませておきたいなぁ~なんて……て、違いますよ!」
「否定するまでが異様に長いな」
「そうじゃなくて、せっかくお姫様抱っこをされているので、ちょっと何か女の子が喜びそうな甘いセリフでも言ってみてくれませんか?」
「えぇ~。なんでそんな低レベルなことをしないといけないんだよ。そもそも甘いの基準とかわからないし、俺には無理だっての。…………それよりもさ。お前、あの赤髪とどういう関係なんだ?」
急に瑠璃が低音ボイスになった。
「えっ」
「あいつなんて忘れて俺のモノになれよ」
「……めちゃくちゃノリノリじゃないですか!? 一瞬びっくりしましたよ。しかも無駄に上手いですし」
「そんな強がらなくてもいいじゃん。……俺の前ではありのままでいろよ」
そう言って月の顎を触る瑠璃。
「そう……ですか?」
「つい最近気づいたんだけど、実は出会った時からずっとお前のこと目で追ってた」
「私も、その……ずっと瑠璃さんの戦う姿がかっこいいなぁって」
「あのさ、月」
「は、はい!」
「疲れたしなんかたまたま階段が見つかったから、もうやめてもいいか?」
急に瑠璃の声のトーンがいつも通りに戻った。
「えっ…………だめです」
「なんでだよ」
「ずっとさっきの感じで生きていてください」
「面倒くさいし、そもそもあんなこと素で言う男なんていないだろ」
「絶対いますって。というか瑠璃さんは絶対さっきのほうが似合ってましたよ」
「似合ってねぇよ」
「偽物は早くどっか行けー!」
「これが本物だっつってんだろ。獣人の街のなかに放り投げるぞ、お前」
「すみません。調子に乗り過ぎました」
そんな会話をしつつ、二人は階段を降りていく。
本来ならば、とある場所に地上と繋がっている抜け道があり、そこから地下大国へと侵入して獣人たちに見つからないように階段を探していくのが最も安全な攻略法なのだが、この人外たちには関係なかったようだ。




