第十話【大通り】
「おい! 人間風情がこの地下大国で何をしている」
「お城から出てきたようだが、何者だ?」
「まさかお前らが天井に穴を空けた犯人じゃねぇだろうな」
天神ノ峰団のペースに合わせて大通りを走っていると、突然建物の陰から三人の獣人が現れた。
瑠璃は立ち止まって口を開く。
「黙って見逃してくれるなら殺さないけど、どうする?」
「なんだと、てめぇ」
「どっちが上の立場なのかわかってんのか?」
「もうその反応飽きた。はい、とりあえず二人は始末っと」
彼がつぶやいた瞬間、逆らった左右の獣人が破裂した。
瑠璃の頭上からレベルアップの音が聞こえる。
単純に近づいて殴る動作を行っただけなのだが、月を除いて瑠璃の動きが見えた者は一人としていなかった。
一番驚いたのは生き残った獣人だろう。
なんせ一瞬にして左右にいたはずの仲間が死んだのだから。
「なっ……、お前!」
「で、あんたはどうする? 逆らうか見逃すか。選択肢は二択だぞ」
そんな瑠璃の問いに答えたのは、獣人ではなく月だった。
「あの瑠璃さん、ちょっと待ってください! 私に戦わせてもらえませんか?」
「おぉ、珍しいな」
「レベルが急激に高くなって以降、ほとんど魔物と戦ったことがなかったので、今の自分がどれくらいできるか試したいんです」
「早く脱出したいところだけど、そういうことなら別にいいよ。……というわけで獣人くん、君の相手はこの女だ。俺たちは一切手を出さないと誓おう」
そう言って瑠璃と月は入れ替わった。
すると突然獣人の表情が緩む。
「ガハハ。助かったぜ」
「それはどうでしょうか? 私は結構強いですよ?」
「女なんて誰だろうと大して変わらねぇよ」
獣人は自分が勝てる気でいるらしい。
戦おうとしているのはレベル100万超えの人間だというのに。
「鳳蝶。大丈夫なのか!? いくらレベルが高いとはいえ、相手は圧倒的な身体能力を持つ獣人だぞ」
「そうだ! 獣人は俺たちが複数で挑んでも勝てないような相手だ」
村雨と赤松が心配そうに尋ねた。
「確かに睡眠薬を吸わされた時は、力が抜けて手も足も出ませんでした。でも今は違います。……正直負ける気がしません」
「よく言ったな、月。頑張れよ」
そう言って瑠璃は彼女の肩を叩いた。
「はい、瑠璃さん」
「おい人間ども、約束しろ! もし俺が一対一でこの女に勝ったら全員俺に抵抗するな。黙って死ね」
「約束しよう」
獣人の理不尽な要求に、瑠璃が即答した。
「チッ。じゃあ行くぞ人間の女。覚悟しろ!!」
獣人が勢いよく走り出す。
瑠璃レベルとまではいかないが、圧倒的な力強さと速度により、足の裏がつくたびに地面がへこんでいく。
「おらぁ!!」
獣人の強烈なパンチを紙一重で躱し、月は相手の顎に左フックを入れた。
「グハッ!?」
「力を入れ過ぎて丸見えですよ?」
続けてボディブロー、左ジャブ、右ストレートのコンビネーションを放つ。
脳が揺れた獣人は一瞬地面に膝をつくも、すぐに立ち上がった。
「くそ、てめぇ! ちょこまかと」
「獣人って本当に硬いんですね。瑠璃さんはこんな相手を瞬殺していたんですか?」
月が振り向いて尋ねた。
「まあな」
「薬を飲んで覚醒していた王様も弄んでましたし。改めて瑠璃さんの人外っぷりを再認識しました」
「なっ、お前ら!? 我々の王をやったのか!」
そんな獣人の問いに、瑠璃は軽く返答。
「おう、殺したぞ」
「嘘をつけ! あの御方が人間風情に負けるはずないだろ」
「まあ別に信じなくてもいいけどさ」
「集中しないと死にますよ?」
いつの間にか相手に近づいていた月が、顎に飛び膝蹴りを入れた。
「グホッ!?」
そのまま倒れた獣人へ馬乗りになり、顔面に連打を入れていく。
「や、やめろぉぉぉ!」
「だんだん体が温まってきましたよ~」
月は相手が失神するまで殴り続けた。




